K先輩が
「酔った上司にキスされた」なんて言うから
仕事が手につかなくて。
だから二人で飲みにいくのはやめたほうがって言ったのに。
上司がK先輩に気があること、
私は気づいてたから。
キスだけですんだんだろか……。
想像しかけてやめる。
女子高生じゃないんだから。
大人同士、なにかあってもいいじゃない。
お酒も入って。
「キスくらいですんでよかったですね」
思ってもないことを
返信しちゃった。
苦しい。
私は女だから
酔った勢いでも
気の迷いでも
ノリでも
キスはできないし。
なにもなかったことにはできないから。
普通に話す上司とK先輩を見ると
なんとも言えない気持ちになります。
「リンコ、今度ゆっくりご飯いこう」
「ええ。でもちょっといま忙しくて……」
すねる私。
すねても得なことないの
わかってるのに。
K先輩と同じ部署になって
初めての部署の新年会。
私はちょっと編集部で
嫌なことがあって
その日は大人しくしていました。
帰りのタクシーの中で
K先輩から電話がかかってきてビックリ。
「どうしたの?今日。なんか元気なかったから」
鋭いなあ…と思う。
「あ、いやちょっと…」
「私に言いにくいこと?」
そういうわけじゃないけど
長くなりそうだから
日を改めたいと言ったら
「わかった。じゃあ、ついでに映画でも見にいこっか。気晴らしになるし」
なんて提案を
してくれて私は舞い上がりました。
じゃあ…と昨日、K先輩と映画をみて、
ご飯を食べにいきました。
K先輩とは何回目の映画館でしょう。
先輩は映画がすごく空きなんだと思う。
飲みにいって
「なんか悩んでることあるんでしょ」
と切り出されたので
最近ひっかかってたことについて話し出したら
話すまえはすぐに忘れるようなたいしたことないこと
と思ってたはずなのに
K先輩の優しい相槌に
ぐっと胸をつかまれて
はからずも涙ぐんでしまった。
K先輩は
「お店を変えて、
もう一杯だけ飲んでいこっか」
といいながら、
素早くお会計を済ます。
そんなところが
男みたい…とちょっと笑った。
「よかった。笑って」
二軒目のバーは
狭いカウンターでした。
隣の大きな男のひとに押されて
K先輩がぐぐっと
身体をこちらに倒した。
「ゴメン。そっち寄っていい?」
身体が密着してドキドキ。
K先輩もだいぶ酔っているのか身体が
グラグラしてる。
もっとこっちきていいですから、
と大胆に、思い切って
腕をK先輩の腰にまわして
ぐいっと引き寄せた。
ありがと、と
下から見上げたK先輩の唇が
あまりに目の前にあって。
ドギマギして
目をそらした。
モモから肩までが
ピタリと密着したまま
三杯、四杯と飲んだ。
さすがに私もグラグラしてきて
K先輩にもたれかかってみる。
「酔っ払ったね。行こうか」
と言われたときには
もう朝の5時近くだった。
「K先輩、離れたく、ないです」
一度、気持ちを伝えてしまってから
私はすっかり大胆になりました。
「お持ち帰りしちゃうぞ!」
「お持ち帰りしてくださいよ」
「じゃあ、始発がくるまで少しどっかで休んでこっか……」
あまりの提案に
鼻血でちゃいそうに
硬直していると
「うそうそ、リンコ。さ、先に乗りなよ」
と言ってササッとタクシーをとめてくれちゃった。
ああ。
やっぱり。
ただの冗談、ですよね。