「やだッ……離してっ、離せぇッ!!」
距離を詰められ、いよいよ両腕で身体を掴み上げられたソフィアが空中で四肢を暴れさせる。
このメンバーの中で一番の力を誇る彼女ですら、両脇の下に滑り込まされた手を解く事はできなくて。
それを目前で見詰める傲慢の通仙坊は目を細め彼女をコケにするように、天狗のように長い鼻を揺らしながらげたげたと笑い声を上げていた。
「ソフィアッ!! ソフィアを離せ!! このッ――が、ぁガ、ぐぅゔッ」
ソフィアを手中で弄ぶ天狗猿の長い尾に巻かれて、スヴェンが怒声と呻きを交互に上げる。やがて尾の先が口内へ入り込み口を塞いだ。
足から首までがっちりと巻き上げられた身体は少しも動かせる猶予が無く、ソフィアの姿は天狗猿の向こうに被っていて、確認できない。
スヴェンは既に大人しく仲間の助けを待つ他無かった。
もう1体の天狗猿の向こうに居る筈の、仲間達を。
「スバル……えっ? スバル……?」
「あぁ、あ、そんな、スバルさん、うそ」
状況がまだ呑み込めていないスズトと、一瞬で理解してしまったシキが。
拳を受け止め切れずに突き飛ばされたスバルが消えた断崖の、その向こうの青い空を見やって、固まってしまう。
これでもかと切り立っていた岩肌は、そこには無い。何度思い直して、見返しても、決してそこには。
仲間を喪った想いを呑み込んだ瞳がそれぞれ、怒りと悲しみを帯びていく。
「……っテメェエ゙エ゙エ゙ッ!!! よ゙くもよくもよくもやってくれたな゙ァア゙ア゙ア゙ーッ!!!!」
「うあぁああスバル!! 嘘だ!! スバルーーーッ!!!!」
同時に溢れ出した憤激と哀傷が叫びを上げる。
叫びが耳に届き、何が起きたのかを感付いてしまったスヴェンが身を強張らせ、湧き上がる怒りと悔しさにまた新たに顔を顰めていた。
両手に抱えられたまま暴れるソフィアを暫く眺めていた天狗猿が飽きたのか、徐々に手指に込める力を増していく。
「かッ、ふゔっ、ぐぁ……!!」
人では到底敵わない魔物の力が、ゆっくりと痛めつけるようにソフィアの上半身を締め上げていく。
悲鳴の代わりのように骨が軋み音を上げる。それでも決して折れない程度の力加減で、天狗猿は手中で脈打つ命を弄ぶ。
ソフィアの視界がぐらぐら歪み、白と黒に明滅を始めた頃に、ふっと手に込められる力が抜けて。
「ッぁ゙、はあっ、はぁ、はぁっ……」
抵抗する事も忘れて、ソフィアはそのまま脱力する。
出来なかった呼吸を取り返したくとも、確かに頭の中を満たし始めた死の恐怖に、ソフィアは涙目のままに浅く短い呼吸を繰り返す。
「うぅ、うっ……スヴェ、ぇゔッ」
また上半身を握る手に力が込められる。
かと思えば数秒後には緩められて、ソフィアが酸素を求めて息を吸った瞬間にまた、力が込められて。
呼吸を自分ではないものにさせられる。生命の手綱を握られている。
喉元までせり上がってきているのは胃の内容物だろうか、それとも圧される度に肌の内で暴れ回る内臓だろうか。
「ぅあ゙ッ……、はがッ! 嫌、スヴェ、ん゙ぇっ……い゙、やぁぁ……すべ、え゙ぇあ゙ッ」
耳鳴り以外の音を失ったソフィアは最早、うわごとのように名前を呼んで、姿が見えなくなってしまった最愛の人に縋る事しかできなかった。
「ひい、ぁあ、ああぁぁ……」
下顎を掴まれ、生温かい息が掛かる程の目前に据えられた天狗猿の笑い顔に、スズトが怯えた声を上げている。
