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なんでも占い屋




「ぁ!斎藤さん!」



総司はいつもの甘味処で、三色団子を食べている斎藤一を見付け、声を上げた。



「ん?奇遇だな。」



「珍しいですね。僕は此処の常連なんですよ。」


「そうか。」


「いつも蕎麦ばかり食べてるイメージしかないからなぁ。」



「蕎麦は好きだからな。たまには甘いものも悪くないと思い、休憩がてら寄ってみた。」



「そうだったんですか!どうです?その三色団子美味しいですよね♪」



「あぁ。」



眠そうな顔の斎藤一は呟いた。


「斎藤さんは気が付くとすぐに居なくなってしまうので、今日は後を付けて来たんです。」



「・・・・・何故、奇遇では無かったか。」




「斎藤さんに気付かれずに此処まで来れたのは奇跡に近い♪」



「・・・・それで何の用だ?」



団子を食べ終わった斎藤は、お茶をすすりながらそう言った。



「そうでしたね。実は・・・・斎藤さんに聞きたい事があるんです。」



「・・・・・私は占い屋じゃない。」



「まぁそう言わずに。斎藤さんしか頼りになる人がいないんですよ。」



「まぁ・・・仕方ない。」


斎藤はお茶を置くと、立ち上がり歩き始めた。

それに続き、総司も立ち上がる。



「・・・歩きながら聞く。」



「土方さんの事なんですけど・・・・。」


総司が言い掛けると同時に、斎藤は足を止めた。


「あの方の事は君が一番分かっていると思うのだが。」


「それが、分からないんですよね。」



「・・・・・・・・・・。」



「土方さん、何だかご機嫌斜めで。どうしたのかな?と思って。」



「君にはそれがそんなに一大事なのか?」



「当たり前でしょう。土方さん、何も喋ってくれないんです。」



「そうか・・・。思い当たる節は無いのかね?」


「勿体ぶらないで教えて下さいよ〜」



「私は占い屋じゃないと言ったはずだが。」


「占ってとは言ってません。真実を教えて欲しいだけです。」







「・・・・・彼は怒っているな。」



「!?」



「訳を話すまではない。後は自分で考えたまえ。」


「・・・・斎藤さっ・・・!?」



追いかけようとした総司の腕を、振り返った斎藤が掴んだので、総司は前のめりになった。


そのまま斎藤の胸元にすっぽりと収まる。



「・・・・・・斎藤さん!?」




「そんなに好きなのかね?土方君の事が。」



「え??」



「まぁ良い。」


斎藤はそう言うと、総司の腕を掴んでいた手を離した。



「知りたければ、後で部屋に来るのだな。」


斎藤は意味深気な言葉を残し、姿を消した。




「・・・・・・??とにかく、部屋に行けば教えてくれるんだな。斎藤さんの様子少し変だったけどまぁいいか。」



総司は腕に斎藤の余韻を感じながら、屯所へと向かった。



行き着く先は暗闇だと知らずに。








.

