1月31日が、愛妻の日というのを知り、よっしゃ夫婦なあまあまレイリタ書こう。となって書き始めたものでした。
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追記からも読めます。
結論からいうと、あまあまどこにいったのやら。なんだかとてもすれ違い夫婦になりました。
そもそも「この台詞を使いたい」と思った台詞があまあまにならぬ要素しか含んでいなかったような気がしないでもない。
「もし、万が一のことがあったら、真っ先におっさんのところに連絡が来るようにしたかった。リタっちがおっさんの奥さんになることで、騎士団よりも、ユニオンよりも、一番最初に連絡が来るような、そういう存在になりたかった」というのが今回一番書きたかったやつなんですが(反転すると見えます)、おそらく、レイリタを書く際に「家族のあり方」というのにやたらに重きを置きたがる傾向が強いからなんだと思われます。
レイヴンは家族をみんな亡くしてしまった。リタっちもそう。家族同然の仲間とはなり得たけど、家族ではない。
仲間であり友人でも何かあったときには連絡は届くだろうけど、一番にはならないかもしれない。だけど家族ならほぼ間違いなく一番になる。だから、家族になろう。失うのはもう、嫌だから。
そんな感じのことをレイヴンが考えた……みたいな。
その結果、ほわほわなあまあまレイリタどこいったのー?クリームあんみつに黒蜜追加くらいあまいの大好きなんですけどねー?
当初はおっさんがリタっちをでろでろに甘やかすはなしの予定だったことを付け加えたところでいいわけを終わりにしたいと思います。
この台詞を軸にしてもほわほわなの書けたんではないのか?というツッコミつき。
リタの仕事の多忙さがピークのとき、レイヴンとリタは夫婦になった。色々なひとに「何でこの多忙なときに……」とよく言われたのだが、タイミングだったとしか言いようがない。
そう言うたびに首をかしげられるのは仕方がないけれど、レイヴンもリタも忙しくてろくに一緒に過ごせないのは承知の上で夫婦関係という道を選択したのだ。
今日は結婚記念日だ。
結婚してからこの一年、大した会話はしていない気もする。お互い、寝るために帰宅しているようなものだった。二ヶ月に一度、心臓の検査があるのでその時は確実に会えるし近況も話し合ったり出来たけれど、逆を言えばそれくらいしかきちんと面と向かって話す機会がなかった。
が、多忙のピークは越えたことと、結婚記念日くらいは一緒に過ごそうということになり、ふたりともかなり頑張って休みを合わせたのだ。
「わっ、リタっちおはよ!早起き!」
「おはよ。朝ごはん、トーストとオムレツとサラダでいい?」
「じゅーぶんじゅーぶん。ていうか昨日も遅くまで資料読んでたし、ゆっくり寝ててもよかったのに」
「……結局ほとんど約束守れてないから」
「あんなの約束ってほどじゃないでしょ」
起き抜けのレイヴンが台所に向かうと、すでにリタがそこにいて、朝食の支度をしていた。
一年前、レイヴンはリタに「リタっちは魔導器の代わりの動力源を完成させるお仕事のが大事だから、おうちのことはおっさんに任せてちょうだい」と告げて思いきり殴られた。
その時、怒り心頭のリタは「あたしだって家にいるときは朝ごはんのひとつやふたつ、作るわよ!」と啖呵を切ったのだ。
結局リタがレイヴンに朝食を用意したのは、二ヶ月に一度の定期検診の時だけだった。
「……ごめんね、なかなか家にいる時間がなくて。家にいても資料見たり研究ばっかりで」
ことん、とテーブルにオムレツとサラダの乗ったお皿を起きながら、リタはしょんぼりとしている。さすがにここまで多忙なのは想定していなかったのだ。
魔導器に代わるエネルギーの開発に携われる研究者は、実はそれほど多くはない。それは今まであったものの研究をするより新たに産み出すことの方が何倍も難しいからだ。
リタはその開発の中心にいる。長年ひとりで研究を続けてきたリタだが、人員が多くはないといえど、方針を決めたり指示を出さなければならなくなった。それに加えて研究もしていたのだ。リタ本人の自覚は薄かったものの負担は大きく、多忙になるに決まっていた。
その仕事漬けの日々も、ヨーデルやエステルの尽力により、ようやく改善されてきたところだった。
泣きそうな顔をしているリタに、レイヴンはにっこりと微笑んだ。
「……ま、適度に休んで欲しいけどね。風邪引いても読書をやめないような子だからさ。でもおっさんは、研究者として偉大なのにそんなダメなところもあるリタっちを丸ごと愛してる」
「……あんた、相変わらずバカっぽいわね」
「あら、一世一代の愛の告白をさらっと流しちゃうのね……」
がっくりと肩を落とすレイヴンに、リタがため息をついた。
「呆れてるのよ。……あたし研究者としては優秀だし天才だけど、人としてはどうかと思うし」
「自分で自分を天才と言い切るリタっちも好き」
「……話を切らない。ま、とにかく、こんなあたしとよく結婚しようって気になったわねってこと。だって……普通、こんなにすれ違ってばっかりじゃ、結婚した意味なんかないって思わない……?」
リタの瞳に、涙が滲みはじめていた。
