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C初恋中毒 (銀新)

「銀さん……の、生活能力の高さを僕は尊敬します。普段からパチンコばっかり打つし、基本は働かないけど」

小さなスプーンで柔らかな果肉を丁寧に切り分けながら、僕は素直な声を洩らす。本当に銀さんってば宝の持ち腐れを地で行く人だ。やる気になれば何でもできるのに、絶対に自らやろうとしない。自ら進んでやる時はサボりとか、ギャンブルとか、僕に乗っかってきたりとか……あと、自分じゃなく誰かの為。

考えてみれば今もそうだ。誰かの為ならすぐ動けるし、何でもする気概すらあるのに、銀さんってば自分のことになるとてんでダメなんだから。


「最後余計じゃね?てかそこ尊敬されても微妙っつーか」

僕の話を聞いていた銀さんは微妙極まりない顔をしている。でも、僕が心から銀さんを尊敬しているのはもっと別の点だ。だからこそずっと隠しておこうと思う。僕はそれを銀さんに言わないし、言えない。

ただでさえ惚れた弱みもあるんだから、少しでもこっちに有利にしておかなきゃ。




「桃って元々甘いのに、こうやって煮ると尚更甘いですね。さっぱりした甘さから、こっくりした甘さになって」
「果物に糖分多めは基本だからな。砂糖は世界を救う」
「いや、どっちかと言えば銀さんは砂糖に巣食われてる方ですから。まったくもう、過剰な糖分摂取は控えてってアレほど」

甘いデザートを食べながら、テーブルを挟んで何気ない会話をする。繊細な皮から綺麗に果肉を剥がされた桃は火照った身体に心地よく、甘くひんやりした喉越し。どんどん食べられそうな味のコンポートにひとしきり舌鼓を打った。


「……でも、甘くて柔らかくて美味しいです」
「だろ」

素直にパクつく僕に、したり顔で笑う銀さん。
こうやっていつものように居間で食事を摂ってるだけなのに、何となく甘いような雰囲気に満たされている気がするせいか、僕は少しドキドキしていた。柔らかな桃の果肉を齧る僕を見る銀さんの目が、変に鋭い。

「あ、新八」
「!」

すると一瞬の後でひょいっと腰を浮かせた銀さんが、おもむろに僕の隣に座り込んできた。僕の肩を抱き、ぐいっと自分の方に引き寄せて、僕の口の端に親指の腹を当てる。何かを拭われたと気付いたのは、その指を銀さんがペロリと舐めたからだ。

「甘いのついてた」

桃の果汁が付いていただろう舌先を見せ、いたずらに笑う銀さんにドキドキする。変に距離が近くなったせいか、心臓が暴れて落ち着かない。
さっきは散々とんでもないことを言わされ……いや、自分から言っていた僕なのに、身近にある銀さんの顔にはもう狼狽えてしまう。


「ど、どうも」

視線も合わせられずにおろおろと礼を述べると、再び銀さんの指が伸びた。僕の顎を掴んで、自分の方に振り向かせる。

「もっと甘いの発見」
「ひゃっ」

言うなり唇にキスされて、おかしな声をあげてしまった。甘くひんやりした、デザートみたいなキス。
銀さんの肉厚の唇に僕の薄い唇がぷにゅっと潰され、果肉のように甘く蕩ける。


「ん。コレ美味え」
「……ば、ばか」

僕の唇を一回だけ奪った銀さんは、どこかいたずらっ子のような顔をしていた。そしてまた“あの目”で、僕をじっと見つめる。

「バカでいーよ」

甘くて鋭い、その視線。捕らえられた僕を決して逃さない、その眼差し。
気付いた時には、僕はまるで花に引き寄せられる蝶のようにふらふらと靡いて、銀さんからまた自然とキスされていた。甘い味がする銀さんの舌を吸って、吸われて、ちゅっちゅっと何度も角度を変えて唇を食む。

