老人ホームに入所した父は、クルマ椅子のままだが、何不自由無く暮らしているように見える



空調の整った部屋



毎日朝、昼、夕、同じ時間に出される栄養バランスのとれた食事



優しい介護スタッフによるリハビリ



「あんた、良かねぇ。ここなら安心だし、話し相手もたくさんいるし」



母が言うと父は、



「うん、ここはいい所だ」



と、答える



これは本心ではない



老人ホームは家からも近く、市内に住む父の弟妹も気軽に訪れる



父もそんな時は楽しいひとときを過ごすのだろう



だが、夜になれば一人



楽しい時間を過ごすほど、音のない夜は寂しいに違いない



母には直接言わないが、父の弟妹が母に教えてくれた



施設を後にする弟妹に、父ははっきり言うそうだ




「おーい、おーい、、俺も連れて行ってくれぇぇ、」



父が望んでいるのは‘ホーム’ではなく、‘家族’という家なのである