今日も今日とて、俺は間抜け役に徹している。
「おまえの頭の中はどーなってんだ!」
「だ、だって〜
」
「ハイハイ、のしん、落ち着こうね〜。何の騒ぎ?」
「井上くんっ」
俺を見て、慌てて俺の後ろに隠れる彼女の頭を俺は優しく撫でてあげる。
「よしよし、のしんがいじめたのかな〜?可哀相にね〜」
「い〜の〜う〜え〜!」
わっかりやすい…。
俺が彼女に触れたから、だろ?さっきよりさらに怒りのこもった声。
はぁ。ほんとお前、バレバレ。
俺みたいに気持ちを隠せとはいわないけど…さ。もう少し、余裕みせろよ、ほんと。
付け込む隙、ありまくりだぜ。
…ま、俺はそんなこと、しないけど。
「で?何の騒ぎ?何怒ってたの、のしん。」
「いいからこれ見ろ!」
突き付けられた一枚の紙を受け取れば、彼女があわてふためく。
「やだやだやだ、井上くんやめてー!」
「何?」
俺がその紙に目をおとせば、彼女は顔を両手で被って俯いた。
「…。
あなたのハートをねらいうち?
一緒にいるだけでハッピーハッピー?
乙女のときめきメモリアル?
…なにこれ?」
他にも、口に出すのも恥ずかしい、おかしな単語や文が並んでいた。
憤慨したようすののしんは彼女を睨みながらはっきり言い放つ。
「コイツが考えた、歌詞だ!」
「はぁ!?」
「この前お前にも聞かせただろ、俺が作ったあの曲に、こいつはこの歌詞を!こんなふざけた歌詞をぉぉぉぉぉぉ!!!!」
かなりエキサイトしている様子ののしん。
「だから、わたしじゃダメだって言ったのに〜」
「のしん、彼女素人なんだから、しかたないって」
とか思いながら、さすがにこれは…と心中でこっそり呟いた。
「いいか、これは俺が、この天才ボーカリストハリー様が、お前のために作った曲なんだぞ?もっと気合いいれろ!」
「あう…」
「まさか、のしん、この曲ライブとかでやる気?」
「ったりめーだ!」
『ええええ!?』
俺と彼女の声が綺麗にハモったから、また機嫌が悪くなった様子ののしんが、胸を張る。
「俺の作った名曲を埋もれさせるのは勿体ねぇだろ!」
「でも、わ、わたし…」
困る彼女を庇おうと、俺が声を出そうとした瞬間。
「どんなに時間がかかってもいいからさ。
書いてくれよ。
お前の…気持ち…さ。」
照れながら顔を背けて言うのしんに、彼女の顔がパッと輝いた。
おいおい…。
「うん!」
「で、でも、これは却下だかんな!」(ビリビリ)
「いやん…」
二人、話すのを聞きながら肩をすくめた。
あーあ。こうしてまたバカップルぶりを見せ付けられることになるんだよな。
関わらないのが1番なんだけど…やっぱり、近くにいたいんだよね。
大事な、素敵な
二人の1番近くに、さ。
この特等席は、誰にも譲れない。
1周年記念ノベルが思いのほか良い評判をいただいてるんで書いてみました、その後みたいな感じです(笑)
たくさん感想くださってありがとうございます!