「……こ、こんなことばっかりしてたら、そのうち本当のバカになっちゃいそう……」

唇を触れ合わせたまま囁いて、甘く吐息。
気付けば銀さんの膝にちょこんと乗せられている始末だし、銀さんどころじゃなく、僕だって本当の意味で手に負えない。むしろ二人してバカだ。

「もうなってるなってる。特にお前。肝心なとこでアホだし、そのくせ身体はエロいし」
「ま、また僕のこと小馬鹿にして!銀さんだって!」
「だから俺はバカでいいってば」

ふざけた言葉に僕は怒るけど、銀さんは軽く受け流すだけだった。喚く僕の口目掛けて、スプーンで掬った甘いデザートをいきなり突っ込んでくる。

「ほら。あーん」

無理やり食べさせておいて『あーん』も何もない。でも柔らかい果肉を舌に乗せられ、どこかやらしげにスプーンで口内をちゅくちゅくと掻き回されているうちに、僕はすっかり怒る気力を失っていた。スプーンが引き抜かれて銀さんの舌が突っ込まれてきても、もう抵抗も何もできない。


「ん……んん、」

柔らかく熟れた果肉が二人の舌の間で潰され、とろんと果汁が滲み出る。文字通りに甘いキス。

「……ふあ」


舌先で上顎をくすぐられて、抱えられた腰が変にわななく。身体のどこかがざわりと騒めく。口の中に性感帯があるなんて、銀さんに教えられなければ絶対に知らなかったことだ。
擽られると、身体が反応するポイントがある。僕が身を捩ったり肩を震わせるたび、銀さんはそこばかりを執拗に責めてくるから、次第に思考が濁って頭はぼうっとしてきた。

僕の口の中でぬるぬる緩慢に動く、銀さんの太い舌。さっきと違って余裕たっぷりに僕を味わうくちづけ。僕の味を堪能するみたいな舌の動き。
桃の果汁が唾液と絡んで、甘く追い詰めてくる銀さんの舌で翻弄され、僕をぐずぐずに溶かしていく。




「銀さん……」
「ん?」
「大好き」

だから唇が離れた頃には、すっかりと僕は夢見心地の気分だった。銀さんに全身で絡み付いて、とろんとした眼差しで上を見上げる。まるで水の中にいるかのように視界が潤んで、たゆたっている。銀さんの腕の中はすごく心地良くて、ドキドキするのに、僕をどこまでも安心させる。

でも自分でも意識せず出た愛の言葉は、今度こそ銀さんを顕著に狼狽えさせてしまったようだった。

「……。……お前、それな!?お前のそういうとこがおかしなもん釣れる理由なんだって!!」

はああ、と重々しいため息を吐き、銀さんは忌々しそうに僕の顎を掴む。ぐいと上向かせられ銀さんと視線が絡んだけど、正直僕には銀さんの言っていることがさっぱり分からない。

「は?釣れる?」

したがって目をパチクリさせながら聞き返したけど、銀さんはもう黙って首を振るばかりだった。でも僕に答えてくれない代わりに、敢えて優しく僕の頭を撫でた。

「いいよ、何も気にしなくて。お前は分かんねえままで居て」

そして、蕩けるような声で低く囁いてくる。

こうやって僕から責任を奪って、僕のことを自分の中に閉じ込めておこうとする理由は解せないけれども、生憎と僕にとってのその檻は甘美なものでしかない。
僕から硬い芯をすっかりと奪って、ぐにゃぐにゃの淫らな肉に変える魔法の呪文。


「布団行こ。さっき敷いてきたから」

けれども、ちゅっと額に落とされるキスと共に囁かれた言葉には仰天した。思わず逞しい胸を押し返して、凝然と銀さんの顔を見る。

「きょ、今日はもう嫌だってば」
「嫌じゃないってば」

おいィィィィィィ!!??

