白銀ノ語リ


漆黒に咲く銀華2
2015年7月20日 22:14






記憶喪失以外は特に身体の異常はなく、目覚めてから数日後に銀時は病院を退院した。そして予定通り、雑用係りとして真選組に雇われることになった。
隊士たちや真選組で働いている女中たちは予め局長の近藤と副長の土方から説明を受けていたようで銀時をすんなりと受け入れてくれた。一部の隊士たちは怪しんでいたが、事情が事情だけに仕方がない。
自己紹介を終えた銀時は土方の案内で屯所の奥にある空き部屋へと通された。
隊士であれば問答無用で大部屋に押し込められただろうが、銀時はあくまで雑用係りなので特別に個室を与えられた。
長い間、使われていなかったようで室内は少し埃っぽかった。
障子を思い切り開けて部屋のなかに外の空気を入れる。

「坂田、来て早々に悪いが良いか?」
「なになに、早速仕事?」

縁側に出て外の空気を吸っているとすまなそうな表情を浮かべたゴリラ―――近藤勲が歩み寄ってきた。
食堂を担当している女中の一人が体調を崩して休んでいるらしく、銀時に食堂のヘルプに入ってほしいとのことだった。
断る理由もなく、銀時は直ぐ様近藤と一緒に食堂へと向かった。
厨房では隊士たち全員分の食事を準備する為、女中が忙しなく動いていた。

「えーと、俺は何をすれば…」
「そこにあるネギを刻んでくれる?」

ネギ?あ、これか。
大量のネギが山積みになっている。
まさか、これ全部切るの?
女中曰く、このネギは味噌汁の具に使われるらしい。
これ全部味噌汁の具に使うの、と疑問に思いながら大量のネギを手際よく刻んでいく。
なんとかネギを全部刻んだところで次は、と厨房内を見渡すが女中たちは忙しそうでとてもじゃないが話し掛けられる状況ではなかった。近藤もいつの間にか居なくなっていた。
はてさて、どうしたものかともう一度厨房内を見る。
コンロに大きな鍋―――味噌汁用の鍋だろうか―――が置かれていた。
鍋の中を覗き混むとなかは空だった。
もういいや、勝手に作ってしまえ。
許可を取らないまま、銀時はその鍋を使って勝手に味噌汁を作り始めた。
もう少しで出来上がるところで女中が味噌汁を作っている銀時に気付いてズカズカと近寄ってきた。
最初は勝手に作ったことを怒られるのかと思ったが逆に感謝された。
それから食事の時間となり、隊士たちが一気に食堂へとやってくる。
女中と協力して隊士たちに食事を配った。
因みに今日のメニューはご飯、味噌汁、焼き魚、漬物、きんぴらごぼうだ。
なかでも銀時が作った味噌汁は隊士たちにも好評だったらしく、それが少しばかり意外だった。
隊士たちがごった返していた食堂も随分と空いてきた頃、職務を終えた土方と近藤がやって来た。

「いきなり仕事を押し付けてすまなかったな」

近藤が厨房に立つ銀時を見付け、律儀に謝ってきた。
雑用係りとして雇われたのだからこれくらいのことやって当然だろう。何故、彼は一々謝るのだろうか。

「近藤さん、謝る必要はねェよ。それがコイツの仕事なんだからな」

銀時の心の声を土方が代弁してくれたが、何故かイラッとした。
テメェに言われたくねェよ、と小声で毒づいたが土方にはどうやら聞こえてなかったらしく、何食わぬ顔で昼食を持って行く。近藤も急いで昼食を貰って土方の後を追って行った。
配給の手を止めて食堂端の席に座った土方と近藤をチラリと見る。
土方がおもむろに隊服の胸ポケットから何かを取り出した。
なんだ、アレは?
胡乱に土方を見ている銀時に気付いた隊士の一人が「ああ、あれですか」と苦笑を浮かべる。

「マヨネーズですよ。副長の大好物らしいです」

ご飯やおかず、あろうことか銀時が作った味噌汁の上にまでも白い物体―――マヨネーズがこれでもかと言わんばかりに盛り付けられる。
いや、あれ大好物の域を越してるよね。もう中毒に近いよね。ってか、気持ち悪いんですけど。
うっ、と思わず口元を押さえて呻いていると、土方が銀時の様子に気が付いたようでマヨご飯を啜っていた手を止め怪訝そうな顔を此方に向けてきた。

