情報屋やめます宣言。
臨也さんは転職するようです。
「なんか飽きちゃったなぁ」
「はい?」
仕事も落ち着いてきた午後三時。
突然意味の分からないことを口走り始めた臨也に、波江と正臣は首を傾げた。
「なにがッスか」
「悪い事、かな?」
「自分が悪事を働いてる自覚があったのね」
「まぁね」
きい、と音を立てて椅子を回した臨也は、そのまましばらく黙って窓の外を見つめる。
彼の唐突さはいつものことだ。
そう思いまた何事もなく仕事を続けようとした二人だったが、携帯を開いた臨也の台詞に目を見張った。
「あ、もしもし四木さんですか?折原です、ご無沙汰してます。…実は訳あって私、情報屋をやめることにしたんです」
「は!?」
「ちょっと臨也?」
「えぇ、えぇまぁそんなところです。…いえ、こちらこそ唐突ですみません、ですから……はい、ありがとうございます。…え?あぁもちろん、四木さんを裏切ることはありませんよ。いくら卑怯な私でも。…はい、それではまた」
ぱたん、と携帯を閉じた臨也は、そのままくるくると椅子を回してにこにこと笑う。
全く状況の掴めない二人はただ呆然としたままその愉快そうに笑う上司を眺めた。
「波江、正臣君、俺情報屋やめるわ」
「な、え、臨也さん?」
「で、探偵になる!」
「はぁ?」
なぜいきなり探偵なのか、というかそもそもなにを考えているのかさっぱりわからない。
目を白黒させる二人に、臨也はすくっと立ち上がってパソコンの線を引き抜く。
呆然とその行動を眺めていた二人は、臨也の次の行動にさらに目を剥いた。
「神様アターック!!」
「うわっ!?」
勢いよく叩きつけたパソコンは大きな音を立てて砕け散る。
破片が飛んできた正臣は思わずそこから飛び退いた。
「あ、ごめんごめん」
「いやごめんじゃないでしょ。いいんですかコレ」
「今受けてる仕事はもう終わってるからね。問題ないよ」
「片付ける身にもなって頂戴」
「あは、美人が台無しだよ波江」
眉間にしわを寄せる波江をからかいながら、臨也はセルティの首を隠した所まで歩み寄る。
その棚をじっと見つめながら、「これ、もう彼女に返していい?」と呟く。正臣は何のことかわからないという顔をしたが、波江はほんの少し考える素振りをする。
まぁ急がなくてもいいかな、と呟いた臨也は、棚に背中を預けてつらつらと心境を語った。
「人間は好きだよ。人間が右往左往する姿は面白い。騙されたと気づいた時とか、裏切られた時に何をするかわからないのは面白い。でももうそれも飽きちゃったんだよねぇ」
「飽きちゃったって、子どもですか」
「子どもだよ。俺は中身はただの子どもさ」
「で、その子どもが今度は探偵ごっこ?」
ため息をついた波江に臨也はにやりと笑う。
しかしなぜかその表情には嫌みのひとかけらもこもってはいない。
始めてみるその表情に二人が驚いた顔をすると、彼は窓の方に顔を向けて目を細める。
「もういい。悪いことは、もうおしまい」
「どうして、ですか?」
「大事なものができたから、かな?まぁ年食って落ち着いたのかもね」
臨也の大事なもの。
まさか彼からそんな言葉が出るとは思わなかった正臣は、返答に困って後ろ頭を掻く。
それをくすりと笑って眺めていた臨也は、一度目を閉じて沈黙する。
そのまま30秒ほど黙っていた臨也は、ゆっくりと目を開けてこう言った。
「俺もね、完全に悪人って訳じゃないんだよ」
そう言った臨也の表情は穏やかだ。
話についていけない正臣は、ただ目を白黒させるばかりだ。
臨也は棚から離れて飛び散ったパソコンのそばに寄る。
砕け散ったパソコンはもう多分修理できないだろう。
「新宿池袋からは離れる。東京からは出ないけど。着いてくるかは自分で決めて」
「本気なの?」
「もちろん。…正義の味方が柄じゃないのはわかってる。でも人とは関わりたいし、今まで見たことのない表情が見たいから」
見たことのない表情、それは多分純粋な笑顔なのだろう。
今まで面白い、と見続けてきた人間の負の表情はもういらないと言いたいのだろう。
今までずっとアンダーグラウンドで生きてきた彼に、本当にそこから足を洗えるかはわからない。
けれどこの男ならあっさりできてしまいそうな気がする。
どうしようか、とぼんやり考える正臣をよそに、波江はため息をついた。
「貴方がしたいようにすればいいわ」
「はは、ありがと波江。で、君はこれからどうするつもり?」
「一緒に行くわよ。今更貴方から離れたらすぐ殺されそうだし。アレは貴方の好きにすればいいわ」
「ふぅん。正臣君は…まだ返事できな、」
「行きます」
え、と今度は臨也が目を見開く。
正臣ははっきりともう一度「一緒に行きます」と答えた。
「俺も、いい人な臨也さん見てみたいです」
「…よかった」
くすりと笑った顔はなんの毒気も嫌味もない。
もしかしたらまたすぐ情報屋に戻るかもしれない。
「やっぱりやめた」くらい言いだすかもしれない。
それでもいいと思えたのは、多分臨也が時折見せていた素の笑顔に気づいていたからかもしれない。
二人の返事に満足そうに笑った臨也は、パソコンから離れて一言呟いた。
悪いことは、もうおしまい
(そうと決まれば引っ越しかなー)
(その前に残りの仕事でしょ)
(より先に片付けじゃないッスかね…)
--
悪いことやめちゃう臨也さん。
25だしそろそろ落ち着けという意味を込めましたよね。
臨也の大事なものは波江と正臣です。
なんか一緒にいるうちに予想外に大きな存在になっちゃって、なんか色々巻き込んでることに罪悪感みたいなものを感じ始めてます。
だからもう悪いことはやめて守ってあげよう、みたいな。
でも人間から離れたくはないからなーみたいな。
で、調べるのが得意なので探偵に行き着いた、と(笑)
そのうちその筋じゃ有名な探偵になるんだと思います←
相変わらず偽物サーセンっしたああああ!!
落