ひりつく喉からようやく押し出した拒絶の言葉すら軽く反転され、僕はもはや信じられないと言わんばかりの目で銀さんを見た。あれだけ激しく何回も交わったのに、その上でまだできるっていう銀さんが信じられない。
でもたぶん、そんな風にして軽々とリミッター外すことなんて、これまた銀さんにしか出来ない荒業だろうけど。

「無理です!むり!僕はもう銀さんのタフさについていけないってば!」
「ついていけるって、むしろお前しかついてこれねえ。圧倒的にムッツリすけべなてめーしか。てか俺だけじゃなく、お前も結構性欲強いよな」
「ばっ……し、信じらんない!」

悲痛な声で言い募る僕をよそに、銀さんは淡々と呟く。僕を共犯者然として見やる眼差しでいたずらっぽく笑う。その色っぽいような顔に胸がズキンと疼いて、僕はもう黙ってしまった。ドキドキしてたまらない。

「いい匂い〜。このボディソープ買ったの新八?」

僕の無言を降伏と受け取ったのか、銀さんは悠々と僕を抱いてひょいっと軽く立ち上がる。そのまま僕の首元に鼻を近付けて、くんくん嗅いでいる様は本当のオオカミも顔負けだろう。て言うか往々にして呑気過ぎるしタフ過ぎる、我が家のこのケダモノは。

「もー……」

でも頬を染める僕は文句の一つもつけられず、もう銀さんの好きなようにさせておいた。マーキングさながらに首筋にぐりぐり鼻を擦り付けられつつ、銀さんの腕にしっかりと抱かれて。

「てか軽ッ。お前大丈夫かよ色々。ちゃんと肉食ってんの」

横抱きにしていることで僕の体重をはっきり感じるのか、銀さんはようやく気付いたように呟くけれども、そんな事だってもはや今更の話だ。悔しくなった僕は銀さんの首に手を回しつつ、ツンと頬を逸らして反論に徹する。


「銀さんがマトモにお給料くれたら、お肉だって何だって食べられます。言っとくけど僕は成長期です、食べ盛りなんです。それなのにたび重なる食糧難に喘いでるのは、誰のせいですかね」
「……。可愛くねーな、新八」
「いいです、可愛さなんて僕いらないです」
「また可愛くしてやっからなオイ」

ブツブツ呟く銀さんにこっそり笑って、僕はさっきの銀さんよろしく、その厚い胸にぐりぐりと顔を埋めた。深呼吸して銀さんの匂いを深く堪能する。僕が大好きな匂い。


どこまでも僕をドキドキさせるのに、どこまでも僕を安心させる、銀さんの腕の中。




以前も、今も、この先もずっと──この人だけが僕の大好きな人。








.


B初恋中毒 (銀新)

*





銀さんを待つ間にソファで微睡んでいたのは、時間にすればほんの僅かだった。疲労した身体を横たえてうつらうつらするのが心地よくて、僕は束の間の休息を堪能していた。


「お待たせ〜。ミートソースの缶詰発見したからそれのドリアにしたわ」

そのうち、淡々とした声と共に銀さんが現れる。その言葉に眠りの均衡を破られ、僕はゆるゆると眠い目を擦った。ぱちぱちと瞬きをして、緩慢な仕草でソファの上に起き上がる。

「ありがとうございます。美味しそう……ミートドリアですか?」

ローテーブルの上に次々並べられていく料理を見ながら、ポツリと呟く。ミートソースの缶詰で作ったというベースの上にチーズやらパン粉がかかったドリアは、見た目にも美味しそうな一品だ。いかにも食欲をそそる濃厚な匂いが漂って、ぐーきゅるきゅるとお腹が鳴る。相当の欠食児童っぷりに恥ずかしくもなるが、まさに背に腹は変えられない状況だ。