割りきって夫婦関係になったと言えど、あまりにも一緒にいる時間が少なかった。旅をしていた頃はあれほどの濃い時間を共にしてきたのに、今はどうだ。関係が夫婦だとしても、これでは夫婦らしくないのではないか。
リタはこの一年、忙殺されてきたなかで、頭の片隅にいつもこの不安が付きまとっていた。いつ、レイヴンから見捨てられてしまうのではないだろうか、とか、いつ、レイヴンに出ていけと言われるだろうか、とか。レイヴンは優しいからそんな風に冷たく突き放さないと思うけども、いつ見切られても不思議じゃないと思っていた。
「……あのね、リタっち。おっさん、リタっちが、うーんと忙しくなって、まともに家に帰れるか怪しくなるって思ったから、夫婦になろうって決めたのよ」
「は……?」
瞳に溜まっていた涙を、きゅ、とレイヴンの親指の腹が拭う。そして、いつものように、ぽんぽんと頭を撫でた。
「もし、万が一のことがあったら、真っ先におっさんのところに連絡が来るようにしたかった。リタっちがおっさんの奥さんになることで、騎士団よりも、ユニオンよりも、一番最初に連絡が来るような、そういう存在になりたかった」
「……一番……」
「そう。それがまずひとつ。ふたつめは、リタっちの帰る場所を作りたかった。もし、研究が行き詰まってパンクしてしまっても、仮に投げ出したくなったとしても、リタっちを受け入れる場所に、おっさんがなりたかった」
リタはひとりでも生きていけそうな強い子のように見えて寂しがりなのは、あの旅の終わりが近づくに連れて、気がつけばリタのことを目で追うようになっていたレイヴンには痛いくらいわかってしまっていた。
そして、考える。最後の闘いが終わったら、リタには何が残る?と。
何よりも人よりも愛していた魔導器は世界から消えて、それぞれにやることがあるみんなとは切れない絆はあれど、離ればなれになることはわかりきっていた。
いつも大切な誰かがそばにいたのだ。それがなくなる。旅のあとも全員にやるべきことはあった。しかしリタだけだったのだ。やるべきことがあっても、明確な帰る場所も迎えてくれる存在もないのは。
あの寂しげな瞳を見て「リタっちさえ良ければ」と言って手を差し伸べた。告げることはないとすら思っていた。だけど、独りの虚しさを、リタに感じてもらいたくなかった。そんなもの、これ以上リタに味わわせたくなかった。
あぁ、だから、俺は、リタっちがほうっておけないようにできているんだな。本当は全然違うのに、勝手に似ているって思っちゃったから。
「……あたし、物心ついたときには親なんかいなくて」
「うん」
「だから、誰かと家族になるとか、夫婦になるとか、本当に漠然としかわかってなくて」
「……」
「おっさんが、いつでもあたしの居場所になってくれるって言ってくれて、すごくうれしくて、だけど実際はあんまり一緒にいれなくて、申し訳なくて」
リタが一息つく。深く深く、深呼吸。
「それでも、あたしを丸ごと愛してるって言えるの……?」
「もちろん」
即答だった。
「リタっちは甘え下手ねぇ。もっとおっさんに甘えてくれていいのよ。それに、言えるよ。何度だって何十回だって、何百回だって」
「どうして」
「根っからの研究者気質のリタっちはもしかしたら悩むかも知れないけど、理屈じゃないんだよ。ただ、おっさんのわがままだったってだけ」
「わがまま?おっさんが?あたしじゃなく?」
「そう。おっさんは、リタっちの、少しだけでもいいから、特別になりたかったんよ。少しでも、リタっちを独り占めできる時間が欲しかっただけ。だからね」
レイヴンがリタの手を取る。
一回り小さい、幾度となく救ってくれるリタの手が、レイヴンはとても好きだ。
「ありがとう、結婚してくれて」
レイヴンがはにかみながらにっこりと笑うものだから、リタの胸に何かが込み上げてきて、いっぱいになった。堪えきれなくなって、レイヴンの胸に飛び込む。不意打ちに油断していたけれど、レイヴンはリタの体を受け止めて、ぎゅうっと抱いた。
「ありがとう、は、あたしのほうよ……ありがとうおっさん。そんなにたくさん、あたしを想ってくれて」
「うん」
「これからも、よろしく……ね」
「こちらこそ、これからもずっとよろしく」
このあと結局、リタはぽろぽろと泣き出してしまい、せっかく作った朝ごはんがすっかり冷めてしまっていて、思わずふたりでくすくす笑いあった。
確かにふたりは夫婦になってからの一年間、普通のそれらしいことはなかったかもしれない。
ただ、普通なんて、どれが正解かなんてわからないのだ。お互いがお互いのことを思いやり、お互いにしか見せないような笑顔になるふたりは、紛れもなく夫婦である。
「そういえば」
「ん?」
「ようやくマナから産み出されるエネルギーの実用化の目処がようやく経ったのよ。あれならばエアルを乱さない。魔物も暴れないだろうし、植物の異常な肥大化も起こらない。……帝都側の許可も下りるはず」
「えっ、すっごいね!やっぱりリタっちはすごいなぁ」
「そしたら、これからはもっとゆっくりできると思うの。……だから、そしたらその、おっさんと、旅行がしたい」
「うんうん、そうだね!結局、新婚旅行も行ってないもんね。行きたいとこ、考えておいて」
「……楽しみね」