「一時避難って事で連れて来た」
「お邪魔、します…」
彼に連れて来られた所は楽器部の部室でした。
彼曰わく、「誰も来ないと思うよ」との事です。
「座ってよ。ここでいい?」
「はい。ありがとうございます」
ですが、先客はいたようです。
斜め向かい、彼の前に座る人物。しかも、非常にお世話になっていて、非常に苦手な先輩の風紀委員長です。
「またお前か、鷹野真幸[タカノ マサキ]。風紀以外の他人からも手を借りるとはな。風紀委員のレッドリスト上位者決定だな」
今日も今日とてもの凄く上から目線で言われました。何故かフルネームで。
なんでですかね、腹が立つ反面土下座したくなりなりました。雰囲気ですかね。
「わぉ。レッドリストとかあるんだ」
「ここは変な習慣が抜けきらないからな」
「まぁ、確かに」
「お前はノーマークだ」
「…喜ぶ所?」
「さぁな」
僕がしょんぼりする中、彼と風紀委員長は軽い会話をしてます。
あぁ、蚊帳の外…。
「まぁ、人気者だし。あの人数なら助けが必要でしょ。テカ、まさきって同じ名前じゃん」
「えぇ!?」
「不服にもな」
「え゙ぇ!?」
2度の衝撃が僕を襲いました。
風紀委員長にはお世話になっていますが、名字の鈴木しか知らなくて、他の人達も「風紀委員長」か「鈴木〜」と呼んでいたので機会が無かったんです。
「この風紀委員長様も、マサキっていう名前でさ、確か、こんな字」
彼が机の中央にあった紙とボールペンを取って、少し繋がった字で風紀委員長の名前を書きました。風紀委員長はチラリと紙を見ると、ノートパソコンに向かいました。
「に、似合いますねぇ」
「たいていの人がそう言うよ。俺も思うし。で、君のは?」
「あ、僕のは…こう書きます」
彼が触ってほんの少し温かいボールペンを握り、同じくらいの大きさで名前を書きました。
「真の幸せ。へ〜。何か良いね」
「母方の祖父が付けたそうです」
言ってから彼を見ると、ふわりと笑いながら言いました。
「一緒だ。俺の名前も、母さんの方のじいちゃんが付けたらしくてさ。で…」
彼が僕の名前の近くに書き始めました。
風紀委員長の名前は少し端の方に縦書きで書いてあって、あまり近くだといけないような気がして5p以上も空けて書いた僕の名前。その右側に、縦書きで彼は書きました。
「こんな字」
「てらた…」
「あらきって読むんだ。名字が2つあるみたいだけどさ」
「てらた、あらきさん」
寺田新輝という文字をじっとみてぽそりと呟く。直ぐに、彼が「ん?」と首を傾げてこっちを見ました。
「いえ!あの!寺田先輩って読んでも、良いですか?」
「もちろん」
即答です。良かった。けど、いきなり「新輝先輩!」なんて言ったら引かれますよね。
と「鷹野真幸」再びフルネームで呼ばれました。
時々思うんですが、風紀委員長、キャラクター作ってません?
「な、なんですか」
「今回は何処の奴らに追われてたんだ?」
心配…はしてないですよね〜。風紀委員長は何処からか手帳を出して、こっちを見てました。
「…確かじゃないんですけど、担任の先生の所だと思います」
「チッ、あのカス人間が」
舌打ちとどす声と眉間のシワがぁ!!風紀委員長の背中から黒い何かが出てくる幻覚が見えます。ずももももっとしています。
無意識でしたが、頬がヒクリと引きつるのが分かりました。
あの先生、相当嫌われているようです。
「誰だっけ?」
そんな中、彼、基寺田さんがボソッと言いました。
「数学で去年来たあの茶髪野郎」
「えっと、いつもワイシャツで喫煙ルームに必ず居る先生?」
「そいつだ」
「そうです」
はっ、同じタイミングでした。
「意外と気が合う?」
寺田さんが少し驚いた顔で僕と風紀委員長とを見比べていました。寺田さんの言葉に、ぺしゃんと黒い何かを消す風紀委員長。
代わりに拗ねた様子です。
「合うわけ無いだろう。よくある偶然だ。とにかく。鷹野真幸、あのカスには注意しておけ。何か言われたりされても愛想笑いでかわせ。変にリアクションをするな。その気も覚悟も無いのに掻き回すのが趣味らしいからな。飽きられるまで我慢だ」
「はい…」
「が、頑張れ」
「はい!」
身に染みるお言葉です。はい。
あれ?僕、避難しに此処に来たと思うんですが…。
そこから日が沈むまで、寺田さんと色々な事を喋り‐時々風紀委員長の冷たい言葉を受け‐、正門まで一緒に過ごせる事ができました。
1週間程でまた逢えて、今度は名前と学科と学年も聞けるなんて。
神様が気まぐれでもおこしたんですかね?
ただ、楽器部の部室に入ってから今まで妙に何カ所かチクチク痛いです。なんとなく原因は分かりますが、確定しても怖いので、この幸せな気分のままベッドに入ます。
…夢で会えたり。