今日、バイトの帰り、駅の階段を上っていたらキノコが落ちていました。
なぜこんなところにキノコ?
と思ったうち。
いや、誰もが当然考えるはずです!
で、考えた結果、一つのお話ができました。
夢も希望も見えない、そんな日常を送る佐藤敏夫(22歳、無職)。
親のお金で生き、食べ、暮らしている。
そんな自分に嫌気がさす。
だが、どうにもできない自分がいる。
働く力もない、強い意志もない、外に出る勇気すらもない。
嗚呼、あの時の夢って、何だっけな……
そんな佐藤敏夫(22歳、無職)は、ある日勇気を振り絞って、近くのスーパーを訪れた。
へぇ、いろんな物が売ってるんだ…
スーパーの隅を怯えながら歩く佐藤敏夫(22歳、無職)。
しかしそんな彼の目に飛び込んで来た一つの影。
それは……
1UPキノコだ!!!
佐藤敏夫(22歳、無職)は目を輝かせ、叫んだ。
その声は、スーパー中に響いたに違いない。
振り向く主婦、怪しむ店員。
そんな冷たい目線にも気付かず、佐藤敏夫(22歳、無職)は目の前にあるキノコに夢中になっていた。
これを買えば、これを食せば、自分は強くなれる。1UPする…!
佐藤敏夫(22歳、無職)は直ぐさまそれを手に取り、レジへと持って行った。
レジを打つパートのおばちゃんが、「…ぃ…けが1点」と言っていたが、佐藤敏夫(22歳、無職)は気にしなかった。
一刻も早く食べたかった。
無事、1UPキノコを購入した佐藤敏夫(22歳、無職)は思いついた。
少し、遠出をしてみようかな。
強気の佐藤敏夫(22歳、無職)は、今まで考えもつかなかった事を考え、何年ぶりかの電車にて遠出をする事に決めた。
自分にはこの1UPキノコがある。
怖いものなど何もない。
颯爽と改札をくぐり、ホームへの階段を駆け上がる。
ふぅ、と一息。
佐藤敏夫(22歳、無職)は、手に持つ1UPキノコに目をやった。
そろそろ、食べようかな。
スーパーで買ってから食べたい衝動を抑えていたが、遂に我慢出来なくなった佐藤敏夫(22歳、無職)は、直ぐさま1UPキノコを包むビニールを剥がした。
ちなみにそのビニールには、「椎茸」と書かれたシールが貼ってあったが、長年自室に篭り、ろくな勉強もしていなかった佐藤敏夫(22歳、無職)は気にする事をしなかった。
これで、1UP…
欲望のままに、食べた。
思っていたより、深みのある和の味だ。
いわゆるジャパニーズテイストだな。
佐藤敏夫(22歳、無職)は1UPした。叫んだ。笑った。踊った。歓喜した。
もう今までの自分ではない。怖いものなど何もない。
どこからでもかかって来い!クッパ!!
そんな佐藤敏夫(22歳、無職)にかかって行ったのは、クッパでも何でもなく、ただのおばちゃんだった。
しかし、おばちゃんの放った一言は、クッパのどんな一撃よりも重かった。
あらお兄さん。いくら食用だからって、しいたけを生で食べたらお腹壊すわよ。
佐藤敏夫(22歳、無職)は目を見開き、驚いた。
しいたけ…だと?
佐藤敏夫(22歳、無職)は嘆き、苦しみ、涙した。
生でしいたけを食した事によって壊れたのは、お腹ではなく心であった。
自分は1UPしていない事実に、ガラス細工のような繊細な心は砕け散った。
佐藤敏夫(22歳、無職)の手から、1UPも何もしないしいたけが落ちた。
その姿は寂れて見える。
佐藤敏夫(22歳、無職)は、それに自分を重ね、溜め息をついた。
………帰るか。
駅のホームには、しいたけだけが落ちていた。
なんじゃこりゃ。