話題:童話仙台市青葉区熊ヶ根らしきワラ
2020/11/25 00:01
話題:童話
マツモとくま
まずは何から話すべきかは思いつかない。確かに最近ではあるがけものの被害があるとは聞いた夜のことだらう。青白くやわらかな焔は次郎の頬の傷を映し照らした
私の住む所は熊ヶ根といい少し先に行けば平家の落人だのの話がある地域である。私は最近越して来たばかりなので詳しくはわからないのだがここらも少しは熊が出るだらう
空には唐鋤星や天狼が見える夜のことである
たしかに熊があすこにいたそうだよあの崖を上ってきて顔を出したそうだ、あすこから人間が落ちたらどんなに頑丈な蜘蛛の巣があったとしても引き上げることはできないだらうと○○○○は言った
夏に探検しにいったんだ○○○は目を輝かせて言った。小さな沢が流れて下の方にいけば湧水も出ているだらう。いままでいろいろな場所の青葉が沢を下る船のように○○○の心を運んで行った
太い幹を簡単に折る大男が木馬に乗って空を駆けるのだそんな想像をしていると囲炉裏から乾いた枝が燃えたパチリとした音が聞こえて我に返った
○○○○○は何事もなかったやうに話をつづけた。たしか生まれたばかりの熊でないようだ四、五年くらいの熊だらうな
何があったわけではないが二人は急に黙ったまま焔を見ていた
三度呼吸をするくらいであったがそれは長く長く感じ、外は吹雪いているのか戸はガタガタといい栗でも撒き散らしたような音も聞こえていた
「熊が出てきて困らせるさうだ」
この地域だけではないが方々でそんな話を伝え聞いている
猟師の次郎は犬のシロと真っ白な雪の中を歩いていた
きっと熊もいま頃は熊穴で眠り春にはきっと子熊と出てくるだらうな
次郎はもうすでに自分の記憶からは消えてしまった母親の温もりを思いだし鉄砲の引き金を引いた
次郎は大きな幹にもたれ声を聞いた
「おれは生きるためにお前を殺した、お前は殺したくもない俺に銃を向けて暮らしている。生業といえばそれまでだがお前は俺の腹を割き毛皮を取るのだ、おれはお前が憎かったそう思わなければおれはお前を殺せなかった、いいかおれはな生きるためにお前を殺したのだ」
次郎の目の前にはルビーのような赤星が見えた、どうしたシロ、もしかしたら俺は死んだのではないだらうか、しかし痛みもなにもない崖を上っていく若い熊に次郎は言った
「おまえの話を聞いてから一日とは経っていないのにこのざまだ、しかしな俺はお前を憎んではいないぞ、次に生まれて来てもお前は熊だし俺は猟師だ、お前を殺すのは俺で次に殺されるのはお前だ、ただこれだけは言っておく、遊びに出てきたお前を殺すのも俺だって忍びない、しかしな誰かが殺さねばならぬのだ、おまえがもし誰かを傷つけたのならお前は悪さをしたということで悪者で殺される、俺はお前を真っ白なままで山に返すのだ、次はここに出てくるんではねえぞ」
確かに引き金を引いたが
次郎の目にはオリオンの三ツ星も蠍星もすでに見えなかった
次郎は大きな緑の棺に入れられ川を下った、そして目には見えなかったが皮膚で青葉や若葉の中を熊たちが送るのが見えた、次郎はその中に次郎を見つめるシロを見つけた、シロ、生きていたんだな、なんだ熊たちと仲良くなったのか
それは良かった、次はいつ会えるかな
天上には冬の星座が煌めき
胸に銃を抱え動かなくなった次郎の手には青白い昴が握られていた
まるで熊たちと次郎が離れ離れになった距離を取り戻したかのやうに
そして蠍星は冷たく天狼は何かを焦がすやうに今日もなにかを見つめています
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イイカモー
★いいから笑
出演
松本次郎
演出、大石やきいも
愛犬四郎(松本さんの小学生の頃の愛犬シロ)
ワラ