仇がわりに一撃だけでもと振るった剣は弾き飛ばされて手の届かない所に転がっている。
脚は目の前の光景にすっかり竦んで、座り込んだまま動けない。
シキが持っていた熱波を吐き出す杖も叩き折られ、持ち主であるシキは天狗猿の尾に足を掴み上げられ宙吊りになっていた。
「スズトさん、しっかり!! しっかりしてください! あなただけでも逃げ――」
癇に障ったのか、天狗猿が大きく尾を振るう。
尾の先に吊るされたシキがぐんと振られて、投げ飛ばされて。そのまま土と石が踏み固められた硬い床へと叩き付けられた。
「がッ」
頭部を打ち付けたシキが床を僅かに弾んで、起き上がることも出来ずにまた尻尾に絡め取られていく。
今度は全身を巻き上げて、天狗猿の尾の先が、項垂れていたままのシキの頭を持ち上げた。
まるで場違いなぼんやりとした表情をして、どこを見るでもない虚ろな目線は小刻みに震えて忙しなく彼方此方を見回している。
そんなシキに巻き付く尾が締め上げる力を強めていく。自分の危機という事だけをなんとか理解したシキの身体が僅かに強張った。
「やッ、やめて、やめてくれよ!! シキがっ、シキが死んじゃうからぁ!!!」
スズトが自分の顎を掴む手の首にしがみ付いて許しを乞う。もうこれ以上は仲間を喪いたくないという一心で。
「おねがい、おねがいだよ……殺さないでっ、皆を、たすけて……助けて……!」
果たして言葉の内容を理解しているのか、それともしていないのか。
天狗猿が大口を開け唾を飛ばして嗤っている最中にも、スズトは必死に懇請を繰り返していた。
「っ嫌、いやあぁ! 許してっ……それは、それだけはっ……!」
抵抗する事を諦めていたソフィアが、改めて脚をばたつかせ、頭を振って拒否をする。
それでも最初よりは随分と勢いを失って、天狗猿にとっては最早なんの邪魔にもなりはしない。
片方のブーツごとズボンと下着を剥ぎ取られ、片脚を持ち上げられ広げられた中心には、人の腕ほどの大きさを持つ、熱く脈打つ悪意が添えられて。
「ひッ、ひッ」
上半身を握る片手を揺すって、汗と、締め上げられた際に漏れ出た物で濡れててらてらと光る内腿に、反応を楽しむように悪戯に擦り付けられる。
揺する片手の先が肌に僅かに沈む度にソフィアは直近の息苦しさと痛みを思い出して、怯えて引き攣った息を歯の隙間から吐き出す事しかできなくなる。
一方で天狗猿は、敏感な部分を擦る獲物の柔肌の心地良さにうっそりと目を細め、そして。
「ぃ゙や゙あ゙ぁああ゙ぁあ゙ーッ!!!」
柔らかな先端が抉じ開けて、続く剛直が這入り込む。まるで絹を裂くような、声帯が裏返るような絶叫がソフィアの喉から飛び出した。
何の躊躇も遠慮も無く一思いに押し込まれたそれが、自分の身体ごと脈打っているように感じて。
そのただただ悍ましい感触が、忌まわしい記憶を無意識に塞いでいた蓋を歪め、ずらして、開けていく。
自分は一介の所有物。物に拒否の意志など認められない。
気紛れに腕と脚で出来た檻で囚われて、明くる日も、明くる日も、抉じ開けられて、冒されて……。
どうしていたっけ? こんな時。
――終わるまで大人しくしていればいいんだ。
ふっ、と灯りを消したように、ソフィアの瞳から光が消え失せる。玩具を扱うように行われる手酷い抽送の度に声こそは漏れ出るが、もう自分の感情を含めた否定や嫌忌の言葉は出てこない。
