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君の手で終わらせて欲しい


頬にぽたりと雫が落ちた。赤いそれは、行き場を失って首筋へと垂れる。二つの穴は今しがた穿たれたばかりなのに、既に塞がりつつあった。青年はだるそうに起き上がろうとするが、眩暈を起こして再びベッドへと倒れ込む。掠れた謝罪の声が頭上から降った。

「……ごめん」
「…泣きそうな顔」
「………、ごめん」


抑えられない生への衝動に一番絶望しているのは彼自身なのだと、気付いたのはいつのことだったか。素直にそんな彼のことを寂しいと思った。それが和らげてあげたいという気持ちに変わったのは、随分遠い日のことだったように思う。腕を伸ばして、頬を撫でた。視線が合う。そっと頬にキスが落とされた。

「好きなんだ」
「知ってる」
「…お前が、俺のことを恨んでいても」
「……バカだな、お前は」

震えた腕できつく抱き締められて、ロイズは小さく笑った。背中に腕を回して、あやすように撫でてやる。少し身体が離されたかと思うと、青と緑の瞳と視線がかち合った。

「いつか、」
「……ああ」

それ以上の言葉は必要ないと言わんばかりに、ロイズの瞳が閉じられる。もう幾度となく聞いた言葉だった。



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沈みゆく私の音を



「ユーロさんいる?」

からん、と明るい音を響かせるベルが来客を告げる。小気味の良い音とは裏腹に、店にやってきた人物の表情は優れなかった。つい先日も店長に呼び出されたとか何とかで来た女の子だ。アルバイトの女の子たちはにこやかに出迎え、アヤちゃんいらっしゃい、と彼女の名前を呟いた。
しかしどうやら様子がおかしい。酷く狼狽えている表情に何かあったのかと首を傾げていると、誰かが連れてきたであろう、店長が奥から現れた。ほぼそれと同時に彼女は店長のエプロンを掴み、何事かを呟く。カウンターの中では何と言ったのかまでは聞こえなかった。彼女の言葉に頷くと、後はよろしく、と店長は真剣な表情で振り返る。一瞬、視線が合ったような気がして、呼吸が止まった。


どうやら2人はそのまま階上へ行ったらしく、先ほどのことなんてなかったかのように落ち着いた時間が戻った。一体何の話をしているんだろう。想像はどんどん悪い方に進んでいく。紅茶を入れようと戸棚のカップに手を伸ばすが、手元が狂って落としてしまう。が、床に落ちるすれすれで何とか指に引っ掻けることに成功した。安堵の溜息をつくと、不思議そうな顔をしたルカちゃんがこちらを見る。

「クレアくん…、どうかしたの?」
「あ、いや、大丈夫。ごめんね」

そっか、と小さく呟くと彼女は再び自分の持ち場に戻ったようだった。仕事に集中しなくては。そう思えば思うほど、暗い考えに囚われる。それを振り切るように、ぎゅっと唇を噛んだ。




バイトからの帰り道、ぼんやりと丘に登り、ベンチから空を見上げる。月を雲が覆い隠して、鈍い光が広がっていた。まるで自分の心のようだ。

「……はぁ、だめだな、僕は」

ぽつりと、口をついて言葉が零れていた。諦めなくてはいけないのに縋って、もう大丈夫だと自分に言い聞かせている。簡単に断ち切れる想いなら、最初から告げてなどいない。どうしたらいいのか、どうすべきなのか。答えなんか見つからないまま、そっと立ち上がった。




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