「土方さ〜ん♪」
総司は軽やかな足取りで、土方の部屋を訪れた。
「ん?あ?総司か。」
振り向いた土方の手には、いつもの筆が握られていた。
「な〜に、また難しそうな顔しちゃって。どうせまた俳句を詠んでたんでしょう?」
「なに馬鹿にしてやがる。」
「別に馬鹿になんかしてないですよ。そんなに楽しいんですか?」
総司はクスッと笑ってみせた。
そんな総司を見てか、土方は表情を一層険しくさせる。
「馬鹿にしてんじゃねぇか。俺だってな、まともな俳句一つや二つぐらい詠めるってんだ。」
「ふ〜ん」
「なっ!ふ〜んとはなんだ。」
「梅の花〜咲いても梅・・・」
「っ!歌うんじゃねぇ!」
筆が総司のギリギリ横を通過した。墨は無惨にも壁に飛び散っている。
「危ないじゃないですか!墨が付いたらどうしてくれるんですか!」
「怒らせる事言うお前が悪い。」
「じゃあ、せっかく買ってきたこれ、あげませんよ。」
「?」
「先程、大行列に並んでやっと買えた高級和菓子です。土方さんにはあげませんよ。」
「っ!調子に乗りやがって!」
土方は逃げる総司を捕まえ、馬乗りの状態で対峙した。
例の高級和菓子はというと、床に散乱している。
「仕方ないなぁ。土方さん、あ〜ん♪」
ぽかんとしている土方の口に、総司は和菓子を入れる。
甘い餡子の味が口いっぱいに広がった。
「どうですか?美味しいですか?」
下から見上げる形で、総司は無言で口を動かす土方に問いかける。
「大行列になるくらいだ。まぁまぁだな。」
食べ終わった土方はそう言った。
「良かった〜。でもどうしてくれるんですか、この和菓子。」
「あのなぁ、分かってねぇのか?こんな状況で和菓子の心配してられっか?」
「ん?あ、そうでしたね。」
「そうでしたねって。」
「捕まっちゃいました☆でも僕は土方さんの俳句好きですよ。さっき詠んでた俳句聞きたいなぁ。」
「ったく、お気楽だな総司は。残念だが、まだ書いちゃいねぇよ。」
「え〜!?すごく難しい顔してたじゃないですか!」
「考えてたんだ。総司、お前のせいで何考えてたか忘れちまった。責任とれ。」
「そうやってまた僕のせいにする〜」
「だいたいな、入ってくる時ぐらい了承得てから入れ。」
「僕と土方さんの仲じゃないですか♪」
「・・・・・・・。」
「それより、もっと和菓子食べます?食べるなら、そこ退いてくれないと起きれません。」
「要らねぇよ、んなもん。」
「酷い!せっかく並んで買ったんですよ!」
「俺はこっちの方で十分だ。」
土方は唖然とする総司の唇を乱暴に奪う。
はだけた衣服から覗く、色白の肌にも花を咲かせた。
赤い小さな花を。
「土方・・・・さんっ・・」
体と体が絡み合い、さらに熱を増していく。
感じる吐息が色気を増し、時間を忘れるかの様、ひたすら土方は愛で続けた。
「土方さんは、高級和菓子よりも僕の身体を選んだんですね。」
「なんだ、その実況みたいのは。」
「あの時点で覚悟は決めてました。土方さん相手じゃ逃げられないですよ。」
「はなっからその気だったのか。上等だぜ。」
「高級和菓子なんて嘘ですよ。」
「あぁ、知ってる。」
「じゃあ何で・・」
「たまにはお前に乗るのも悪くねぇかと思ってな。」
「土方さん重かったですよ。」
「その、乗るじゃねぇよ。」
総司はふっと笑った。
「わざとです。」
いつの間に一枚上手になったんだろうか。俺の反応を楽しんでやがる。
土方は思った。
気付けば、自分の衣服もはだけている。相当夢中だったのであろう。
総司はというと、そんな事さえも気にしていない様だった。
まだ朝だというのに、部屋には和菓子が散乱し、熱気に包まれていた。
少し興奮から覚めたところで、総司は土方に視線を向けた。
お互い数分見つめ合った後、声を上げて笑った。
「はぁ〜朝から元気ですね、土方さんは。」
「ったく、俺で遊びやがって。」
こうして今日もまた、長い一日が始まる。
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