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「キラキラしてる・・・。」
ななおは空を見上げる。
3月から4月にかけて桜はとうに満開し、ななおが入学式を向かえる日には桜の花びらの雨が降っていた。今日はそれに加えて、朝から小雨。雲の隙間からは光が差し込み、花びらと細かい雨を照らしている。
少し肌寒いけれど、その空気がまた心地良い。
風がななおの髪を揺らす。
講堂で式を済ませると、各学部に分かれて説明会をした。履修や単位について長々と説明され、終わったのは15時を過ぎていた。
「説明長いけど、居眠りするんじゃないわよ?」
松本の言葉を思い出す。
「私のころは桜が満開だったけれど、ななおの入学式はどうかしら。晴れるといいわね。」
残念、晴れなかった。でもなかなか綺麗だぞ。
彼女も今日は高校の入学式で慌しくしているはずだ。保険医だから担任はもたないけれど、健康診断の準備やらで忙しいだろう。
「もう生徒と先生じゃなくなるんだな・・・。」
嬉しいような照れくさいような、不思議な気持ちになりながらななおは微笑んだ。
「正門はサークルの勧誘がいっぱいでゆっくり歩けないから、9号館の裏門から帰るといいわ。入学式じゃ誰も歩かないはずだから。」
前日に彼女のアドバイスを受けたななおは裏門への石畳の道を歩く。たしかに誰も居ない。
高校生の自分から、少しは大人になれただろうか。松本に近付けるのだろうか。
でもきっと今もこれからも大人になっても、変わらないものは一つだけある。
松本が好きだ。
このことだけは変わらない。この思いを抱きしめながら、ゆっくり前に進んでいけばいい。
「髪、おろしてるのも似合うじゃない。」
ななおの思考はこの世で一番愛しい人の声で遮断された。
「・・・・松本!」
その愛しい人は裏門に笑顔で立っている。
「驚いた?高校は午前中で入学式は終わりなのよ。ななおの晴れ姿みたいから、急いで来ちゃった。」
「私が裏門から帰らなかったら、どうするつもりだったんだ?」
「ななおが私のアドバイスを聞かないわけないでしょ?懐かしいわねぇ、私が通っていた頃と変わらない。生徒から今度は後輩になっちゃうなんて、驚きだわ。」
この人にはかなわないなと思いながら、ななおは彼女が来てくれたことが嬉しくてしょうがなかった。
「松本と同じ大学が良かったんだ。学部は違うけどな。でも同じ景色を4年間みれる。」
「可愛いこと言ってくれるじゃない。」
不意に抱きしめられた。照れ隠しに顔をみられないように抱きしめるのは、彼女がよくすることだ。
彼女の腕の中は心地良い。いつまでも抱きしめられていたい。
そんなことを思っていると
「ななお、今日は渡したいものがあるの。」
彼女は私を見つめて言った。
そして左手を両手で包まれる。温かい感触に胸が高鳴る。
目が合うと彼女が柔らかく笑う。
そっと薬指に冷たいものが触れた。
「ななお、結婚しよう。」
溢れた涙で前が滲んで見えない。でもきっと愛しい人は、優しく微笑んでいる。
「松本・・・。」
「あなたが生徒でなくなったら、今度は私からプロポーズしようと決めていたの。今日という日を待ちわびていたわ。」
あぁ、幸せだ。心から思う。
「松本、大好き・・・。」
「私もよ、ななお。」
泣き過ぎだと笑う彼女に松本も泣いてるじゃないかと言うと、これは雨よなんて言い訳をするから余計愛しくなって抱きしめた。
桜舞う小雨の中、二人の影が重なる。
これからもずっとこんな風に二人で幸せな時を過ごしていこう。
誓えるよ
たとえバージンロードを踏み外して歩いても
誰かが笑っても
二人が指輪をはめたから
END
管理人の紫月秀真(しづきひでま)です。
性 別 | 女性 |
地 域 | 新潟県 |
職 業 | 職人 |
血液型 | A型 |