17:26 2024/1/4
話題:アニメ映画

『秒速5センチメートル』

原作・監督・脚本:新海誠
音楽:天門
出演:水橋研二、近藤好美、尾上綾香 他

友人からの薦めで視聴した、私にとっては初の新海監督の作品。『桜花抄』『コスモナウト』『秒速5センチメートル』の3種の短編から構成されており、主人公・遠野貴樹と彼と惹かれ合った少女達の日々、彼らの距離の移ろいを描いている。貴樹は小学生の頃、篠原明里と親しくなり、共に過ごす事が多くなるが、卒業と同時に栃木県へ転校した明里と離ればなれになる。けれども二人の関係は途切れず、中学生の夏のある日を切っ掛けに文通をし始めた。一方、貴樹も鹿児島県へ転校せざるを得なくなる。明里に二度と会えなくなるかも知れない、という不安を抱いた貴樹は単身栃木県へ赴いた。ところが、電車で現地へ向かう道中大雪に見舞われ、幾度も立ち往生。その上、明里に手渡す筈の手紙は風に飛ばされてしまった。そんな不運が立て続けに起きてしまったが、約束の時間に大幅に遅れながらも、貴樹は漸く想い人との再会を果たす。けれども、明里との繋がりは貴樹にとっての生き甲斐であると共に、いつしか呪いのような存在と化していた。

「恋は盲目」と言うけれども、一人の人間へ抱いた恋愛感情は確かにその者だけにしか目を向けなくさせる。一度たりとも忘れられず、まぶたの裏に焼き付いた面影を追い続けるあまりに。そして、自身に好意を寄せる者の存在に気付けなくなり、無意識に周囲と距離を置くようになる。恋が実らずとも、運命の歯車が噛み合わずとも何らかの形で想いが届かないかと模索する。その結果純粋な恋は心に重く伸し掛かり、鈍い痛みを与えながら傷を残して行く。しかし、自身の今後を大きく変える事になろうとも、本当に決断しなければ一度芽生えた感情を捨て去るのは難しい。それは最早、体の一部に変わってしまっているだろうから。とはいえ貴樹はこれからも、明里と紡いだ思い出の破片をずっと探し求めるのではないだろうか。狂おしい程に愛しい彼女が、心の中に宿る限り。




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