青峰くんが、祈るように練習をやめてしまったことも。
その祈りが、願いが叶わなかったことも。僕は知っていたけれども、見ない振りをした。
なにも知らない素振りで逃げ出した。
あまりにも君のまとう光は眩しすぎて。影である僕の黒は深くなる。
浮き彫りになってしまう…僕にはまるで、何もないって事が。
君を支えられるだけの何かが僕には存在しないことを認めたくなかった。
知ってしまいたくなかった。
だから僕は君に背を向けて、早く早くと足を急かしながら逃げ出したんだ。
君をたったひとり、世界に放り出して。

それだというのに僕は今、君の世界へと手を伸ばし君の背中に漕ぎ着けた彼を、心のそこから羨ましく思っている。
君の肩に手をかけ、こちらを向けと君を揺さぶる。
孤独という世界から君を解き放った彼が羨ましいのだ。妬ましいのだ。

誰でもいいから君をと、逃げ出した僕は助けを求めた。
君が救われるならなんだっていい。誰だって…いい。
それは逃げ出した僕の精一杯の贖罪だった。
けれども実際にそれを目の当たりにした瞬間、僕は気付いてしまったんだ。
僕は…僕自身のこの両手で君を救い出したかったのだと。

酷く、自分勝手な願いだった。
君の手を離し、目を背け駆け出すように逃げ出した僕が一番願ってはならないことだった。

そしてそれは…憧憬とも尊敬ともいえぬ、邪で歪んだ恋慕だったのだと気付いてしまったのだ。