口を塞がれたスヴェンの、形にならない悲鳴が交じった叫び声の断片だけがようやっと、耳鳴りが治まったソフィアの耳に入って。
――ああ、スヴェンも自分と同じように。いつものように。きっと、小父様に。
呼び覚まされた記憶がそう勘違いして。
朝になれば解放されて、また寝床で身を寄せ合って、安心して眠れるのだと。
抜けるような青い空の下で、ソフィアはそう信じて疑わない。
「えぶッ、ごっ……お゙、ぅゔ」
喉の奥のさらに奥まで暴力的に侵されて、スズトは痛苦に満ち満ちた呻きを辛うじて上げていく。
もう一方の天狗猿が蹂躙するソフィアの声を耳にした天狗猿が、膨張させた陰茎をそのまま目の前のスズトの咥内へと突き立てて。強制的に反らされた喉が肉の形に膨らんではへこんで、また膨らんでを繰り返す。
2匹を比べて見れば此方のそれは小ぶりであろうが、スズトはそれを知る由も無く。頭部を両手で鷲掴まれて揺さぶられ、いつまでも足りない酸素と乱暴に揺すられる頭が徐々にスズトの意識を薄れさせ、脱力させて、なすがままに天狗猿の玩具として扱われ続ける。
「んぶっ、ゔッ、ん゙ォ゙ッ、ぉ゙、ゔッ」
ずこずこと咽頭の先の食道まで入り込んでは擦られる。粘ついた液が絡んで抽送が多少滑らかさを得ても込み上がる吐き気は当然治まらず、上がる溜飲を下す事すら許されない。
涙で滲んでぼやけたスズトの視界の向こうで天狗猿はさぞ愉快そうにニヤついて。
「ん゙っぅ゙、がぇ、エ゙ッ、ぎゥ、お゙え゙ぇッ」
いよいよ生命維持が困難なレベルまで酸素を失ったスズトの身体が勝手に暴れ出し、押し退け自らを引き剥がそうと、目の前の毛の塊に手を付ける。
だが力技を得意とするセリアンですら振り解けないその力を、弱り切ったアースランが引き剥がす事など到底不可能で。
白く濁った奔流がスズトの喉奥に放たれた。
気道も塞ぐ程の長さの先端から溢れるそれは嚥下の必要も無く胃へと流し込まれて、胃の中に残った空気と混ざり時折こぽこぽと小さく音を立てる。
満足げに喉を鳴らす天狗猿の声。まだ、まだ、穢れた奔流は止まらない。
「……ぅ、ぇ゙ッ……」
迷宮に絶え間なく吹き荒ぶ熱風の代わりにもならないようなその奔流が、ちろちろと燃えていたスズトの命を呑み込んで、消した。
死に物狂いの苦悶と狂乱に見開かれていた瞼が下りて、角膜の出っ張りに引っ掛かって、停まる。
もう数十秒経った頃に、ようやく天狗猿は腰を引く。
ずろりと欲が引き抜かれれば先端と舌を白濁の太い糸が繋いで切れて。留める事も出来なくなった胃の中の空気が漏れて、げっぷとよく似た音を鳴らした。
その場がしんと静まり返ってしまえば、背後でもう一匹に責め苛まれるソフィアの喘ぎが耳に入り、天狗猿のそれは大きさを取り戻し、硬く反り返って。
そして今一度、スズトの喉へと突き込まれる。
餌の気配を嗅ぎ付けたカラカル達が、岩陰からちらちらと様子を窺っている。
スズトだった肉体がまだ温かい内は、天狗猿の玩具として扱われ続けるだろう。
手酷い扱いに顎の骨が外れても、首の骨が折れて身体の重みに引き延ばされても。
「ソフィアッ、さ、ん……スズ、ト、さんっ……!!」
頭痛と耳鳴りが治まらない。僅かな揺れだけでも凄まじい眩暈に襲われる。
それでもシキは仲間の安否だけを気にかけて、天狗猿の尾を振り解きたいが身体に力は入らない。入っていたとしても、ぎちぎちに縛り上げられてぴくりともしなかっただろうが。
