ありがとうございます!
御礼文その1「あ」(食文)
「あっ!」
「あ?」
パクッ!
「あ゙」
「油断大敵、火がボーボー」
もぐもぐと頬を動かしながら、文次郎は餡を端につけた口に不敵な笑みを浮かべる。
…状況を説明するとこうだ。
俺が饅頭を食べている所に文次郎が現れ、いきなり反対側を指差し大声を出すもんだから釣られてその指の先に顔を向けた途端、俺の手元の饅頭に文次郎が食らいついてきたってわけだ。
お陰で俺の手元に残った饅頭は残り一口。
「ふざけんな、てめぇ、なにすんだ」
「油断するお前が悪い」
ごっくん、と飲みこむ音が聞こえ、俺の腹へ入っていく予定だった饅頭は文次郎の腹の中へ入っていった。
確かに、油断した。文次郎を見た瞬間に、気が緩んだ。それは認める。
しかし、くやしい。
「あっ!」
文次郎がしたように文次郎の後ろの方を指差す。
勿論文次郎は微動だにせず、腕を組んだまま笑う。
「ばーか、同じ手が通用するかと――――っ!?」
笑みを浮かべながら笑う文次郎に顔を近づけ、そのまま文次郎の口元についた餡を舐めとる。
「なっ…てめ…」
「これでおあいこだろ」
「〜〜〜っ!」
真っ赤になって立ちすくむ文次郎の肩をポンと叩き、笑いながらその場を立ち去る。
口では「おあいこ」と言ったが、この様子だと今回は俺の勝ちかな?
残った一欠けらの饅頭を口に放り込み、緩む頬を押さえながら駆け出した。
FIN
ありがとうの「あ」でした。
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