スポンサーサイト



この広告は30日以上更新がないブログに表示されます。

創作

以下、外部サイト。

クァルナルフの街
黒髪のリュカ

エリジウム

エリジウム観た。
いつも通りの仕事帰りのレイトショー。客はまばら。ZDTのときは自分含めて二、三人しかおらず、かたやゾロゾロ入ってく隣のプリキュアに気分がひどく萎えたもんだ。

監督は「第9地区」と同じひと。出演者はマッド・デイモンとジョディ・フォスター(老けた!)、それと凶演シャールト・コプリー。物語はお約束ハリウッドでなく、「第9地区」同様に格差社会を痛烈に皮肉った内容になっている。SF云々というより社会派ドラマ。観たあとに「どこがどうの」と騒ぐより、一人になってしばらく思案に耽けたくなる感じ。

てっきりマッド・デイモンの外骨格サイボーグVSエリジウムを守るロボット軍団のバトルアクションを想像していたのだけれど、実際は全然違った。軌道衛星上に浮かぶ宇宙コロニー「エリジウム」を要とする人類の科学技術はあくまで技術の域を出ず、人類に味方するでもなければ敵となるわけでもなく、あくまで中立なテクノロジーとしての役割しか与えられていない。

ではこの映画における
正義は?悪は?テーマは?

「第9地区」と同じく、イイ意味で期待を裏切られた。

名前忘れてしまった…

先日は師匠と恒例の宅飲み。ありがたくも人生初となるシャンパンをいただいたワケだが、飲んでみて初めてスパークリングワインの一種だと知る。散々小説じゃ「黄金色の輝き…」とか「細かい泡が…」とか書いてたくせにそんなコトも知らなかった。
 
「フルーティで飲みやすい上品な口当たりと、天然の炭酸ガスによる刺激的な喉越しのマリアージュ。ほどよい辛口で肉料理によく合う逸品でしたねえ」

ま、肉料理っつても豚の角煮にヤキトリとフライドチキンだけどナ。胡散臭い感想で恐縮ですが、師匠大変おいしゅうございました。寒くなってくるので、次はぜひ鍋にしませう。

押しかけついでに伊藤氏の「虐殺器官」と「ハーモニー」を押し付けてきた。願わくば創作の助けになりますよう……

あー、てゆかあのシャンパンの名前が思い出せない。

画家と少女4

 
 ちいさなその指が絵をなぞっている。黄色い向日葵の花。その花弁の一枚一枚を、少女は愛でるようになぞっていた。時にはそっと口付けるように、また時には力強く爪を立てるように。
 その指先の動きが絵筆の筆先のそれだとわたしが気付いたのは、赤毛の少女が「アガー・ゴーリー」に通うようになってから何日か経ったときだった。

 最初は単に画集を眺めているだけかと思っていた。ページを捲っては、また表紙を開く。その繰り返し。よく飽きないものだと感心してしまう。子供はどうして、ああもひとつのコトに夢中になれるのだろう、と。けれど、わたし自身に覚えがないわけでもない。思い返せば自分も、提督館のカウンターに所狭しと並べられた酒瓶を、いつまでも飽くことなく眺めていたものだ。大小さまざまな酒のボトル。中身の色も貼り付けられたラベルも全てが違う。それらに好き勝手に名前を付けていくのが、幼い頃のわたしの一人遊びだった。

「火酒は竜の舌、蜂蜜酒はラケルおばさん。白ワインはうたたね子羊……」

 昼下がり、ちょっとウトウトし始めた頃合を見計らうように、来客を知らせるベルを鳴る。礼儀正しくちょこんと頭を下げて、はにかんだ笑顔で今日も赤毛の少女はやってきた。

「こんにちわ!」

「はい、こんにちわ」

 わたしは日の当たる窓辺に彼女を誘う。そこに置かれた一脚の小さな木椅子も、今やすっかり赤毛の少女の特等席になりつつある。ありがとうございますと、これまた律儀に彼女が頭を下げるものだから、わたしも負けずに仰々しくスカートの裾を摘んでやったりした。

「どうぞ、ごゆっくり」

 それからしばらく赤毛の少女の横顔を眺めて過ごす。真剣な表情。絵筆を模した指先の動き。あの娘は趣味で絵を描いているのだろうか。
 ちいさなその指が絵をなぞっている。黄色い向日葵の花。その花弁の一枚一枚を、少女は愛でるようになぞっていた。時にはそっと口付けるように、また時には力強く爪を立てるように――。

 わたしはいつからか、彼女が来るのを心待ちにしていた。お互いに交わす言葉は少ないのに、二人の間に流れる空気はむず痒く、なんだかどきどきして、それでいて心地よい。まるで、新しく遊び仲間に入れてもらうときのような気持ち。話しかけたいのに、その切欠が見つからないもどかしさ。
 けれど、案ずることなかれ。今日のわたしには心強い味方がいる。じきに焼き上がるはずだ。  


