でてくるひとたち
世界と反対まわりで
ちらりと腕時計に目をやるともうそろそろ日付が変わるような時間だった。バーのお客も少しずつ減ってゆく。がやがやした雰囲気は収束して、かわりにBGMがこころもちくっきりと耳に届く。スネアドラムの音が耳にくすぐったい。
「ほんで、人待ちじゃないねんなあ?」
また同じ問いを繰り返される。
「うん、ちがう、ひとり」
「ここ、よう来るん?ひとりで?てか、自分何歳よ?」
どの質問から答えようかな、と思ってとりあえずグラスに口をつける。水滴がつき始めたグラスから落ちそうなしずくをグラスをすばやく回してとどめる。その仕草をじっと見られているのには気づいていたけれど、知らないふりをした。
「何歳に見えるよ?」
とりあえず質問には質問を。
「えーとな、お酒飲んでるてことは20歳以上やろ?」
「うん、そうやよ、超絶基本的なところからいくんね?」
「おう……わからん、21てゆわれたらそう見えるし、26てゆわれてもそう見える」
そう言って、口元を歪めた。
「いや、どう見ても24やん?いっつも年上に見られるねんけど、最近やっと実年齢が追いついてきたのに」
適当な調子で返したのに、今度は馬鹿みたいに神妙にうなずいている。
「んなら、ぼくの歳も当ててや」
この一人称にはまだ慣れない。薄めに揃えた口ひげと短めのツーブロックの髪型で「ぼく」って繰り返されるたびに軽く衝撃なんだけれど。でもこっちの訛りで発音される「ぼく」はなんとも懐かしくって暖かい感じがした。
「27とか?」
なんとなくそれくらいだろうと思ったから、特にもったいもつけずに言う。
「あんまぼくのことに興味ないねやな?29やけどな」
ってなぜか残念そうに言うのが可笑しかった。
「うん、まあそんなに興味はないかな」
笑いながら答える。
年齢に興味がなかったのは本当。でも、この初対面から馴れ馴れしくて、懐かしい言葉で話し、やんちゃそうなのに「ぼく」とか言う男の人に興味がないわけ、ないじゃんね?でもまあ、言わないけどさ。
自分が酔っているのかいないのか、相手が酔っているのかいないのかもよくわからなかった。
退屈していた日々に
突然踏み込んできた男の人に悔しいけれど振り回される感覚を感じ始める。
それが心地よかった。
お酒にじゃなく、この瞬間に酔っていたいと思った。
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