宗次郎の雪だるま




「さみぃな。」


土方は呟いた。


目先には真っ白な雪景色。想像を絶するほどの寒さを、真っ白な吐息が物語っていた。




「今年もまた雪の季節がやってきたね。」


その声の主は、鬼の副長に対して仏の副長と呼ばれている山南敬助だ。

彼は土方と、庭一面に広がる雪景色を見つめていた。


「寒いのは嫌いだ。」



「そうか。僕は案外好きかもしれないな。」


「何処が良いってんだ?ただ寒いだけじゃねぇか。」



「そうだな・・・。雪を見ると子供の時を思い出すからなぁ。近所の子供達とよく雪だるまを作って遊んだものだ。」



「随分と活動的だな。」



「あの頃は無垢な子供だったからなぁ。こうして雪が降るのを楽しみにしていた。」


「さすが山南さんだ。俺は雪で遊んだ記憶なんてねぇな。」


「そうなのか?では、土方君は子供の頃何をして遊んでいたんだ?」



「・・・・そんな昔の事は覚えてねぇよ。」



「そうか・・・流石、土方君らしい。」



「ところで、今の子供も雪で遊ぶのか?」



「そうだね。昔と今で変わりはしないよ。子供達は何時だって無垢だからね。」



「そうか・・・。」



「ぁ!あれは・・・沖田君じゃないか?子供達と一緒にいるのは。」



山南が指差す先には、いつの間にか総司と数人の子供達が集まっていた。



「ったく総司のやつ。まだまだ子供だな。」


土方は笑った。




「沖田君らしい。彼はまだ子供っぽいところがあるからね。ああして、時々子供達と遊んでいるところをよく見るよ。」



「ふ〜ん。俺は初見だぜ。」




子供達と遊ぶ総司の顔は、まるで純粋そのものであった。

数人の子供達とニコニコしながら雪だるまを作っている。



「宗次郎〜!これでっかくして!」



「よぉし、お兄さんに任せなさい。」


そう言った総司は寒いながらも腕を捲り上げ、雪を転がし始めた。


「宗次郎〜!もっとでかく!」

もう一人の子供が笑顔で総司の作る雪だるまを見つめている。


雪だるまは転がるにつれ大きくなり、子供達は歓喜の声を上げた。



「わぁ〜!でかい!!」



「よいしょっと。これを乗っけたら出来上がり!」




「まだだよ〜」


総司が言うのと同時に、頬を赤くした少女が言った。


「お顔作らなきゃ!」



「ぁ、そうだったね。雪だるまにも顔を作らないとね。」



総司はそう言いながら、着々と顔を作り始める。









「案外よく出来てるじゃねぇか。」


総司達の様子を見ていた土方はそう呟いた。



「傑作だ。こうして、子供達がはしゃぐ姿を見るのが楽しみだったりするんだ。」



「まぁ、悪くねぇな。」



土方はそっと頬を緩せた。


普段は決して見せない総司の姿を見た様な気がした。
昔の名前で呼ばれる総司を見ていると、初めて出会った時を思い出す。



あの頃は、今の総司からじゃ想像も出来ないほど無口で、全く感情が無かった。



今じゃこの通り。笑顔で子供達とはしゃいでいる。



山南の言う通り、総司も無垢な心を抱いているのだ。




「じゃ、俺はこれで失敬する。」


土方は立ち上がった。



「もう行ってしまうのかい?」

そう言う山南の言葉に土方は渋々という顔をした。


「仕事が残ってるんでな。」

どうせならもっと見ていたかったが、土方は重い腰を上げて部屋を出た。







「ぁ!山南さんじゃないですか〜」


土方が部屋を出たのと同時に、総司の声が響き渡った。


「やぁ、沖田君。寒いのに元気だね。」

山南は総司に声を掛ける。


「楽しいですからね。寒いのはへっちゃらです。」

笑顔で答える。



「そろそろ帰らないと、土方君が心配しているんじゃないか?」


「そうですね。そろそろ帰らなきゃな〜。土方さん心配性だから。」


「それだけ愛されてるって事だよ。」



「え!?今何て言いました?」


「いや・・・何でもないさ。気にしないでくれ。」



「そうですか。それじゃ、僕は子供達を送って来ますね。山南こそ風邪引かないように気を付けて下さいね。」

ひらひらと手を振って、総司はまた子供達の方へと戻っていった。



「可愛いなぁ・・・。」



そう呟いた事は、土方は勿論の事、誰も知らない。







.

どちらがお好き?




