クマシエル
【小説再録】うちの母が宇宙の被捕食者だった件C
2020/04/13 23:59
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 親父が俺をいやーな目で見てくるのがほんとにキモくて、いつも怒鳴りつけたい気持ちを抑えるのに必死になる。
 親父はその日病院で目覚めた俺に、お前はウィスキーボンボンでぶっ倒れて半年も寝ていたとかいうふざけた説明をしただけだった。
 ま、何故か頭蓋骨骨折とかもしてるとお医者に言われたから病院に入院してるのはそれでだろうけど、俺は何も思い出せなくて気味悪くてしょうがない。
こんだけ分からんまま置いとかれると、下手に暴れたりも出来るもんじゃねえ。
それよりオカンが来ねえのも親父は何も言わねえが、あいつはどうしてるんだ?
何となく訊くにきけない。
だけど親父が変な目で見てくるのは何故かオカンに関係ある気がしている。
あいつらは俺が知らないと思っていい歳していつもベタベタしてた。
俺が居なかったら多分完全に幸せだったんじゃないかっていうバカップルぶりだった。
オカンが俺の世話をしたがるのが親父はムカついてたのも俺は知ってた。
だから余計オカンを心配させて世話焼かせる俺は幼稚だったが、幼児の頃からならそうおかしい事でもないと思う。
最近はむしろオカンはウザいのだが、最早習い性というかな。
 それにしても恐らくウィスキーボンボンじゃねえよな、頭蓋骨骨折だし。


 お医者からやっと聞けたのは、原因は分からないが何か固いものによる打撲によるものだという事だ。
それに頭を打ったとはいえ意外に軽いらしい。
そして入院していたのはたった1週間前からという事だ。
親父は嘘をついていると思うが、俺と親父は全く気安く話せる距離ではない。
オカンが来れば解決するんだがな。


 そして退院の日になる。
俺は1人、親父は来なかった。
予想してたけどな。
オカンも来ないのはおかしかった。
やっぱりあいつに見捨てられたのか?
信じられない。


 家に帰ったら仰天する事があった。
俺の部屋が、部屋が、物が無くなって違う部屋にされていたのだ!
レイのフィギュア以外の戦利品が消えていた。

俺は怒ったかって?
怒るより途方にくれた。
これまでの自分の歴史がすっかり無くなったと思うと虚しくなった。
 綺麗な、俺の部屋じゃない部屋はもう俺の居られる場所じゃなかった。
 そして帰って来てもオカンもいなかった。
 俺は俺の持ってるものを全て無くして、これからどうすりゃいいんだと泣きたい気分だった。
 オカン無しで引きこもりが出来ないのなんて分かってる。
これからの俺はもう前の俺には戻れない。
「俺、働いたり出来るのかよ…」
つい、弱音を口にする。
今更分かってもどうにもならない事。
俺の全てはオカンに守られてきたんだと。


 でもまだオカンがどうしたのかはっきり知らないから、俺は諦めがつけられない気がした。
親父に訊こう。
俺はやっとこさ決意した。


「お、親父、オカンはどうしてん?」これだけ訊くのがやっとだ。
「……」親父は答えない。
「オカンは…」繰り返す。
「お前なんかの為に」すると親父が吐き捨てるようにつぶやいた。
「俺? 俺の為?」
「芹香、ほんとは生きてるんだろう? 頼む、答えてくれ!」親父が振り絞るように言った。
親父はおかしい。
俺に向かって言うんだぜ。
「オカン… 死んだんか」そして俺は信じたくない想像を口にしていた。
「かあさんはよそに行った。もう戻らんと思え」
なのに、急に真顔でそんなふうに言われてしまう。
「本、本当の事言ってくれよ」
「とにかくもう帰ってこないから、そのつもりでな」
「どういう事なんだよ! 俺の部屋を片付けたりしてて、何でいきなり出ていくんだよ」
そこが引っ掛かるところだった。
何の説明も無しかよ。
「母さんはお前の為にやってくれたんだ。お前の為に凄い頑張った。感謝して、そろそろちゃんとしろ」
「何を頑張ったんだよ! 出ていかずに自分で話すもんだろう?」俺に言い返されて、親父は俺をにらみつけた。
「…まあいい。俺は明日からしばらく出張だ。これからどうするか1人でよく考えておけ」
親父は結局突き放して言うだけだった。
 俺は翌日から1人で過ごす事になってしまった。



 俺の部屋にオカンが日記を残していた。
何か手がかりがあるかもしれない。
俺は早速読み始めた。


         続く



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