「大丈夫かい?」
「ぎゃーっ出たぁーっ!」
階段を降りてすぐのところにワタルさんがいた。
心臓に悪い。
ひぐらしより心臓に悪い。
ワタルさんは上の階での壮絶なストーカーとのバトルで傷ついた俺のポケモンをちらりと見た。
「君のポケモンだいぶ傷ついてるな、おれのくすりをわけてやるよ」
「あっ、ど…どうも…ってこんなに!」
おくすりの大盤振る舞いで、みなみ達のHPはおろかわざポイントまで全回復だ。
見ず知らずの俺にこんなにくすりばかすか使っちゃって、よっぽどお金持ってるんだな。
それか実家が医薬品メーカーなのかも。
ワタルさんはポケモンを回復し終えると、
「さぁアユムくんポケモンのため頑張ろう!」
と言って通路の奥へ消えてしまった。
何だあのテンション、バズだったよ…
無限の彼方に行くときのテンションだよ…
「でも…ポケモンのため、か」
うん、そういやそうだ。
元はラジオのためだったけど、もしこれで本当にポケモンが苦しんでるなら助けなくちゃ。
ワタルさんとか関係無しに、そうしなくちゃいけない。
俺、なんだかんだでポケモン大好きになってるからな。
「よーし、頑張るぞ!」
俺は決意を固めると、早速この階の探索を始めた。
向かってくる下っ端をなぎ倒しつつ、不審なものがないか目を光らせる。
…まぁ、目を光らせる必要はなかったけど。
「で、でかっ…」
かいでんぱはっせいそうち。
イヤでも目に入る超平和維持装置みたいな規模のそれは、やはりというか何というか、厳重な声認証ロックで守られていた。
製作者はやはり牧村さんか…
いくらロケット団がうっかり屋の集団でも、セキュリティーはそれなりなんだな。
近くの倒した団員によると、この扉のパスを知っているのはボスの部屋を守っているやつだけらしい。
この階はぐるっと見て回ったけど、それらしい部屋はなかった。
もう一つ下の階にあるのかもしれない。
「よし、階段下りるぞ」
まだ見ぬボスの部屋を目指して今度は階段を駆け下りる。
大丈夫、ポケモンのためならワタルさんくらい…
「アユムくん!」
「ぎゃぁああ処刑現場!」
…ワタルさんくらい怖いぃい!
ワタルさんはボロボロの下っ端団員片手に爽やか笑顔でこちらに向かってきた。
何あれ完全に残虐超人だよ!
いい子にしてなくちゃ確実に死亡フラグ…!
「かいでんぱはっせいそうちの部屋のロックを解除するにはある人物の声を入力しなければならない」
「そそそうなんですか!」
「その人物とは……ロケット団幹部のラムダ!」
「すすすごいですねっ、変なタメはいらないと思いますすごいですねっ」
「奴はボスの部屋に隠れているということを突き止めたぞ!」
「きゃ、きゃーっワタルさんカッコいいー!」
「だけど…ボスの部屋にもパスワードが仕掛けてあるらしいんだ…」
「わっ、ワタルさんドンマイです!次がありますよ!」
「アユムくん!まずはボスの部屋のパスワードを探しに行ってみよう!」
「ひぃっ!イエッサー!」
ワタルさんは再びスタスタと先に進んでいってしまった。
哀れな団員はそこらへんに放置されて息も絶え絶えだ。
「ふぅ…生き残った…」
ガブと一緒に胸をなで下ろす。
正直敵地のアジトに乗り込むよりワタルさんが隣にいる方が断然怖い。
あまりに可哀想だし、同じワタルさんに怯える者同士少しは助け合おうと思って団員の背中をさすってやった。
アジトの秘密を全部喋らされたなんて…辛かったな…
団員は俺に弱々しく笑うと、しかし誇らしそうに胸を張って言ってくれた。
「だけどパスワードが二つあることだけは喋らなかったぜ!」
と。
わぁ、お礼にうっかりそんなこと教えてくれるのか。
良い団員もいるもんだ。
「そろそろ行かないとな」
パスワードが二つあるのも分かったことだし、早く探しに行かないと。
俺は立ち上がると自分の失言に気付きもしない団員に手を振って、奥へと走っていった。
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手持ちポケモン
ガブ(オーダイル) Lv.32
げっこう(ヨルノズク) Lv.32
みなみ(オオタチ) Lv.30
テラ(ダグトリオ) Lv.28