目の前の天狗猿の背中を蹴り上げたくてたまらなかった。既に何者にも代え難い仲間を1人奪ってくれた憎き背中を。
涙が滲む。仲間を奪われた怒りに。守れなかった悔しさに。今の自分の無力さに。
止まらない耳鳴りの中でも拾えるような、大きくて耳障りな羽音が近くで聞こえたかと思いきや、その音が収まると同時に側頭部に何かがのしかかったような重みが増えて、シキは固定されて動かせない頭の代わりに目だけを動かして、音の正体を確かめる。
まるまるとした青紫の体から薄茶色の脚と翅を持つ魔物。シキはその姿に見覚えがあった。
痺れゼミ。この第二階層に生息する蝉の魔物。
外敵から傷を付けられた際に発する、人の断末魔にも似た鳴き声は、一時的ではあるもののまるで麻痺に似た症状を引き起こさせる。
シキ達が今まで、幾度と無く苦しめられてきた迷宮に棲む魔物の1匹。
その性質からして臆病な性格である事が窺える痺れゼミが、躊躇無く外敵の頭部に留まって、先の尖った口吻で髪をかき分け、その向こうの頭皮に押し当てている。
尾でシキを捕まえている天狗猿は痺れゼミを気にも留めない様子で。何かに夢中になっている事が、動きを止めない肩口で察することができた。
痺れゼミが身体を回して、生え際へと伸びた口吻が何かを探すようにうろうろと皮膚の表面をなぞっている。
これから自分の身に何が起こるのか。薄々感付く事ができてしまったシキの目が恐怖に見開かれて、呼吸がどんどん乱れていく。
そして、次の瞬間には。
「がっ!? ぁ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ッ!!!」
こめかみに鋭い痛みと衝撃が走って、絶叫する。硬い口吻が頭蓋骨を突き砕いて、無遠慮に弱点へ進み入ってくる今まで全く経験の無い未知の痛みに、今すぐ殺してほしいと脳が勝手に懇願していた。
「ぃ゙や゙だァッ!! やだッ、あ゙、え゙あ゙あ゙ぁ゙あ゙ッ!!!!」
タガが外れたシキがどんなに暴れようと力を込めても、首と下顎までがっちりと固定する天狗猿の尾は頭を動かす事を許さない。
痺れゼミ自体も6本の脚でしっかりと頭にしがみ付いて、もし暴れる事ができたとしても、振り払う事は容易ではなかった。
根元に向かうにつれ太くなっていく口吻が、頭蓋骨の穴と擦れる音が鼓膜を介さずに直接頭に届いて乱反射する。
その音の中に、じゅる、と何か啜られるような音が加わった。途端にシキの身体が強張って。
「ぁ、ぁあ゙! や゙め゙でっ、食べないでッ! 俺のっ、ふ、はぁッ! は、お゙ッ、俺のアタマのナカぁ゙あ゙あ゙ッ」
悪夢のような音が頭に直接響く。シキがどれだけ乞い願っても、食事の箸は止まらない。
止めどなく溢れて、靴の先に溜まって、受け止め切れずに靴の爪先から滲み出た様々な液体の混合物が、渇いた土の床に落ちては染みて、消えていく。
「ぉ゙あ゙ッ、あ゙ッは、死゙ぬ゙っ、死ッ、死゙んじゃうっ、からっ! やめ゙、ゃえ゙てッ、ご、ォ゙ッ」
辛うじて可動する指先だけが、脳を啜る音と同期するように絶え間なく痙攣して跳ねている。
平衡感覚を完全に失った視界は回り続けて、それだけじゃない気持ち悪さにシキの口からは悲鳴の切れ目に吐瀉物と泡が溢れ出る。
「ぎァッ、い゙、ア゙、あ゙ッ! 助゙げでッ、たぢゅけでェエ゙ッ! ら゙ェ、ら゙れ゙かっ! 誰゙でも゙ッ、ィ゙イ゙から゙ァ゙っ!」
少しずつ、少しずつ、自我を形成する大事な物が削り取られ、破壊されて。