「さあ。そう言うの?適当に作っただけ。食おうぜ」

ハイ、と真顔でスプーンを手渡してくる銀さんは、多分にこういう料理があるかどうかすらもよく分かってない。発想力のセンスと手際の良さだけで、いつだってちゃっちゃと料理を作れる人だ。
僕がいつも作るのは和食が主だから、したがって万事屋の食卓に並ぶ料理も和食が多い。この手の洋食が出てくるのも珍しい。銀さんがたまぁに気の向いた時だけ作ってくれる特製オムライスは神楽ちゃんも大好きだし、うちの食卓を彩る為にも、大黒柱がもっと本気を見せてくれれば万々歳なんだけど。

それにしても僕だったらレシピと睨めっこしなきゃ作れないものを、勘だけでさらっと作れる銀さんって何なのだろう。不器用な僕に喧嘩売ってんのかな。



「あ、美味しい」

でも、どこか面白くない気持ちを抱えてスプーンを取った筈の僕なのに、一口目にして早くもそんな気持ちはどこかに吹っ飛んでしまった。だって本当に美味しい。美味しい料理を前にずっとツンケンしてられる人なんてそうは居ないだろう。

「銀さんってほんとに器用ですよね。基本は何でもできるし」

僕は料理を堪能しながら、素直に感嘆の声を洩らす。甘味作りの方が得意な銀さんだけど、お料理も上手なんて羨ましいったら。

「まあね〜。伊達にてめえより年食ってねーよ。つか俺が何でもできる訳じゃなくて、てめえが何も出来なさすぎだから。ありえねーだろ。うちに来て相当経つのに、何で未だに洗濯物抱えてすっ転んでんの?何で未だに包丁でザクザク手ェ斬んの?狙っててもできねえな、普通は」

銀さんもスプーンでドリアを崩しながら、これまた淡々と語る。でも、ニンマリした笑みに細められた双眸を仕上げとばかりに向けられ、僕は咄嗟に言葉に詰まってしまった。ずっと気にしてる不器用さをからかわれて、うっと素直に言い淀む。

「ま、またそういう減らず口を。てかそんなに文句言うなら、何で家事を僕ばっかりに押し付けるんですか。ズルいですよ、本当は当番制なのに!」
「いや、それは新八だから」
「理由になってねーよ!僕だから何ですか!」

気付けばまたテーブルを挟んでの小競り合い。でも今度は銀さんも早々に切り上げて、やっぱりまた人を食ったような笑顔を見せる。


「いいんだよ、別に。自分で作った方が数段美味い飯は食えっけど、新八の飯が食いてえんだもん」

『俺がね』。

重ねられた銀さんのセリフに、僕の顔は赤面に次ぐ赤面だ。ぼんっと爆発したような勢いで頬を紅潮させてしまう。
な、何でこの人っていつもこうなのだろう。僕がどうなるかを分かっている上でさらに誑し込んでくる、この手管。

散々に振り回された後で容赦なく撃ち落とされ、僕はもう声も出せなくなった。下を向いて、行儀悪くもカチカチと皿にスプーンをぶつける。せめてもの悔し紛れだ。

「だ、だから……銀さん、やっぱりズルくないですか?」

精一杯振り絞った声も何だか不安定に揺らいで、ときめきに狼狽えているのなんてバレバレだ。だって相手は銀さん。僕の心情なんて、それこそ手のひらで転がすくらいの感覚で自由に操れる。

そうやって顔も上げられずに赤面し果てる僕の上に、

「亀の甲より年の劫〜」

なんて、至極いつも通りの銀さんの声があっさりと降ってくるのは数秒後の話ではあるけども。



.




「……ごちそうさまでした。美味しかったです」

さんざっぱら赤面した食事タイムも終え、僕はふうと息を吐く。途中でドギマギしたり恥ずかしくなったりはしたけれども、ご飯は確実に美味しかった。チーズと混ざった濃厚な味付けのソースは、育ち盛りの僕には特に美味しく思えたし。

「あ、デザートもあんの。さっき同時進行で作ってた」
「え、マジですか。あんな短時間で?」
「マジマジ」

既に食べ終えていた銀さんが、何気なく席を立つ。その言葉に僕は目を見張るけれども、言っているうちに銀さんの背中はさっさと居間から消えていた。

「はい」

そしてすぐ様に戻ってきた銀さんの両の手のひらには、見た目にも涼しげなガラスの器がのっている。中に揺らいでいるのは桃に違いなかった。いかにも柔らかそうに白く熟れた果肉。