「なんだ、具合でもワリィのか?」
「…テメェのせいでな」
「はぁ?何で俺のせいなんだよ!テメェが体調管理を怠ったせいだろっ!」
「ちげェよ!そう言う意味じゃねェよ!味覚だけじゃなく頭も馬鹿だろテメェ!!」
「あ゙ぁ!?誰が馬鹿だって!?」
「テメェだよ!飯に大量のマヨネーズぶっかけやがって!テメェの行為はなぁ、食材に対する冒涜だぞっ!!」
「マヨネーズの何が悪いってんだ!マヨネーズはなぁ、どんな食材にも合う万能な調味料なんだぞっ!」

土方が勢いよく立ち上がり、物凄い剣幕でズカズカと此方に歩み寄ってくる。
カウンター越しに胸ぐらをつかまれたが、此方も負けじと土方の胸ぐらをつかみ返した。
一触即発。今にも殴り合いを始めそうな二人に周囲の隊士たちもどうしたものかとざわめく。
唯一、近藤だけが銀時と土方を止めようと二人の間に割って入る。
近藤の必死の説得により落ち着きを取り戻した二人だが、これが切っ掛けで銀時と土方の仲は一気に最悪なものになった。―――まあ、もとから土方の野郎は好きじゃなかったけれど。
それから土方はことあるごとに突っ掛かってきた。
あるときは床の雑巾掛けしていると土方がやって来て「まだ汚れてるぞ」と一々指摘してきた。
あるときは洗濯物を干しているとこれまた土方がやって来て「これだと服にシワがつく」と干し方に一々口を挟んできた。
こっちも負けじと「テメェは小姑か、気に入らねェんだったらテメェでやれよ」と土方コノ野郎の顔面に雑巾や洗濯物を投げつけてやった。
アイツの顔を思い出すだけで腹が立ってきた。この苛立ちを目の前のジャガイモにぶつける。
思い切り包丁を叩き付けたらまな板ごと真っ二つにしてしまった。あ、やべ。
当たり前だが、真っ二つになったジャガイモとまな板を目にした女中が驚いていた。
因みに本日の夕食はサラダとカレーライス。因みにカレーライスはおかわり自由だ。
そんなわけでカレーライスのジャガイモを切っていた銀時は怒りのあまりまな板まで真っ二つにしてしまいました。アレ、作文?
まな板が真っ二つになると言う些細なトラブルはあったものの、カレーライスは特に問題なく出来上がった。
食事の時間になると次から次へと隊士たちがやって来て夕食を持っていく。
その間も銀時と女中たちに休憩はなく、食事の配給と食器の後片付けで厨房内を忙しなく動き回っていた。
気付けば食事の時間はあっという間に過ぎていた。
女中たちと協力して厨房と食堂の掃除をしていると不意に何処からか視線を感じた。顔をあげて視線を感じる方に目を向けると近藤がひょっこりと食堂を覗き込んでいた。
なにやってんだ、と声を掛けると近藤が気まずそうな顔をして食堂に入ってきた。

「あ、いや、トシに食事を持っていこうと思ったんだが…後片付けの最中だったのか」
「もう店じまいですぅー」
「夕食の残りとかはないのか?」
「残念ながらありませんー。マヨでも吸わせとけばいいんじゃね?アイツの大好物なんだろ?」

冷蔵庫からマヨネーズを取り出して近藤に手渡す。
いや確かにマヨネーズはトシの好物だけどもコレ食べ物じゃないからね、とマヨネーズを片手に尤もなツッコミを入れる近藤。
当の土方は自室で仕事に没頭しているらしく、近藤はそんな彼に夕食を持っていこうと思ったらしい。―――そう言えば食事の時間にあの憎たらしい面が見えなかったな。
二人の話を聞いていた女中の一人が「それじゃあ、夜食を作りましょうか」とエプロンを着けて厨房に入る。とは言え、そろそろ仕事を終え帰る時間の筈だ。
女中たちにも帰るべき家庭がある。それにこの周辺は夜になるとなにかと物騒だ。あまり遅い時間に帰宅させたくはない。

「おばちゃん良いよ。俺が作るから帰んな」
「え、でも…」
「俺はここに住み込みで働いてるから帰る場所はないけど、おばちゃんたちは違うだろ?」

独り身の銀時とは違って女中たちには帰りを待っている人がいる。
アイツの為に夜食を作るのは癪だが、どうせ自分の夕食分も作らないといけないので"ついで"にもう一人分作ってやるか。あくまで"ついで"だが。
普段なら残り物をいただく銀時だが、今日に限って夕食をおかわりする隊士たちが続出してカレーは売り切れ。何もいただくことが出来なかった。
今の今まで何も食わず働いていたので腹が減っていてしょうがない。
女中たちが次々と帰宅していくなか銀時は一人厨房に立ち、冷蔵庫のなかにあった残り物を使って二人分の夜食を作った。









Comment (0)



*← | →#
読する

opに戻る


-エムブロ-