ぎゃあぎゃあと騒がしい一角を見つけ足を止めれば、そこにいたのは見慣れた紅と黄色。内心「またか…」と呆れつつも、足は自然とそちらに向かっていた。
「お前ら、またやってんのかよ」
よく飽きねぇなぁ、と続ければギロリと向けられた鋭いダークグレーと翡翠の瞳。
「『コイツが悪いんだッ!!」』
互いに互いを指差しながら異口同音。実はこの二人、もしかしたら仲が良いんじゃないかと思う。
まぁ、言ったら言ったでいっそ死んだ方がマシだと思えるくらい大変な目に遭うから敢えて何も言わないが。
「で、今度は何で喧嘩してんだよ?」
正直、最初は見ていて楽しかった。
互いを毛嫌いしているのか、言ってることは筋が通っているようで全く目茶苦茶で。飛鳥が大人げないと言えばそれまでだが、まぁ確かに龍にもこちらの神経を逆なでするような言い方をするから、要するにどっちもどっちというわけだ。
だがしかし、周りを巻き込むのだけは止めてもらえないだろうか。
飛鳥の炎も龍の電撃も、天翠には大して効果は無い。けれど、龍の電撃で水城が大ダメージを受けるのだ。
これを見てみぬ振りするなど、天翠には出来るはずもなかった。
「おい二人と――」
「いい加減にしろよ、チビ!"苺には砂糖って相場が決まってんだよ"!!」
………は?
喧嘩を止めさせようと口を開いたが、飛鳥から出てきた思いもよらぬ言葉にフリーズした。
『はぁッ!?"苺には牛乳でしょ、牛乳"!!ただ甘いだけじゃなくて健康的なんだよ!?』
つっこむとこはそこじゃあないだろう。
既に半目になってきているのを自覚しつつ、耳を傾けた。
「ハッ!!糖尿病が怖くて甘党やってられっかよ!!」
『ちょっと、それじゃあお姉ちゃんが苦労するでしょーが!!』
「上等だ!そうしたらアイツを独り占め出来るし、なぁ?」
『なッ…!!じ、冗談じゃないよ!お前なんかと一緒にしたらお姉ちゃんが危ないじゃん!』
「チビの相手よりゃマシだろうぜ!」
『フン、お姉ちゃんだって万年発情バカの相手なんかしてらんないんじゃない?』
「っだとチビ!!」
『何だよトカゲ!!』
バチバチと睨み合う飛鳥と龍。だがしかし、最初の議題は何処へいったんだ。
何をどうしたら「苺に何をかけるか」から「彼女に相応しいのはどっちか」になるんだ。
「ハァ…」
何故だかこっちが疲れてしまって、天翠はため息をついた。そしてふと目に付いた苺と砂糖と牛乳を眺め、更には未だに舌戦を繰り広げる二人を見遣り、その三つを手に取った。
そして苺を食べやすい大きさに切り裂き、砂糖と牛乳を混ぜ合わせて苺に並々と注いだ。
「おら、二人とも。これで文句無ぇだろ?」
ずいっと差し出せば、それは意外にもあっさりと二人の手に渡った。そしてそれはあっという間に完食され、残ったのは空になった皿と間抜け面した天翠だった。
「かぁ〜、やっぱ美味ぇなコレは!」
『やっぱ混ぜ合わせるのが一番だね〜』
先程の舌戦と睨み合いと殺気は何処へやら、すっかり和んだ空気でのほほんとする飛鳥と龍。
今、何かおかしな単語を聞いた気がする。
「"やっぱ"っておい、だったら最初から混ぜ合わせとけよ」
「『やだ」』
「…即答かよ」
本当にこの二人、実は仲が良いんじゃなかろうか。というか、何で嫌なんだ。
『だって、それじゃあまるで僕とアスカの意見が一致したみたいじゃないか』
「んな気色悪いこと出来っかよ」
「……」
しれっと宣う二人に、天翠は今度こそ何も言えなくなった。
苺みるく
(こいつら、馬鹿なんじゃねぇの?)