「わあ……桃のコンポート?ですか?」
「あ、そう言うの?冷蔵庫にあったから適当に作ってみた」

銀さんの話はさっきとまるきり一緒。適当適当って、それ間違いなく料理が上手な人が言うセリフだよ。

冷蔵庫でよく冷やされていた為か、甘く味付けされた桃はひんやりしていて凄く美味しい。冷やされたことでさらに味が染みたのか、くせになる甘さ。僕が銀さんと神楽ちゃんにただ剥いてあげようと思って買っていた桃が、こうなって出てくるとは驚きだ。
こんな美味しい料理やデザートが作れるなら普段からせっせと作って欲しい。神楽ちゃんなんて絶対に喜ぶのに。……なのに、あの、この人は敢えて不器用な僕の手料理が食べたいって主張するんだから信じられない。


.

A初恋中毒(銀新)


「そうやって俺ばっかり悪いように言うけどよ、てめえの方が俺に絡み付いて離れなかったんだろ?お前凄かったからね、『もっと』だの『出して』だの。お前のリクエスト全部応えてやったんだからな」
「!!……ち、違うもん」

でも、意地悪な笑みと共に上から見下ろされれば、僕は両腕でぎゅうっと自分の身体を抱きしめることしかできない。だって銀さんの言ってることは本当だ。さっきは銀さんもめちゃくちゃに僕を責めてきたけど、当の僕だって銀さんを欲しがって乱れに乱れた。欲しいとせがんで、甘えた声でねだった。銀さんに絡み付いてキスして、蜜のように甘くとろとろに蕩けた。

そんな自分のはしたない姿を思い出して恥ずかしくなり、僕は羞恥に身体を火照らせる。そんな僕を声を出さずに笑い、銀さんは僕の上に大きく屈み込んできた。

「つかお前、もう男なしでは居られねえ身体になってんじゃねーか。オッパイ揉んでやろーかコラ」

ふざけた声で言うなり、僕の身体の下に手を入れ、真っ平らな胸をいきなりぐにっと揉む。僕の薄い胸なんて揉んでも楽しいものではないだろうに、本当に女の人にするみたいなやらしい手つき。
こうやって僕を苛めるのは本当にやめて欲しい。おっぱい揉ませろだの吸わせろだの、本当に、その、この人は僕のことをなんだと。

「だから違いますって!オッパイもないってば!」

僕は真っ赤になってたじろぎ、慌ててその不埒な手を振り払った。けどその途端に銀さんの手が背中を這い、ビクッと肩を震わせてしまう。

「いやいやいや、違わねえから。きっついアソコにブチ込んでもらわねェと、新八はもう前でもイけねーだろ?中弄られてぐりぐりされなきゃ物足んねーよな」
「ひっ」

怯んだ瞬間に今度はお尻を掴まれ、僕は瞠目した。あんまりな言い草に銀さんをきっと睨むけど、銀さんはどこ吹く風だ。しまいにはどこかうっとりした様子で、うたうように囁く。

「こっちの締まり最高だし、肌もすべすべでしっとりしてて抱き心地いいもんな。俺のメス猫ちゃん」

いやらしげにお尻を揉まれて、いよいよ僕の赤面は最高潮だ。本当にこの人は、僕のことを何だと思ってるんだろう。メス猫だの何だのって失礼過ぎやしないか。

でもそのセリフには不思議とデジャビュを感じてしまって、僕は銀さんの手を払いながらも口にする。

「や、止めてください!変な事言わないで!何で銀さんまで高杉さんみたいなことを……」
「え?……何でここで高杉?」

銀さんは僕の言葉に一瞬だけぽかんとして、それから一気に不機嫌そうな顔になった。高杉さんと同列に並べられるのがきっと嫌なのに違いない。件の高杉さんもそうだったのだから。

