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僕は気に入らないことがあると、人を利用して人を傷つけてきた。

それが一番簡単で、一番安全な方法だから。

君はそんな僕を嫌うだろうね。

君は僕とは真逆の性格だから。

君は気に入らないことがあったら自分を傷つけてでも真っ直ぐ道を突き進んで行く人だから。

でもね、僕は僕の生き方を否定したりはしないよ。














(綺麗な君に触れる僕の手は綺麗にしておきたいの)

(心が汚くてもそれは君に触れることはないから、いいの。)



だめだ、こいつ…





せっかくの私の好物はすっかり冷えてしまった。
私の前の席でおいしそうにカツ丼をぱくつくイケメンのせいで。

「…週一の楽しみだったのに」

はぁーっと長い息を吐く。

「百合子さんってからあげがお好きなんですか?」

キラーッ
眩しいからその爽やかスマイルを引っ込めてちょうだい。あとどうしてわざわざ私を名前で呼ぶのよ、やめてちょうだい。
佐藤さんの言葉を無視して、冷えたからあげを口に入れる。未だ周りの女性社員からの視線は冷たく、居心地が悪い。
あーあ、目立ちたくなかったのにな。午後からの仕事、いやこれからが思いやられるわ。水が空だ。水を注ぐのもめんどくさいなぁ。このイケメンのせいだわ。

「百合子さん」
「はい?」

にこっ
キラキラした光を放ちながら水の注がれたコップを私に差し出す。

「え…あぁ、ありがとうございます」
「いえいえ」

気が利く子だなぁ。ちょっと感心。

「あのぅ、佐藤さん」
「さとるって呼んでください」
「…悟さん」
「はいっ」

何なんだこの人、ただの爽やかイケメンくんじゃないわ。ごり押しがものすごいもの。

「何か誤解をしていらっしゃるようなので説明しておきます。あの夜、私たちは何もやましいことなんかありませんでした。だから佐藤さんが気に病むことも、責任がどうのっていうのはないんです。ましてや、私を名前で呼、」
「百合子さん」
「はい?」
「さとるって呼んでほしいです…」
「な…っ」

衝撃。

垂れた犬耳が見えました。ええ、もちろん幻覚です。しょんぼりと肩を落として上目遣いなんてしないでちょうだいっ。子犬をいじめているような気分になってしまうじゃない。

「…さとる」
「はいっ」
「私の話を聞いていましたか?」

にこにこにこにこ。

「私を名前で、しかも呼び捨てで呼んでくださいました。」







だめだ、こいつ…

私は諦めた。



モノクロの月





久しぶりに地下へ降りてみると、妹はぼんやりと壁を見つめていた。
仄かに赤く色付いた頬が生白い肌によく映える。
フラン、と声をかければ妹は眠そうな目で私をとらえた。
「どうしたの、おねえちゃん」
「フランこそ、長いこと壁を見つめたまま動かなかったけどどうかしたの?」
問えば、フランは「あぁ」と抜けるような声を出した。
「夢を見ていたの」
「夢?」
「そう、」
お月さまが私をさらいに来るの
フランは幸せそうに口の端を歪ませた。
月など見えやしない地下で妹は月の夢を見る。
なんだか滑稽で悲しくなった。
「月が見たいの?」
私の問いにフランは首を振って、「そんなのいらない」と笑った。
「だって、遊んではくれないもの」
「…ああ、そういうこと」
呆れ気味に私が笑えば、フランはにっこりと微笑んで頷いた。






モノクロの月


さとうさとるとやまだゆりこ




「やばい、気持ち悪い…」

厄日だと思った。



















「あの時はホントすんませんでした!」

食堂に響き渡る怒声と言ってもいいのではないかと思われるほどの謝罪の言葉。
私に集中する周りの視線が痛い。
唐揚げに噛みつこうと開けた口を閉じることもできず、私は怒声の主を見上げた。

「一昨日の飲み会ではご迷惑をお掛けしてしまい、大変申し訳ございませんでした!」

「あ、あの、」

「あのときの私はどうかしていました!ホントすんません!正直何があったのかほとんど覚えていないのですが、責任はとらせていただきます!ホントにすんませんでした!」

「あ、あぁあ…」

ひそひそと食堂内の人たちが一斉に不穏な会話を始める。
確実に変な誤解を招いてしまった。

「あの、佐藤さん」

「はい!」

「……ご飯食べ終わってから、お話があります」

「はい!では私も注文してきます!」

「え、」

「待っていてくださいね、山田さん…いえ、百合子さん」

にこーっと爽やかな笑顔を豪快に煌めかせて彼は走って行ってしまった。
私を睨み付ける女子社員の視線が痛い。
唐揚げに噛みつくタイミングを完全に逃してしまった私は、不本意ながら彼の帰りを待つことにした。

佐藤悟、四月から入社してきた男性新入社員。
女子社員から注目を浴びまくっているイケメン君である。

「………今日も厄日だわ…」






さとうさとるとやまだゆりこ



(嫌な予感しかしないわ…)


おんがえし



あなたを見ていると泣きたくなるのです。
太陽の光に目が眩むように、じんわりと眼球に涙の膜が張ってくるのです。

あなたは私を覚えていますか?

あの時あなたが気まぐれにでも私を助けてくれたから、私は今こうして息をしていられるのです。

あの時あなたが気まぐれにでも私を抱き締めてくれたから、私は今この世界が優しく見えるようになったのです。

あなたにはこんなちっぽけな私ではとても返しきれないような恩を恵んでくれました。

どうしたら、あなたに恩返しができるのでしょうか。

塀の上で私は暖かな日の光を浴びて欠伸をしながら真面目に考えます。

今日は良い天気です。



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