「土方さ〜ん♪」


総司は軽やかな足取りで、土方の部屋を訪れた。




「ん?あ?総司か。」



振り向いた土方の手には、いつもの筆が握られていた。



「な〜に、また難しそうな顔しちゃって。どうせまた俳句を詠んでたんでしょう?」




「なに馬鹿にしてやがる。」


「別に馬鹿になんかしてないですよ。そんなに楽しいんですか?」


総司はクスッと笑ってみせた。

そんな総司を見てか、土方は表情を一層険しくさせる。


「馬鹿にしてんじゃねぇか。俺だってな、まともな俳句一つや二つぐらい詠めるってんだ。」




「ふ〜ん」



「なっ!ふ〜んとはなんだ。」



「梅の花〜咲いても梅・・・」



「っ!歌うんじゃねぇ!」


筆が総司のギリギリ横を通過した。墨は無惨にも壁に飛び散っている。




「危ないじゃないですか!墨が付いたらどうしてくれるんですか!」


「怒らせる事言うお前が悪い。」



「じゃあ、せっかく買ってきたこれ、あげませんよ。」



「?」


「先程、大行列に並んでやっと買えた高級和菓子です。土方さんにはあげませんよ。」



「っ!調子に乗りやがって!」



土方は逃げる総司を捕まえ、馬乗りの状態で対峙した。

例の高級和菓子はというと、床に散乱している。


「仕方ないなぁ。土方さん、あ〜ん♪」



ぽかんとしている土方の口に、総司は和菓子を入れる。

甘い餡子の味が口いっぱいに広がった。



「どうですか?美味しいですか?」

下から見上げる形で、総司は無言で口を動かす土方に問いかける。




「大行列になるくらいだ。まぁまぁだな。」


食べ終わった土方はそう言った。


「良かった〜。でもどうしてくれるんですか、この和菓子。」


「あのなぁ、分かってねぇのか?こんな状況で和菓子の心配してられっか?」


「ん?あ、そうでしたね。」



「そうでしたねって。」


「捕まっちゃいました☆でも僕は土方さんの俳句好きですよ。さっき詠んでた俳句聞きたいなぁ。」



「ったく、お気楽だな総司は。残念だが、まだ書いちゃいねぇよ。」



「え〜!?すごく難しい顔してたじゃないですか!」

「考えてたんだ。総司、お前のせいで何考えてたか忘れちまった。責任とれ。」



「そうやってまた僕のせいにする〜」


「だいたいな、入ってくる時ぐらい了承得てから入れ。」



「僕と土方さんの仲じゃないですか♪」


「・・・・・・・。」



「それより、もっと和菓子食べます?食べるなら、そこ退いてくれないと起きれません。」


「要らねぇよ、んなもん。」


「酷い!せっかく並んで買ったんですよ!」


「俺はこっちの方で十分だ。」


土方は唖然とする総司の唇を乱暴に奪う。
はだけた衣服から覗く、色白の肌にも花を咲かせた。

赤い小さな花を。




「土方・・・・さんっ・・」



体と体が絡み合い、さらに熱を増していく。

感じる吐息が色気を増し、時間を忘れるかの様、ひたすら土方は愛で続けた。






「土方さんは、高級和菓子よりも僕の身体を選んだんですね。」


「なんだ、その実況みたいのは。」


「あの時点で覚悟は決めてました。土方さん相手じゃ逃げられないですよ。」


「はなっからその気だったのか。上等だぜ。」


「高級和菓子なんて嘘ですよ。」


「あぁ、知ってる。」


「じゃあ何で・・」


「たまにはお前に乗るのも悪くねぇかと思ってな。」


「土方さん重かったですよ。」


「その、乗るじゃねぇよ。」



総司はふっと笑った。



「わざとです。」




いつの間に一枚上手になったんだろうか。俺の反応を楽しんでやがる。


土方は思った。


気付けば、自分の衣服もはだけている。相当夢中だったのであろう。

総司はというと、そんな事さえも気にしていない様だった。



まだ朝だというのに、部屋には和菓子が散乱し、熱気に包まれていた。



少し興奮から覚めたところで、総司は土方に視線を向けた。



お互い数分見つめ合った後、声を上げて笑った。



「はぁ〜朝から元気ですね、土方さんは。」


「ったく、俺で遊びやがって。」





こうして今日もまた、長い一日が始まる。






.

序章




浅葱色――・・・・・





それは、新撰組の証でもある美しく艶やかな色。


動乱の時代を生き抜き、熱き魂を抱いた男達の物語が今始まる。








元治元年・・・某日。



此処、新撰組屯所と呼ばれる場所に一人の男がやって来た。



浅葱色を月明かりに揺らしながら、暗闇の中を歩いていた。



彼の目的地は、そう・・・






「ご苦労だったな、総司。」




そう、彼の目的地は、鬼の副長と呼ばれ恐れられている"土方歳三"の部屋であった。



「はぁ〜夜の見回りも疲れますね。」



「近頃物騒だからな。まぁ、奴等の首根っこ掴むまでの辛抱だ。それより何かあったか?」



「な〜んも無いですよ。つまらないなぁ。」



「ったく、無い方が有難いと思え。そのうち奴等も動き出すさ。」




土方の言う奴等とは、長州藩の事であった。

尊皇攘夷派の奴等は、京都に潜伏し、密かにその時を待っていた。




物騒な時代である。


平和な頃とは打って変わり、新撰組の面々もだいぶ変わった。


けれど変わらないものは必ずある。


仲間の絆だ。



そして・・・・




「それより総司、こっちへ来い。冷えただろ。」


土方は総司を招いた。



細い腕、煌めく髪の毛に、整った容姿。


「土方さん・・・疲れたって言ったでしょ。」




「嘘はったりだ。見回りくらいで寝かすかよ。俺を待たせたんだからな。」



土方は優しく総司の体を抱く。



「意地悪ですね、土方さんは。」



艶やかに伸びた髪に指を通す。柔らかな白い頬に触れる。熱い吐息を塞ぐかの様に唇同士が触れ合う。




「んっ・・・・」



苛めてやりたい。もっと自分の手で滅茶苦茶にしてやりたい。

そんな感情が土方の中で膨れ上がった。


何時もより色っぽく見える総司の唇を乱暴に扱った。



「っ、土方さんっ・・・」



「痛いです・・・・」



そんな声にお構い無しに土方は総司の全てを手にしていく。



愛おしい総司。

俺だけのものになってくれればそれでいい。


夜回りなんてもん、鬱陶しくてしょうがない。一刻も早く抱きたい。熱を感じ、愛を感じ、全てを奪って


生きる屍となれ。







「・・・・・・土方さん・・」




「ん?なんだ?」




「こんな僕でも愛してくれますか?」




「急になんだよ。」



「覚えてます?あの時そう言ったんです。僕は忘れません。」




「俺だって忘れるかよ。あの時の総司は一段と色っぽかったじゃねぇか。」



「すぐ襲われました。」



「誘う方が悪い。」



「誘ってなんかいませんよ。土方さんが乱暴だから・・」

またそうやって俺の心を奪っていきやがる。






「土方さん・・・・・」

そう呼ぶ彼の声は愛しくて、堪らない。


きっとそうやってまた、愛の連鎖が続く。







新撰組。




彼等は動乱の時代を生き抜いた勇敢な武士であった。


そして、また彼等は


普通に愛し、愛され、普通に生活をし、普通に物事を考え、普通に生き抜いた、普通の人間でもあった。





どの時代でも変わらず、愛の花は咲き続ける。



そんな彼等を描いた物語は、まだ始まったばかりだ。





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