「だって高杉さんも、僕のことをメス猫だのオンナだの何だのと……ほんとに失礼な人ですよ。信じらんない。てかあんたらはマジで幼馴染みですね。僕は今日ほどそれを痛感したことはないです、何その思考のリンク具合」
「……いや、つか待って、おかしくね?高杉のその思考、おかしくね?え?アイツって女好きだよな、昔っから普通に女好きだったよな。間違ってもホモじゃねーよな」

呆れたようにため息を吐く僕とは対照的に、今度の銀さんはブツブツと言い淀む。顎に指をかけて考え込む仕草なんて名探偵さながらだ。でも僕は今度こそ取り付く島も見せない。

「そんなこと僕に聞かないでください。知りませんよ」
「そりゃてめえなら違和感なく手ェ出せるけど!てか俺もホモじゃねーしな、でもよ、つーことは……」

ツンとして言い放った僕なんてもう構うこともなく、銀さんはまだまだ考え中らしい。そして考えて考えて、熟考し果てた後、ポツリと一言だけ口にした。

「……お前、新八のくせにとんでもなく面倒くせェオス猫釣ってんじゃねーよ。向こうが交尾したがってたらどうすんの?」

あからさまな揶揄を含んだ言い草に、ぼっと頬が燃える。交尾なんて、高杉さんのことも僕のこともまるっきり等しく獣扱い。

いや銀さんがいちばんのケダモノでしょうが!間違いなく!

「だっ、だから知りませんってば!!銀さんのばか!!エロ!」

血が沸騰するままに叫んで、僕はまた慌てて突っ伏しの体勢に戻った。本当に信じられない。て言うか、高杉さんの動向をここまで銀さんが気にしてるのがまず信じられない。絶対に考え過ぎだと思うのに。


僕の懊悩なんて知った事じゃないのか、今度の銀さんはのんびりと言葉を紡いだ。やっぱりと言うべきか、僕のお尻を軽く揉みながら。

「でもさあ。ほんとにどうすんの、こっちの方が気持ちよくなったらもう後戻りできねえって言うよ?」

からかう銀さんの声は甘くて、ちょっと意地悪。
言い様にぽんっと柔肉を叩かれ、僕はきゅっと唇を噛んだ。おずおずと横合いの銀さんを見上げる。

「それは……えっと、銀さんが責任とってくださいよ。僕の身体をこうした責任は銀さんにあります」

潤んだ瞳で言うと、少し驚いた顔をした銀さんと目が合った。僕の言葉が心外だったらしい。

「アレ?それだけでいいの?てめえのことだから、何だかんだとぐちゃぐちゃ面倒くせえこと言い出すんじゃねーかと思ってたけど」
「それだけって言うか……僕には“それだけ”じゃないです。銀さんが……僕のためにって言うのが大事です」

そう、僕の身体が抱かれる為のものに変じていこうが、銀さんがそんな僕を好いてくれるならもう別に構わない。そういう自分の考えに責任を持てるくらいには、僕だってちゃんと男前だ。
僕の発言を聞いた銀さんは少し黙った後、ぐしゃぐしゃっと乱雑に僕の髪をかき混ぜた。いつものようにニッと不敵に笑う。

「じゃあ銀さんの隣りに永住権やるよ。新八くん」

言うなりまた屈んで、僕の額にチュッとキスをした。
不意打ちのキス。

「だからお前も一生かけて責任とってね?俺の初恋、奪った責任」

プロポーズのようでいて脅迫のようでもある、恐ろしいくらいに甘い言葉を屈託なく吐き出しながら。





「ぎっ……銀さんこそ!銀さんこそ、僕の初恋奪ったくせに!」

ドカンと爆発する勢いで叫ぶ僕だけど、銀さんはやっぱり素知らぬ顔だ。僕の頬を愛しげに撫でてから、すっぱりと立ち上がる。

「よしよし。じゃあ何か俺が飯作ってきてやっから。何がいい?っつっても台所にある食料から見繕うだけだから、限定されんだけど」

そして肩をコキコキ回して、おもむろに僕を振り返った。その口調には嫌味なところなんて全くない。疲れ果てている僕にご飯を作らせる気なんて、最初からなかったんだと分かる。やっぱり銀さんは意地悪。僕をからかうし、茶化すし、混ぜっ返すし。

