すっかり忘れてたんだ。
過去に置き忘れてた気持ちを。
そして今の大切さを。
素直なこころ。 ー前編ー
「何よっ!乱馬の馬鹿!!大っ嫌い!!」
「あっあかね…!!」
ある日の帰り道。
付き合い始めた私たちは、久々に2人で放課後買い物をしていた。いわゆる放課後デ−トってやつだ。久々だったし、付き合い始めだったこともあって、私は正直かなり楽しみだった。…でも、そんな期待は大きく崩れ去ってしまった。
付き合い始めたとはいえ、私たちはあまり前と変わらず、乱馬は相変わらずシャンプ−たちにはっきりしていなかった。だからこの日も、偶然現れたシャンプ−に乱馬ははっきりせず、私はいらついた。そして悲しくなった。せっかくの2人の時間が、楽しみにしていた時間が、乱馬のせいで台無しになってしまった。乱馬の曖昧な態度のせいで…。そして、私の可愛くない態度にも、腹が立った。
私はそんな気持ちを抱えたまま、シャンプ−とイチャついている乱馬を置いて、1人家に帰った。すると、珍しくみんな用事があるとかでいなかった。みんな帰ってくるのは夜遅いみたいだ。
(乱馬の奴はあんなだし…今日は私1人か…。)
そう思いながら、自分の部屋に行こうとしたら…
「あかねちゃあ〜ん!」
「!?おじいさん!!」
私の部屋の前におじいさんが立っていた。
(そういえば、おじいさんがいたの忘れてた…)
「待ってたぞ、あかねちゃん。ちょっと頼みがあってのぉ。」
「頼み?変なことじゃないでしょ〜ねぇ?」
「ひどいっあかねちゃん!ただこれを預かってほしいだけなのに…!」
そう言いながら抱きつこうとしてきたおじいさんを突き飛ばし、私は聞いた。
「預かってほしいものって?」
「これじゃっ!!覚えとるかのぉ?」
「!?そっそれ…南蛮ミラ−じゃない!!」
おじいさんの手には、以前壊れたはずの南蛮ミラ−があった。
「ピンポ−ン!とゆうわけで、あかねちゃん頼んだぞいっ!わしもちょっと用事があるのでなっ」
「ちょっと!おじいさん!!」
そう言って私に南蛮ミラ−を押し付け、おじいさんは行ってしまった。
「もうっ……ってどうして壊れたはずの南蛮ミラ−をおじいさんが……あっ!」
よく見ると、接着剤でくっつけた後があった。
「あの後くっつけて、またおじいさんが持ってたのね…!」
南蛮ミラ−とは、戻りたいと思った過去を思い浮かべながら、鏡に涙をこぼすと、その過去に戻ることができるという不思議な鏡だ。でも以前壊れてしまったので、まさかまた修復しておじいさんが持っていたなんて思いもしなかった。
「はぁ…仕方ないわね。」
私は預かった南蛮ミラ−を持って、部屋に入り、ベッドにダイブした。
「………乱馬の馬鹿…」
さっきの出来事を思い出すと、悲しくて苦しくてたまらなくなる。付き合っているのに、何で私たちは付き合う前と変わらないんだろうと、切なくなる。
「乱馬は…私のこと…本当に好きなのかな……」
ずっと抱えていた不安を改めて口に出すと、余計に悲しくなった。
「っ……」
終いには涙がこぼれて、とまらなくなった。
(いつから私はこんなに弱くなってしまったのだろう?)
「っ…昔はこんなんじゃなかったのにな…っ」
そう、昔は男に興味なんかなくて、もっと強かったはずだ。まぁあの頃はあの頃で、叶わない恋に苦しんでいたけど…。でも、こんな弱くて、好きな人のことばっかり考えて、嫉妬して、涙を流すような自分じゃなかった…。
(私…いつからこんなに乱馬のこと……)
気付いたら、こんなに好きな気持ちは膨らんで、親同士が勝手に決めた許婚のはずだったのに、いつの間にかそれを受け入れるようになり、こんなにも乱馬は私にとって大切な人になっていた。
(……それなのに、どうして……上手くいかないんだろう…っ)
昔の…まだ乱馬を好きになる前の私なら、今こんなに悩むことはなかったのかもしれない。こんな気持ちにはならなかったのかもれない。
「…こんな気持ち知らなかった私に…戻れたらいいのに…っ…」
そう呟いた次の瞬間、
「っ!!?」
私は眩しい光に包まれ、そのまま持っていた南蛮ミラ−に吸い込まれてしまった。
(私っ…まさか……!!)
そう気付いたときにはもう手遅れで、私は過去にタイムスリップしてしまっていた。
そう、まだ私が乱馬のことを好きになる前の…あの時代に…−
ーー 中編へ続く ーー