今日は鬱蒼とした休日。
朝からびちゃびちゃ雨は降るわ、彼女から鬱陶しいメールは来るわ、愛用のお薬は切れるわで災難尽くし。
四肢が冷える。
寝転べば凹凸と傷ばかり付いたフローリングが恨めしげに冷えを伝える。
全くもって無機物は優しい。
あんな所に傷がついてるだとか
あの染み猫みたいだなとか
ああ、この壁紙学生時代の保健室にそっくりだとか
何だか至極どうでもいいようなことに目がつくもんだから、まだ俺生きてるんだとかどうでもいい事に気が付いた。
溜め息 が 白い
人工的な光が 眩しい
昼過ぎまで寝息をたてていたもんだから俺には少し、この眼を射すような光は疎ましく感じられた。
電光。なあ、君は 生きているのかい?
まとわりつくような妙な錯覚を起こし、寝返りを打つ。
自分の熱で少しばかり暖まったフローリングを煩わしく退け壁際にまで転がった。
ひやり、と額に心地好い冷たさ。
お日さんに当たらない生活を過ごして半年かそこら。
毎日瞼は重たいし正常な思考はフリーズ寸前。その上肢体は痩せこけたし皮膚は裂けてばっか。
双眸は相も変わらず鉛色を映し出すし、心臓もバクバクと小五月蝿い。
希望なんて綺麗で残酷なものは生憎持ち合わせておらず、色の無くなった味気無い日々。
代わりにとお医者サマからプレゼントされたオレンジ味のシロップを啜りもう何日だろうか。
幼少期に処方されたような、あのどうにも好きにはなれない甘ったるさが喉元に引っ掛かった。
「うん、不味い。もう一本」
二本目の封を切ったところで、ケータイが振動を伝えてきた。
今時ではないガラパゴスケータイを開き件名を見て失笑。
自分でも面白いぐらいに口角が上がった。
こんなに表情が出たのは珍しい。
二本目のシロップを口腔へ流し込み嚥下。
舌に残った苦味を味わいながらメールを開いた。
『 行かないで 』
はて、なんのことだろう。
頭を捻ったところで答えは浮かばない。
何が「行くな」なのだろうか、大体、先に置いていったのは君の方だろうマイハニーちゃん。
ケータイを閉じる。
ああ、もうそんな頃合いか。
スーツに着替えて髪を整えて薄い髭をそって、それから、それから
「うん、不味い。もう一本」
鉛色の空に敬礼をして、一歩。
彼女にいってきますの挨拶を。
ごく稀に一際自分の存在価値を失う時がある。
なんとも滑稽な話だろう、誰もボクのことなど必要としていないというのに。
自身の驕りに飲み込まれ真っ白な霧に包まれる。
霞む脳内、霞む視界。
何もかもが存在しているのかと疑うほどに感情は乏しく消え虚無感だけが酷く部屋に充満する。
それでも何かを思うように目柱は熱く熱を孕み手足は何かを訴えるように痺れを生む。
なんと滑稽な話だろうか
生きていると見栄を張りたいのか
生き続ければならないと弱音を綴るのか
死に対する考えを浮かばせることなく先のことをしばし目録する
生きたいのか死にたいのか
もうわからないほど真っ白い何かに包まれて
思考が停止しているのか働いているのかも分からなくて全てが曖昧に濁って
なにを思うわけでもなく手を赤く染める
貪欲なほど痛みを欲して
理由などないに等しいというのに、右腕は止まらない
ああ、だからこそボクは
黒よりも白が恐ろしいのか