でてくるひとたち
愚かなりわが心
さっき出されたばかりのジン・バックのグラスからぱちぱちと弾けて届くレモンの香りにぼんやりしていた頭がいくぶん冴えてくる。
「人待ち?」
と聞かれて、自分のグラスに視線を落としたまま小さく首を横に振ってみる。
初対面なのにあまりにもまっすぐこっちを見てくるから。けれどそれが嫌味でないところが、どうしてかよくわからない。
そこでふと疑問に思う。
「自分こそ連れがおるんじゃないん?」
そのまま、ストレートに尋ねた。なんとなく、ひとりでこういうとこにいる人ではない、と直感的に思う。
「おう、3人で来てな。なんかともだちの彼女が男と出かけよって、それ追わえてってな」
「は?」
思わず吹き出しそうになる。状況の滑稽さと、相変わらずの訛りぐあいと、それを違和感なくふつうに懐かしみながら聞きとれるわたし自身に対して。
「ほんで?」
先をうながす。
「いや、ほんでともだちとそのともだちが女問い詰めるゆうて行ってもうてさ。ぼく、面倒なんきらいやし、もうええわってゆうて」
もうここまでくると、ほんとうに笑い出してしまって、止められなくなる。馬鹿みたいな話とやんちゃそうな見た目にしての一人称の「ぼく」。
「いやいや、笑いすぎやろ。ほんなら、なんか女の子ひとりで退屈そうに酒飲んでんのんが見えてさ」
「わたしのこと?」
「おう、仲間おるわー思ってな」
そこで、ひとしきり大声で笑ってからおかしそうにわたしの反応を見る。
「ほんま、失礼な男やな」
わざと冷たい言葉を返す。もちろん、冗談の一環だとふたりとも知っている。
心からおかしいと思って笑ったのは、ひさびさだった。
人として惹きつけられるのをはっきり感じて、そっと空気を吸い込む。口元が緩むのを止められなかった。
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