なのに……やっぱり銀さんは、や、優しい?かな?(疑問系になる僕だ)


「限定されてくるなら、何でもいいですよ。僕、好き嫌いないです。銀さんお料理上手だし」

だから僕はふんわり笑って、甘い気持ちで銀さんを見上げた。『一生かけて』とか何とか、さっきはひどく重い鎖で絡め取られた気もするけど、そんな口説き文句は破顔一笑。

よくよく考えれば悪魔の契約である銀さんの甘い言葉を、考えもなしにこくこく頷いて受け入れる僕は……やっぱり銀さんや高杉さんにバカだのアホだの言われる素質が、限りなくあると思う。


.

初恋中毒 (銀新)

今までのまとめ







結局、あの後も何だかんだで僕らは求め合ってしまった。机にソファにと立て続けに致した後、僕の身体を洗うと言う名目で連れ込まれたお風呂でも──以下略の痴態を晒した。
どこもかしこも散々に銀さんから貪られた僕は、もう息も絶え絶えに近い。お風呂上がりのいつもの格好で、居間のいつものソファの上に戻ってきたのはいいけれど、もう到底きちんと座ってなんていられなかった。

情けなくもソファの上にうつ伏せになり、両腕を枕にして突っ伏すという有様で。




「……お腹すいた……」

そして、力なく呟く。
万事屋に戻ってきたのは確かお昼過ぎだった筈なのに、今は既に夕方近い時刻だ。つまり空っぽな胃袋の訴えも何もかも無視して、机だのお風呂だのでさんざっぱら盛っていた僕と銀さん。

……わ、分かっていたけど、十二分に分かってはいたけど、僕ら二人って本当にどうしようもない。ほんとのほんとに。


「確かに。凄え腹減ったわ」

向かいのソファから、銀さんが僕の声に相槌をうつ。
銀さんもお風呂上がりの作務衣姿になっているけれども、既に半死半生の僕とはまるきり違う。僕をひっくり返したり持ち上げたりしてあんなに動いたのに、疲れた様子なんて微塵もない。今も平然とした様子で真向かいのソファにどっかり座って、脚を組み、いつものようにジャンプなんて捲っている。そしてチラとジャンプから目を上げるなり、ソファに弛緩している僕に視線を寄越してきた。

「新八ィ、お前何か作ってこいよ。んなとこでこれ見よがしにくたばってんじゃねーよ」
「……は!?『何か作ってこい』って何!?どの口が言いますか!だいたい僕がここまでダウンしてんのは誰のせいだと思ってるんですか!」
「あ。やば、ヤブヘビ」

当然ながら、銀さんのこの発言にはカチンときた。僕は突っ伏していた顔を起こし、キャンキャンと吼えたてる。すると銀さんは慌ててジャンプで顔を隠して、素知らぬふりに舞い戻るだけだ。ムカつくったらない。僕をここまでコテンパンにしたのは銀さんでしかないのに、その銀さんなんて心なしか肌ツヤも良く、イキイキとさえしているのは何故か。


