床に散らばっていたのは、デザイン画だった。
珠子さんには憧れの先輩がいた。
そして、わたしにも同じように憧れの先輩がいた。
わたしと珠子さんの憧れの先輩は、いつも二人一緒にいて、とても目立つ存在だった。
他の人とはちがう、空気をもっていて
特別な力を、もっていて
わたしたちはそれに憧れて、目をキラキラさせていた。
ああ
ああ
気づいてしまった
わかってしまった
あなたも
わたしも
まだまだだってこと。
なにが才能だ
なにが天才だ
見た目の美しさなんて、今じゃ空っぽの飾りにしか過ぎない。
気づいてしまった
気づいてしまった
このデザイン画は
鏡に写る、わたしの姿は
まるで、あのふたりの先輩の真似事にしかすぎないってことを。
「お前たちは、よくにてる」
卒業していった、あのふたりに。
「でも、それは」
ただの模造品でしかない。
「志紀子」
「珠子」
お前たちは、なにになりたい?
さよなら
甘ったれたわたしたち。
「別の女みたいだ」
そう言って、先生はわたしの後頭部を掴んだ。
今まで髪に隠れていた首筋を、一撫で
ぞわぞわとした感覚に、慣れないなあと思う。
「髪型がかわると、女は変わるね」
まるで知ったような口を聞くから、おもわずわたしは鼻で笑ってしまいました。
「先生も切ってみたら?きっと首を吊るより簡単ですよ」
人は、案外かんたんに生まれ変われたりする
変わるための一歩が重要らしい。
「は!」
今度は、先生が鼻で笑うばんでした。
「夢ばっかりの、ポップミュージックみたいなこと言うなよ」
それも、そうね
結局は気休め
わたしの言葉じゃ、先生には響かない。
「蛹になれればいいのにね」
蛹の中身を知ってる?
1度ぐちゃぐちゃに溶けて、それから蝶の形を作っていくの。
生まれ変わる
地を這う虫から、空を舞う
醜いものから、美しいものに。
ああ、でも
「でも、先生は、溶けたきり戻ってこないでしょうね」
あの先生に慰められるなんて!
さっきまで人生に悲観して、首を吊ろうとしていた人に慰められるなんて、
わたしは相当弱ってしまったらしい。
「弱者には優しくしろ、と親に言われたものでね」
「弱者、」
「弱きもの、汝の名は女なり」
「はは、今のわたしにぴったり。シェイクスピアですね」
笑うと、下腹部がずくずくと痛んだ。
赤い憂鬱
今朝の雨といっしょにやってきたそれは、どうしようもない痛みだった。
「女くさい」
「血臭くて悪かったですね」
「いや、好きな臭いだ」
「、きもちわる、」
雨と鉄
灰色と赤
錆と曇天
コントラスト
きもちわるさに目眩がして、可笑しくなった。