話題:小説の更新

 無心に。
 自分の体ではないと、思い込ませるように、単調に、彼は手を動かした。

「見事なものだ……」

 何を見て言っているかはすぐに分かる。
 やめて欲しいと願った。

 苛立ちと羞恥。
 それが頭の中を埋め、渦巻く。

「へぇ……上品な顔をして、意外と…手慣れているんだね……」

 小声で吐かれる侮蔑が、心に刺さる。

 彼とて手慰みはしないでもない。十を越えた頃に憶えた。本を読んだり、酒を飲んだりするのと同じ、一人でいる時の密やかな愉しみでしかない。

 戦闘続きですさむ心、ぴりぴりと張り詰める神経。それを解消し、手っ取り早く気を抜く為の一つの手段だ。
 売春と違って、誰にも迷惑はかけない。情のもつれも存在しない。自身だけの、完結した行為。

 ごく当たり前のことなのだ。―それが他人の目に晒されていなければ。

「よくやる、よねぇ……」

 聞こえていない振りをする。させているのは貴様らだろう、そう言いたいところだが。

 早く果てろ。それだけを考える。

 しかし、集中ができない。
 硬い床に、監視の目。
 あまりにもイレギュラーだ。
 徐々に血が集まる感覚はあれど、すぐに散っていってしまう。

―くっ……。

 巡らせる様々な想像のうちに、部下の笑顔が浮かんだ。

―!

 人懐こく、自分を慕ってくる。歳は五つ違う程度で、真面目で優秀なのに、自分を限り無い尊敬の目で見ている、無邪気な青年。
 彼なりに嬉しく、可愛がりたいと思いながらもなかなかできないが、自分の傍にいる限り、便宜は図ってきたつもりだ。

 何故、その部下の顔が浮かぶのだ。しかも、こんな時に。

「君…、堅物然として、こんなシチュエーションに興奮するんだな。見られるのがお好きかな」

 そんな訳があるものか。彼は唇を噛む。

 薄笑いを浮かべて、栗毛が足元に屈み込む。

「一人では達せないんだろう。私がお手伝いさせていただこうか」

 腿の下に相手の膝を押し入れられる格好で、腰が浮く。その下に手のひらが差し入れられる。

 哀れで間の抜けた格好だ。

 何をされるのか。彼は恐れおののいた。

 尻を軽くまさぐられ、指が固く閉じた場所に触れた。

「…くくっ」

 楽しそうな、隠微な笑いが漏れた。