「ううう……銀さんのばか。今日はもう絶対仰向けに寝れない……お尻いたい……」

だから僕は力なく呻き、また突っ伏しの姿勢に戻った。さっきまで散々に突っ込まれていたところがまだじんじんと熱くて、迂闊に仰向けになんて絶対なれない。

そんな風にしんどい様子の僕を見て、あー、と銀さんが間の抜けたような声を放つ。いかにもバツが悪そうに頭を掻きながら。

「だからホラ、それは俺も反省してるって。ごめんって、久々なのにちょっとガツガツやり過ぎたよな。マジ悪かったって」
「ちょっとどころじゃねーよ!?とんでもなくガツガツやられましたよ!僕のお尻壊れちゃったらどうしてくれんですか!」
「あん?そうなったらいい肛門科に連れてってやるよ。大丈夫だ、腕は確かなとこだよ?長谷川さんからの紹介っつーことで」
「おいィィィィィィ!!??他人事だと思って!そ、そんなとこお医者さんに見せなきゃいけなくなったら、僕は死にます!舌噛んで死にます!てか何で長谷川さんだよ、中年男性からの紹介が無駄にリアルだよ!」
「んなくだらねー事で死ぬバカがいるか!だからてめえはバカだっつーの!俺が責任取って付き添って行くからいいだろ!俺のせいでこうなりました、って医者には懇々と説明してやっから!俺が悪いんですって平身低頭謝っとくから!」
「いやそっちの方が無理だろうがァァァ!!何が悲しくて男二人でそんなとこ行かなきゃダメなの!?僕に付き添ってる銀さんの存在で全てを悟られるわ!誰の何を突っ込まれて僕のお尻が痛んだのか、黙ってても全部が全部悟られるっつーの!何でそんなハードモード通り越してナイトメアモードの人生突き進まなきゃダメなんですか!」


しばらく続くは、ローテーブルを挟んでのギャーギャーと小汚い罵り合い。でも僕は羞恥で頬を赤く染めているのに、銀さんはやっぱり平然としているのが割りに合わない。何でこの人、こんなにも悪びれないのだろう。
銀さんだからか。銀さんだからなのか。


さんざっぱら言い合った後、よっこらしょとばかりに銀さんが立ち上がるのが見えた。テーブルを回り込んで僕の側に近づき、今の僕の寄り辺であるソファにどかっと腰を下ろす。そして突っ伏している僕の黒髪に手を入れ、さらさらと梳るようにして何気なく撫でた。
長い指で軽く髪を梳かれるのが心地良い。情事に慣れた甘い仕草。

そんな銀さんの手にはやっぱり簡単にほだされて、僕はおずおずと横を向いた。


.

ご紹介= (高新)



新八くんが高杉さんを銀さんに紹介する時(高新):


「銀さん、この人です。僕……高杉さんとお付き合いしてるんです」

などと照れた表情の新八くんが、寄り添うどころかもう全力で甘える感じで晋助の片腕にぶら下がって現れましたら、たぶん銀さんは一瞬だけピシィッて硬直して石になり、次にはもうわなわなと肩を震わせながら、

「……は!?はあああ!?何でだよ、何でコイツ、つか何で男なんだよ!まだ女なら納得できたわ!てか俺の努力何!延々と我慢してた俺の努力何ィィィィィィ!!??」

って、もう色々感極まって叫び果てていることと思います(そして新八くんは意味がよく分かっていない)
そしてドヤ顔の晋助に、

「フン。馬鹿が。てめえが保護者ヅラしてる間にどれだけの事があったと思ってやがる」

などと高飛車に言い放たれ、もしかしてあの時もあの時も、新八があの日休んだ理由ってもしかして、でけえ虫刺されの痕みたいなのが首筋についてた理由ってもしかして(ブツブツ)などと考え込み、鬼気迫る表情を通り越して最後は怖いほどの無表情になり、晋助に死んだ魚の目を向け、

「……あ、そうだ殺そう。コイツ今殺そう(スッ)」(木刀抜き放ち)

ってもう銀さんヤンデレか!!(ヤンデレです)
新八くんを寝取られたと思ったら即座に闇落ちとか金魂篇かよ、大好き過ぎるわ!てかたとえ高新でも、銀さんは新八くんが好きだからな〜。一度それでブチ切れて新八くんのことをレイプしてたので(underですね)、銀さんの取り扱いは厳重注意!!ですね〜

いちばん危険ね。ある意味晋助より危険。

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