財務省は、国の財政赤字が2011年度末に667兆円まで増え、「我が国を、月収40万円の家計にたとえると」「ローン残高6,348万円」になるとしています(財務省「日本の財政関係資料」2011年9月版)。


額面どおりに受け取ると、まさに子孫の代まで借金漬けですが、本当にそうなのでしょうか?


日本は「財政破綻」寸前なのか。


財務省の「誇大広告」=子孫の代まで借金漬け?


財務省は、この十数年来、財政を家計にたとえて大変な状況だと説明しているのですが、これは「誇大広告」のたぐいです。

加えて罪深いのは、財政に対する一面的な見方を国民の間に広げ、日本の進路を間違った方向に導きかねない危険性を持っています。

家計でも借金だけ見るのは間違い。

そもそも、家計の問題を考えるときでも単純に借金だけを見るのは間違っています。

家とか土地とか金融資産などがどれくらいあって、一家としてのバランスシートはどうなのかを見ないといけないのです。

たとえば、住宅ローンを借りて家を建て借金が1千万円ある家計と、持ち家などは無いけれど借金はまったくない家計を、借金の金額だけを問題にして比較と、おかしな話になってしまいますよね。

国の場合も同じで、借金が多いことだけを問題にするのは一面的な見方なのです。

借金だけではなくて、資産の方も見なければいけないのです。

日本政府のバランスシートは「資産が借金を上回っている」そして「世界一の金あまり国」です。

2010年12月末時点の日本政府は、世界一の金融資産494兆円を持ち、いろんな固定資産等579兆円も持っていて、日本政府のバランスシートは資産が借金を上回っており、借金の全額は資産で担保されています。



主要国の国内余剰資金について。


2010年12月末で、日本の国内余剰資金は251兆円もあって、日本は「世界一の金あまり国」でもあります。

他の国の余剰資金は、2位が中国167兆円、3位はドイツ114兆円で、日本はドイツの2倍以上、他の国の何倍もの余剰資金があるのです。

「世界一の金あまり国」というのは何を示しているかというと、日本政府は大きな借金を抱えているけれども、まだお金が借りられる条件があり、日本経済には貸す力があるということなのです。

ですから、マスコミなども「子孫の代まで借金を残していいのか」などと「誇大広告」をしますが、事実は、子どもや孫たちに借金だけを残すわけではなくて、あわせて金融資産や固定資産をきちんと残すことになるのです。

日本の財政問題を考える際に、「借金だけ」を取り出して議論する人を見かけたら要注意です。

財政の問題を考えるときは、借金と資産の両方を同時に見なければ、議論の前提自体を間違えます。


国の財政と家計は性格が違う。


単純には比べられない国の財政と家計。


国の財政と家計はそもそも性格が異なるということを、きちんと認識しておかないとおかしな議論になりますので注意が必要です。

当たり前の話ですが、家計というのは収入が限られていて、収入を簡単に増やすことはできませんから、その収入の中で暮らしていかなければなりません。

家計では、まず収入の方が先にあって次に支出の方を考えることになります。

ところが政府というのは、家計とは性格が違います。

そもそも政府をなぜ私たちが持っているかというと、市場の世界だけでは供給されない公共サービスなどを国民に提供させるためです。

すべての国民の暮らしを守るために政府はある。

たとえば、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」、「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」と憲法25条に明記されているように、政府はすべての国民に生存権を保障しなければなりません。

あるいは、教育などもそうですよね。

政府はさまざまな公共サービスを国民に提供する役割があるのです。


そうすると、政府というのはさまざまな公共サービスを提供する役割が最初にあって、そのために税金を集める必要があるということになります。

政府の果たすべき役割からスタートする必要があるから、出す方(支出)が先で入る方(収入)は後で考えるという順番になり、家計とは逆転して考えなければいけないのです。

それなのに、家計にたとえてしまうと、政府の大切な役割はどこかに消えてしまって、「とにかく借金をなくさなければいけない」という話だけになっていってしまう。

政府の大切な役割として、これだけのサービスを提供する必要があるから、税金を集めなければいけないのだけど、足りないとなれば当面は借金をしてでも政府のやるべきことをやっていくと考えるべきなのです。

こうした政府の役割の問題を抜きにして、借金だけを問題にする本末転倒した議論が非常に多くなっていおり注意が必要です。

それから、マスコミなどで、「いま生活は厳しいけれど、自分たちの世代の責任で国の借金を返さないと子どもたちに迷惑をかける」などという論調も見受けられますが、これも国の財政と家計を同じように考えている間違った議論です。

住宅ローンなどの家計における借金は、一般的に借りる本人が子どもには残さないよう全額返すことを前提にしてローンを組みます。

しかし、そもそも政府には寿命がありませんし、借金の全額を返さなければいけない期限もありません。

事実、日本以外の国でも、借金を全額返したという国はなく、国の借金があること自体は問題ではないのです。

もちろん、現在の大きな借金のままでずっといいというわけではありません。

しかし、「いますぐ返さなければ大変なことになる」などといった「脅し文句」は、社会保障などの公共サービス削減や公務員労働者の人件費削減、そして、消費税増税のための口実でしかありません。