シキはもう仲間の名前を思い出せなくなっていた。当人はそれに気が付く事は無く、ただただ命の危機に子供のように咽び泣き、本能的に助けを求め続ける。
新しく食べられる部分を手繰り寄せるように頭の中の口吻が吸引を続けながらぐるりと円を描いて、新しく吸い付いた端から吸われて食われてく。鼻から漏れた血液が涙の筋と合流して、顎へ首へと流れていく。いつの間にか痺れゼミがもう一匹停まっていて、脳天からも食事を摂られていた。
「お゙っ、ぁ、へぁッ、あッ、ぇ、え゙……?」
突然、あんなに身体中を駆け巡っていた苦痛が、不快感が、じんわりと輪郭を滲ませ薄れて消えていく。
意識は水の中で浮いているように揺蕩って、気持ちいいとすら思い始めていた。
じきに数秒前に自分が苦痛に苛まれていた事すら忘れ始めて、そして――。
「ぉあっ」
ぢゅっ、と一際大きな音が頭の中で響いて。
それに連れ去られるかのように、シキの意識は消え去った。
満足した痺れゼミ達が、脚を拡げて身体を離し飛び立っていく。
塞ぐものが無くなったシキの頭に空いた穴からはダマが混じった血液がとぷとぷと止めどなく溢れ出して、銀灰色の髪の一部を新しく彩って。
飛び去る音に反応した天狗猿が尾を緩め、シキが湿って色が変わった土の上へと投げ出される。
司令塔の大半を失った身体は自立する事も無く柔らかい人形のように倒れ伏して、呼吸することも無くなったシキは緩やかに死へと向かっていく。
その近くの岩陰から、軽やかな足つきで跳ねるようにカラカルが飛び出した。
鮮やかな青い毛皮を持つそのカラカルも、この第二階層に潜む魔物の群れの一角だ。
岩陰から飛び出した一匹がシキに近付いてふんふんと鼻を鳴らしてにおいを嗅ぎ、改めて本当に食べていいものかどうかを確認する。
やがてパッと顔を上げ呼ぶように鳴くと、同じ岩陰から新たにカラカルが数匹顔を覗かせて餌の下へと走り寄る。そのまま誰の合図も無く、今すぐに食える部分へと食らい付いた。
肩や太ももや頬に牙を立てられ肉が引き千切られようとも、シキはもう悲鳴を上げる事は無い。ほんの少しだけ残った脳が伝達された痛覚を受け取って、僅かに指先を痙攣させる、その程度。
意識の無いシキの身体が彼方此方へ引っ張られ、揺れ動いて、その度にシキの身体はどんどん小さくなっていく。
土の床が血を吸って、どす黒く染まっていく。
「あッ、あぅ、ぁっ……」
途方も無い体力の消耗で薄まり続ける意識の中で、また新しく胎内に流れ込む熱から逃れたそうに、ソフィアは両手で掴まれたままの肢体を僅かにくねらせる。もしも反応が無くなってしまえば痛みによって別の反応を無理矢理引き出される事を、身体が覚えているが故に。
頭の中で愛する人の名前を呼び続け、これが終わればまた会えるという想いだけを自分を支える糸にして、ソフィアは責苦を耐えていく。
視界の端に映る筈の金色には気付かない。ソフィアの脳が、最後の希望が潰えている証拠である“それ”を認識する事を自然と拒否している。
痺れゼミに脳を啜られ、オオマダライヌとカラカルに食い荒らされて。あちこちの骨を晒す程に軽くなったスヴェンの身体はもう、眠りもしなければ、起き上がることも無い。
それでもソフィアは、朝になれば解放されて、また寝床で身を寄せ合って、安心して眠れるのだと。
僅かに日が傾いただけの、抜けるような青い空の下で、そう信じて疑わない。