 * * *

画家と少女3

 夕べ仕事が終わったあと、わたしはあの本について聞いてみた。アガーおじさん曰く、リムス金貨三枚という値段に間違いはなく、かなり名の知れた画家の作品だという。わたしはそんな画家の名前は聞いたことがなかったが、その「彼」がみずから署名を残した画集は世界にふたつとなく、あの一冊の価値をさらに高めているらしい。
 確かに自分もあの絵には心を奪われた。それでもたかが署名ひとつで価値が跳ね上がるという感覚が、わたしにはよく理解できなかった。

――リュカなら解るのかな。

 あの日わたしが捨ててしまった古いナイフ。刃も途中から折れていたし、錆だらけでどうせ使わないだろうと言うわたしに、リュカはどこかの刀匠の名を挙げて激怒した。お前にこれの価値が解るのか、と。
 売り言葉に買い言葉。取っ組み合いの喧嘩のあげく、あれからわたしとリュカは一言も口を聞いていない。解るはずもないのだ。所詮わたしは学のない娘なのだから。

 翌日、朝から同僚のマルタが「アガー・ゴーリー」に遊びに来た。彼女が差し入れに持ってきてくれた木苺のタルトはもう絶品で、わたしたちはたっぷりとお茶の時間を楽しんだ。幸い来客もなく、せっかくなので昼食も一緒にとる。朝のうちに買っておいたパンと、かき卵のスープ。ヒヨコ豆のサラダとチーズをたっぷりと乗せたラザニア。提督館でも人気のニーチェ特製メニューだ。さすがに仕事中ゆえ酒は控えたが、わたしたちは大いに舌鼓を打ち、始終下らないお喋りに花を咲かせた。

「それじゃ、店番頑張って!」

 帰るマルタを名残惜しげに送り出すと、誰もいない店にまた一抹の寂しさが戻ってくる。自然と漏れるため息。店じまいまでしばらくは退屈な時間との戦いだ。仕事とはいえどうにも気だるい。わたしはなるべくのんびりと食事の後片付けをした。父さんに今の姿を見られたら、きっと派手に引っぱたかれることだろう。
 そうして無駄にカウンターと台所を行き来しているうちに、ふとわたしは昨日の画集をカウンターに置き忘れたままだと気付いた。

「この、ミミズが這ったようなサインさえなきゃあの娘だって……」

 白い表紙の画集。表紙の隅に見つけた例の画家の署名はとても小さく、おまけに字が下手くそだった。わたしはさっきまでの楽しいひとときを台無しにされたような気がして、本を乱暴に本棚に突っ込んだ。
 ひょっとしたら、あの娘だっていつか買うこともできたかも知れないのに。いっそのこと、どこか破れたり痛んだりして価値が下がってしまえばいい。

 からん、からん。

 小気味良いベルの音。お客さんだ。わたしは気持ちを切り替えて、鏡の前でいつものニーチェ・アンシリーの笑顔を作る。よろしい。今日もとびきりの美人だ。 

「いらっしゃいませー……って、あら」

 意外な人物がそこに居た。もう会うことも叶わないだろうと思っていたのに、わたしたちの再会は思いの他、早く訪れた。あの赤いおさげ髪の女の子が、昨日と同じように所在無さげに立っているではないか。

「こんにちは」

「……こんにちは」

 わたしから目を逸らし、少女はもじもじと肩を揺らす。今日は何の用だろう? わたしは彼女の目線まで腰を屈めた。しばしの逡巡のすえ、赤毛の女の子は意を決したように顔を上げると、わたしの前に小さな皮袋を差し出した。

「あ、あの! これじゃ全然足りないのあたしも分かってます。でも、あと一回だけでいいんです。このお金で本を見せてもらうのは、ダメですか……?」

 真剣な眼差し。一体何が彼女をそうさせるのか、わたしには解らない。「アガー・ゴーリー」の客のほとんどは立ち読みだ。もちろんまともな客もいる。けれど多くの人間は暇潰しを目的に居座ったあげく、本を元の棚に戻しもせずに帰っていく。
 だというのに馬鹿な娘だ。わざわざお金を払って立ち読みの許しを請うなど。愚かで、いじらしくて、可愛らしくて仕方ない。わたしは少女を抱きすくめたくなる衝動を必死に堪えた。

「……お金なんていらないわ。好きなだけ見ていっていいのよ」

 花を咲かせたような赤毛の女の子の笑顔。何故か、あの一ページ目の黄色い向日葵が目に浮かんだ。ああ、そうかと頷くわたし。銘入りのナイフも、世界に唯一冊の画集の価値も自分には解らなかった。けれど今ならば、なんとなく頷ける気がする。少女の笑顔。この笑顔にはきっと、リムス金貨以上の価値がある。    

  
 * * *
続きを読む
前の記事へ 次の記事へ