「好き」と言われるたび、
罪悪感を感じずにはいられなかった。
何度想いを、言葉で、態度で伝えてくれたのだろう。
そのたびに、泣きたくなったんです。
申し訳なくて、そんな価値…俺にはなくて…
こんなバケモノ付きの自分を、
いつ消えてしまうか分からない自分を…
ごめんなさい、ごめんなさい…
こんな形でしか貴方を解放する術を知らないんです。
恩を仇で返してしまう自分を…
許してくれとは言いません…
俺のことなんか、忘れて下さい。
全て、忘れて…
新しい幸せを見つけて下さい…
それが、俺の願い…
『ワスレナグサ』
星が瞬く夜空を見上げ、肩を並べる少年が2人。
うずまきナルトと、うちはサスケだ。
2人は里公認のカップルだった。
あの、うちはサスケがナルトの前だととても穏やかな空気を放つ。
付き合い出した頃は、同期の者たちやサスケを知っている者たちは驚愕した。
あんな穏やかに笑うサスケを見たことがあっただろうかと…
誰だったか、「お前、誰だよ…」と、思わず突っ込んでいたのが懐かしい。
ナルトもまた、笑顔が眩しいほど輝いていた。
とても幸せそうに笑うナルトを微笑ましく思った。
幸せそうだった。
ずっと、2人の仲が続くだろうと、誰もが 思っていた。
しかし、それはナルトのある一言で全て、崩れていった。
「…別れようってば」
ナルトは夜空に向けていた視線をサスケに移し、しっかりとした口調で告げた。
「…何、ふざけたこと言ってやがる…」
サスケは冗談だと思ったらしく、それでも、ナルトの口からそんなことを言われて不機嫌になった。
だが、ナルトの真っ直ぐな視線に、サスケは嫌な予感がよぎる。
「冗談じゃないってばよ」
ナルトが本気なのだと、悟ったサスケは、戸惑いからか、かすかに声が震える。
「…何故?」
ぶつかる視線に思わず、ナルトはそらした。サスケの視線に耐えられなかったのか、心なしか表情が曇る。
それを引き金にサスケは、ナルトの肩を掴み、自分に視線を向けさせた。
「何がっ、何が原因で…」
悲痛な表情のサスケにナルトは胸が締め付けられた。
「…サスケは悪くないってばよ」
俯きながら、小さい声で呟く。
(ゴメン、ゴメンってば…)
「俺が、冷めた…ただそれだけなんだ」
やっと顔を上げたナルトの瞳には迷いがなくなっていた。
「冷めたって…」
(ゴメン、サスケ…ゴメン…)
何度も何度も、心の中で謝った。
(分かってたはずだ…こんな日が来ることを)
俺ってば、馬鹿だ…
分かってたはずなのに…
サスケを、好きになっちまった…
数日前、綱手に呼び出されたナルトは、火影邸へと来ていた。
「ナルト、よく来たな」
部屋にはナルトと綱手の2人しかいない。
綱手はナルトを招き入れると、机を挟みナルトに座るよう言った。
ナルトも素直に従い、腰をかける。
「で、話しって何だってばよ?」
早速本題に入ろうと、ナルトは綱手に催促する。
綱手は少し間を置くと、閉ざしていた口を開いた。
「…お前の処分が決まった」
「そう…で、俺はどうなるってばよ?」
「3日後、お前は幽閉されることになった…」
綱手の言葉にナルトの表情がふと和らぐ。
「…そっか…幽閉ってことは、どんな形であれ、生きることを許された」
ナルトは綱手に笑いかけながら言葉を繋ぐ。
「ありがとう、綱手のばぁちゃん…よく、死刑だった判決を覆したってばね」
「止めてくれ、私は火影であるのにも関わらず、処分を取り消すことすら出来なかったっ…!」
自分の不甲斐なさに綱手の拳が微かにふるえる。
そんな綱手にナルトは首を振って否定した。
「しょうがないってば、俺は九尾付きなんだ…」
里の人間が恐れるのは当たり前、さっきも言ったけど、どんな形でさえ生きる事を許されたんだ…俺は幸せだってば。
綱手に言い聞かせるように、ナルトは微笑みながら告げる。
綱手をこれ以上苦しめない為にも、ナルトは言葉を、思いを惜しみなく伝えた。
「っ…」
…ナルトは既に諦めているのか…?自由である事すら、人として当たり前なずなのに…全て受け入れて、溜め込んで…こんな私ですら許そうと言うのか…?
本当に不甲斐ない…っ何が火影だ、何が元三忍だっ!…結局、一番幸せであって欲しいこの子を救う事すら出来ないじゃないか…っ!
苦渋の表情の綱手を見てナルトもまた悲しい表情をする。
俺はやっぱり、大切な人達ですら幸せに出来ないのかな…笑っていて欲しいのに、悲しませてばっかりだってば…
「ごめんっばよ、ばぁちゃん…」
「っお前が!…お前が、謝る事じゃないだろ?!」
力無く首を振る。悪いのは自分なんだと、態度で示す。これ以上この優しい大切な人を悲しませない為にも。
「ナルト…あたしはどうすればいい?お前にしてやれる事はないかい?」
せめてもの罪滅ぼしだと言わんばかりに、綱手は問いかける。
「ばぁちゃん…一つだけ、お願いしたい事があるってば」
「何だ?言ってみろ」
「 」
真剣な表示のナルトが口にした願いは、とても悲しい願いだった。