白銀ノ語リ


紅ニ染マル白6
2015年9月4日 21:58






「お妙さぁぁぁぁんっ!!」

真選組の局長である近藤勲の叫び声が屯所内に響き渡る。
その時ちょうど近藤の傍らに居た真選組の副長、土方十四郎と真選組の一番隊隊長、沖田総悟は手で両耳を塞ぎながら顔を見合わせた。
またお妙にフラれてきたのだろうか。いつまでも付き纏っているからだ。嫌われるのも仕方がない。
土方さん、近藤さんを慰めてきてくださいよ。
いや、総悟お前が行けよ。
お互いに近藤の慰め役を擦り付けていると泣き崩れていた近藤が徐に顔を上げる。
その顔は涙と鼻水でグショグショになっており、これには流石の土方と沖田も思わず顔を引きつらせて一歩後退りしてしまう。
おい、何か声かけろよ。
土方さんが声を掛ければ良いでしょう。
土方と沖田が目配せしている間に近藤がまたボロボロと泣き始める。これは相当重症だ。
はてさてどうしたものかと、二人が逡巡していると背後の襖が勢いよく開けられる。
部屋に飛び込んできたのは真選組の監察、ジミーこと山崎退だ。
いや、ジミーはいらないでしょう!とすかさずツッコミを入れてくるジミー(山崎)を土方は無視することにした。

「無視しないでくださいよ!って言うかジミー(山崎)ってなに!?普通は逆でしょ!って言うかジミーはいらないって言ってるでしょう!って言うかボケてる場合じゃないですよ!!」
「……何かあったのか?」
「事件です!」

山崎の一言で土方は表情を険しくし、沖田は大きな目を瞬かせる。今までうずくまって泣いていた近藤も涙と鼻水を拭い立ち上がった。
朝方、道の真ん中で血を流し倒れている女性が発見された。通報により直ぐ様、病院へ救急搬送されたらしいが、その女性は腹を斬られていたらしい。しかも刀で。

「あと、非常に言いにくいのですが…」

困ったような顔をした山崎がチラリと近藤を見る。
山崎の視線を受けて近藤が「どうかしたのか?」と不思議そうに首を傾げる。
なかなか口を開こうとしない山崎に土方は痺れを切らして山崎の胸ぐらをつかんだ。
はっきり言いやがれ、と胸ぐらをつかんだまま激しく揺さぶれば山崎は観念したように口を開いた。

「そ、その…斬られた女性…どうやらお妙さんらしいです…」

山崎の言葉を耳にした瞬間、息を呑む音が聞こえてきた。
振り返ってみると近藤が顔を強張らせていた。

「お妙さんっ―――!!」
「あ、近藤さんっ!」

身を翻した近藤が部屋を出ていく。
山崎をつかんでいる手を離し、咄嗟に手を伸ばしたが、その手が近藤の背に届くことはなかった。
ドタドタと遠ざかっていく足音。
やがて足音も聞こえなくなり、土方から解放されゲホゲホと咳き込む山崎の声だけが室内に響く。

「……で、どうしやす?」

沖田の問い掛けに土方は頭を掻きながらチッと小さく舌打ちをした。
まったく世話の掛かる上司だと心のなかで悪態を吐きながらも土方は隊服を翻して歩き始めた。

「近藤さんを追いかけるぞ」
「へい」
「山崎、パトカーを出せ」
「……は、はい!」

立ち上がった山崎が慌てて部屋を出ていく。
一体、誰が何の目的でお妙を襲ったのだろうか。あの女のことだそこら辺のゴロツキならきっと返り討ちにしているだろう。相手は手練れとみて間違いないだろう。
志村妙は真選組局長である近藤勲が惚れた女だ。もしかしたら近藤の弱点として彼女は狙われたのだろうか。それとも別の目的で狙われたのだろうか。どちらにせよお妙から詳しい話を聞かなくては。






*   *   *






薄らと瞼を開けたお妙。
虚ろな瞳がゆっくりと動く。

「姉上!大丈夫ですかっ!」
「姉御!大丈夫アルかっ!」

新八がお妙の手を握るとお妙も弱々しくだが、確かに新八の手を握り返してくれた。
それだけで嬉しくて、安堵して、今まで堪えていた涙が滲む。
良かった本当に良かった。姉上が生きていて。
姉御、と隣から震えた声が聞こえてきて目を向けると神楽が今にも泣き出しそうな顔をしていた。

「姉上、大丈夫ですか?」

ナースコールを押して、もう一度お妙に問い掛ける。
どうやらまだ意識がハッキリしていないらしく、ぼんやりと天井を眺めたまま微動だにしない。

「…あれ…私…」

虚ろだった瞳に光が宿る。
徐々に意識が戻ってきたのだろう。天井を眺めていたお妙の目が漸く新八と神楽を見る。

「…新ちゃん…神楽ちゃん…」

僅かに動いたお妙が顔を歪ませる。
腹の傷が痛んだのだろう。
あまり無理はしないでください、と新八が声を掛ける。しかし、お妙の耳にに新八の声は届いていないらしく、カサカサの唇を小さく動かして何やら呟いている。

「……私…仕事の帰りに…誰かに…刺されて…」

必死に振り返った先―――見えたのはお妙の血に濡れた刀と冷たく鋭い紅い瞳。逆行でよく見えなかったが、体格からして男だろう。そして、その男が去り際に言い残した言葉を思い出す。
怨むなら白夜叉を怨め、と。

「…ねぇ…白夜叉って誰?」
「……え?」

お妙の口から出た思わぬ名に新八と神楽は言葉を詰まらせる。
白夜叉とは銀時の二つ名である。
これを知っている者はきっと攘夷戦争に参加した者と新八、神楽、それからごく僅かな者だけだろう。
何故、お妙が白夜叉を知っているのだろう。
それを問うよりも先に看護師たちがやって来た為、二人は取り合えず病室を出た。

「何で姉御が白夜叉を知ってたアルか…」
「わからない…でも、きっと姉上が刺されたことと関係があるのかもしれない」

もし、お妙が白夜叉―――自分のせいで刺されたことを銀時が知ってしまったら、きっと彼は自分を責めるだろう。もしかしたらこれ以上被害を出さない為に銀時は新八たちから離れていくかもしれない。

「ますます銀ちゃんに知られるわけにはいかなくなったアルな」
「……そうだね」

銀時には頼らず、自分たちだけでお妙を刺した犯人を見つけ出さなくては。
決意も新たに病室へ戻ろうとしたその時、遠くからドタドタと足音が聞こえてきた。
何事かと足音が聞こえてくる方に目を向けると今度は覚えのある叫び声が聞こえてきた。

「お妙さぁぁぁぁんっ!!」

叫び声と共に忙しなくやって来たのは涙と鼻水で顔面をグショグショにした近藤だった。
流石はストーカー。お妙が刺されたことを聞き付けてやって来たのか。

「姉御に指一本触れさせないネ!」

薄汚いゴリラめぇぇぇ、と叫びながら神楽が地面を蹴り、近藤の顔面に向かって飛び蹴りをかます。
吹っ飛ぶ近藤。上がる悲鳴。
近藤の後を追いかけていた山崎が巻き込まれ、共に壁へとめり込んだ。
更に後ろからやって来た土方と沖田がボロボロの二人を素通りして新八たちに近付いてきた。









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