白銀ノ語リ


紅ニ染マル白7
2015年9月5日 21:41






神楽が飲み物を買いに出ていった後、銀時はうとうとと微睡んでいた。
昨晩は悪夢ばかり視ていたせいでろくに眠れていなかった。
ゆっくりと瞼を開けたり閉じたりしているうちに本格的に眠くなってきてもういっそのこと寝てしまおうかと布団を被り直したその時、いきなりカーテンが開かれる。
神楽が戻ってきたのだろうか。ああ、でも眠すぎて目を開けられない。

「銀時、寝ているのか?」

聞き覚えのある声。
何とか重たい瞼を開けてベッドの傍らを見る。其処には険しい表情をした桂が立っていた。

「起こしてしまったか…すまない」
「……いや、ちょっとうとうとしてただけだ…それで何の用だヅラ」
「ヅラじゃない桂だ!」

桂の大声で一気に眠気が吹っ飛んだ。
うるせェよ、と眉を寄せて小声で呟けば、流石の桂もバツが悪そうな顔をして「すまない」と謝ってきた。
そんなこんなで何時ものやり取りを終えた二人は改めて真剣な表情をして互いを見る。

「それで何かわかったのか?」
「……白夜党…将軍の首を取らんと結成された過激派集団。坂井智広はそのリーダー的存在らしい」
「白夜党…」
「何やら坂井は将軍の首を取る為、影で色々と画策しているらしい」

例えば攘夷戦争時にその名を轟かせた最強の武神―――白夜叉の復活。
白夜叉の復活ぅ?と思わず桂の言葉に対して胡乱に返した。
誰に望まれようが、武神として畏れ崇められた白夜叉はもう二度と復活はしないだろう。銀時自身が戦いを、白夜叉になることを、望んでいないからだ。
もう二度とあんな虚しくなる戦いはしないし、そもそもしたくない。

「お前が戦いを望んでいないことくらいわかっている…しかし、忘れるな」

坂井智広に狙われていることを。
どんな手を使ってくるかわからない以上、警戒はしておくべきだ。

「坂井はあれで諦めるような男ではない」

昨日のことを思い出す。
仲間になる意思がないと知るや否や彼らは襲い掛かってきた。しかし、桂の存在に気が付いた彼らは銀時をそのままにして去っていった。―――いくらなんでも潔すぎるのではないか?あの時、動けない銀時を強引に連れ去ることくらい出来た筈だ。それともはじめから銀時を連れていく気がなかったのか。

「気を付けろよ」
「……わかってるよ」

子供たちに知られるわけにはいかない。もし、知られてしまったらきっと子供たちは銀時を心配して首を突っ込んでくるだろう。そんなことになったら銀時だけではなく子供たちにまでも危険が及ぶ。それだけは絶対に阻止しなくては。






*   *   *






病室に入るとお妙が僅かに目を見開く。
まあ、無理もないか。いきなり真選組の面々が訪れたのだ。驚かない方がおかしい。
お妙さん、と涙目になった近藤がベッドの傍らに駆け寄る。流石の近藤も怪我人であるお妙を気遣っているようで、何時ものようにしつこく詰め寄ることはしなかった。それに少しだけホッとする一同。
良かった本当に良かった、とグズグズと泣いている近藤を押し退けて土方が前に出る。

「詳しい話を聞きたい。良いか」

土方の言葉にお妙が頷く。
あまり覚えてないですけど、と前置きしてからお妙は刺された時のことを話してくれた。
斬られた時の痛み、滴る血、煌めく刃、翻る黒い髪、冷たい紅い瞳、最後に残された言葉。
怨むなら白夜叉を怨め、と。

「……白夜叉…」

近藤がポツリと呟く。
脳裏に浮かんだのは何時も死んだ魚のような目をして、人を小馬鹿にしたような笑みを浮かべいる万事屋の主―――坂田銀時だった。しかし、お妙は銀時が嘗ては白夜叉と呼ばれていたことを知らない筈だ。危うく口を滑らせそうになって慌てて口を噤む。

「そう言えば、旦那の姿が見当たりませんねィ」

沖田に言われて土方と近藤がはじめて気づく。
知り合いが傷つけられて黙っている奴ではないことを知っている。自分が原因となれば尚更動かないわけがない。まさか、子供たちに危険が及ばないように単独で動いているのだろうか。
しかし、近藤たちの予想に反して子供たちは首を横に振る。

「銀さんはこの事を知りません」
「は?知らない?」
「銀ちゃん、昨日から具合悪くなって今は入院してるアル」
「え、旦那、入院してるんですか?」

予想外の返答が帰ってきて近藤、土方、沖田、山崎は驚きを隠せずに声をあげたり驚いた顔をしたり様々なリアクションをした。
具合が悪いだけならそんなに驚きはしなかったが入院って。
そんな四人に苦笑を浮かべた新八が詳しい話をしてくれた。
数日前から夏バテ気味だったこと、昨日の日中に熱中症で倒れたこと、そして昨晩脱水症状でこの病院に救急搬送され、そのまま入院になったこと。
新八の話を聞いた土方が「不摂生な生活してるからだ」とぼやく。
まったくその通りなんですけどね、と新八が困ったように笑う。

「姉御のことを知れば銀ちゃん、きっと無理するアル」

そっと目を伏せる神楽。
自分のせいでお妙が傷付いたと知れば、優しい彼のことだ、自分の具合などそっちのけで犯人を探しに行くだろう。

「どうか銀さんには」
「わかった…内密にしておこう…ただし」
「ただし?」
「お前たちもこれ以上は関わるな。あとは警察の俺たちに任せておけ」

でも、といい募ろうとする新八を片手を上げて制す。
お前たちにもしものことがあれば銀時はなりふり構わずに動くだろう。無理をするどころか、もしかしたら最悪死ぬかもしれない。
近藤の言葉に新八と神楽が顔を真っ青にする。
万事屋を死なせたくないだろう、と言えば子供たちは小さく頷いた。

「と言うわけでお妙さん、あとは俺たちに任せてください」
「……よろしくお願いします」

病室から出る寸前、子供たちの声が聞こえてきた。
振り返ってみると新八が頭を下げて「よろしくお願いします」と小さな声で言う。彼の隣では不服そうな表情をした神楽が「ちゃんと犯人見つけろヨ、税金ドロボー」と悪態をつく。
新八はともかく、神楽はまったく素直じゃないな、と近藤は苦笑を浮かべた。









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