期末テストが返却された日の放課後。教室で一つの机を挟み銀時とあやめは向き合っていた。
机の上に銀時が並べたテストに踊るのは、お世辞にも良いとは言えない点数ばかり。これにはさすがのあやめも言葉を無くした。
「銀さん…これ…」
「たまたまこん時は本気モードになってなかっただけだから。やっとエンジン温まってきた所でテスト終わっちゃったからね。まいったね、まったくタイミング悪くてテストが」
夏休み前に行われた期末テスト。赤点者は1週間後に再テストを受け、それでも合格点に満たなかった場合は夏休み中に補習授業が待っている。
「数学、48点…英語、25点…世界史、31点…」
「読み上げなくていいから!大好きな銀さんの傷えぐるだけだよ!?」
やべーよ、夏休み消えるよ、と銀時は頭を抱える。その様子を見ていたあやめは顎に手を当てて思案すると、一度小さく頷いた。
「銀さん、勉強しましょう」
「あ?」
「国語は84点だし、生物はギリギリ60点だから…数学・英語・世界史だけならなんとかなるわ」
あやめの言葉に、机に伏せっていた銀時は顔を上げる。
「何とかなるって…何ともならねぇよこんなん。だって見ろよコレ、25点ってお前、半額の半額じゃねーか。どんな閉店セールだコノヤロー。俺の人生も閉店するわ」
「私が銀さんのお手伝いをするわ。だから一緒に頑張りましょう!」
「でもよぅ…」
未だ乗り気ではない様子の銀時に、あやめは言葉に含みを持たせて呟いた。
「この間新しい浴衣とビキニを買ったの…銀さんの為に」
「で?まず俺は何をすりゃいいんだ」
そんなこんなであやめは彼女の権限を活用し、1週間銀時の家に泊まり込みで勉強を教えることにした。その日は一旦家に帰って泊まりに必要な最低限の物だけを準備し、夜再び銀時と合流することになった。
下着や寝間着などをバックに詰め、制服姿のまま右手に通学鞄、そしてバックを斜め掛けして自宅の玄関を出ると、ベスパに跨がった銀時が待っていた。
「え、銀さん、迎えに来てくれたの?」
「んー…、ん」
ポンッとヘルメットを投げて寄越される。態度は素っ気ないものの、あやめは嬉しくなってすぐにそれを被って銀時の後ろに跨がった。
「下もろパンツ?」
「え、うん」
すると銀時はシートの下から自分のジャージを引っ張り出してあやめに渡した。
「穿いて」
「大丈夫よ、暗いし。見えないわ」
「俺が嫌なの」
そう言われては仕方ない。あやめは一旦バイクから降りるとジャージを穿き、再び銀時の背にギュッと抱きついた。
「うし、出すぞ。足気ィつけとけよ」
ゆっくり動き出したバイクに揺られて十数分。住宅街の一角にある小さなアパートが銀時の家だ。彼はここで一人暮らしをしている。
家に入り、まずは軽く夕食を済ませてから早速二人は向かい合って教科書を開いた。最初に開いたのは三科目の中で一番点数が良かった数学。
あやめの勉強プランはこうだ。取りあえず今日は数学をやって肩慣らしをする。明日からは一番点数の低かった英語をメインに勉強し、数学は合間に上手く組み込む。世界史はあやめ手製の暗記カードを活用する。そして毎日小テストを行い、知識の定着を図る――というものだ。
「小テストって…さっちゃんは結構スパルタだなァおい」
「だって、こうでもしないと間に合わないわ」
やるからにはしっかりやる。責任感の強いあやめは銀時より気合いが入っている様子だ。