スポンサーサイト



この広告は30日以上更新がないブログに表示されます。

好きな人が


お久しぶりです。

K先輩と私は同じ部署に
ふたたびなり、
相変わらず、というか
前よりもっと親密になっています。


今日も二人でご飯。


最近、あまりに自然に
一緒にいすぎて
それが普通になってきてた。



タクシーにならないくらいの時間に
切り上げた、改札への道。


少し酔ってもたれかかる
K先輩の肩。
手をつながんばかり。


「ねえ、リンコ。
リンコは好きな人いないの?」


え?
いまさら何言ってんですか!
ってか、もう気付いてると思ってた、私の気持ちに。


「い、いますけど……」


「まじー。いいなあ。リンコに好かれるひと」



ちょっとお。
酔ってますよね。


「私も!
私も好きなひとができたの」



へ?


えーー!


「だんなさん以外に?」



「そう」




「え?相手は結婚してるんですか?」


「してない。してないよ。
どうしたら。いいんだろ」


私がいままでみたことない、
とろんとした目だった。



K先輩……。

無事でいて

地震、みなさんは
大丈夫でしたか?

自宅でひとり
不安な気持ちで過ごす
時間が増えるなか
思い浮かぶのは
K先輩のこと。

震災の当日も
会社から歩いて帰宅する途中、
メールをくれたのは
K先輩でした。


あの日から今日で
一週間。


K先輩と
ご飯に行きたくて
約束したのに
停電やら急な撮影変更やらで
ドタキャンになること三回。


会いたくて。
無事にあなたがいるだけで
嬉しくて。

そんなこと言われたら


K先輩が
「酔った上司にキスされた」なんて言うから
仕事が手につかなくて。

だから二人で飲みにいくのはやめたほうがって言ったのに。

上司がK先輩に気があること、
私は気づいてたから。


キスだけですんだんだろか……。
想像しかけてやめる。

女子高生じゃないんだから。
大人同士、なにかあってもいいじゃない。
お酒も入って。


「キスくらいですんでよかったですね」

思ってもないことを
返信しちゃった。


苦しい。

私は女だから
酔った勢いでも
気の迷いでも
ノリでも
キスはできないし。

なにもなかったことにはできないから。

普通に話す上司とK先輩を見ると
なんとも言えない気持ちになります。



「リンコ、今度ゆっくりご飯いこう」

「ええ。でもちょっといま忙しくて……」


すねる私。
すねても得なことないの
わかってるのに。

いま少しだけいい?


昨日の夜遅く、
もう寝ようかと
電気を消したくらいのころ。

充電中のiPhoneがピカピカと点滅して。
無視しようか眠気と戦いながら
見ればK先輩からの着信じゃないですか!


飛び起きてかけ直す。


「ごめんね。こんな時間に…いま少しだけいい?」

「もちろん。いま家ですよ」


仕事に関する簡単な相談だったんだけど、
あまりに簡単すぎて
明日でもいいし
メールでもいいような問い合わせだったから。
こんな時間にわざわざ電話をかけてきたことに
なにか意味があるんじゃないかと勘繰って

「……どうかしたんですか?」


やっぱり本題は
別にあった。

K先輩の仕事の悩みを
私は聞くことはできても
根本をなにも解決できない。


「リンコは優秀だからさ…」
「リンコみたいにちゃんとした人間はさ…」

と何度も言うK先輩は
私のことそんふうに褒めたりすること
めったにないから
よっぽど弱ってるんじゃないかと
心配を増幅させた。

「ゴメン、こんな話、長々して」

いえ。
全然。
いいんです、K先輩と話せれば。


でもK先輩が元気がないのは嫌だ。


あやまらないで。
あやまらなくていいから。
もっと本当に思ってること、
嫌な感情も全部言ってくださいよ。

聞いたからって
あたし、Kさんのこと
嫌いになったり
しませんから。


……


長い沈黙が続いた。


泣いてるんじゃないかと
また心配になった。


「ありがと」


もうこんな時間。
旦那帰ってくるし。
もう切るね。



と一方的に切られた会話。

おやすみなさいの途中で。

甘えたい


K先輩と同じ部署になって
初めての部署の新年会。

私はちょっと編集部で

嫌なことがあって

その日は大人しくしていました。


帰りのタクシーの中で

K先輩から電話がかかってきてビックリ。


「どうしたの?今日。なんか元気なかったから」

鋭いなあ…と思う。

「あ、いやちょっと…」

「私に言いにくいこと?」

そういうわけじゃないけど
長くなりそうだから
日を改めたいと言ったら

「わかった。じゃあ、ついでに映画でも見にいこっか。気晴らしになるし」

なんて提案を
してくれて私は舞い上がりました。


じゃあ…と昨日、K先輩と映画をみて、
ご飯を食べにいきました。

K先輩とは何回目の映画館でしょう。

先輩は映画がすごく空きなんだと思う。



飲みにいって

「なんか悩んでることあるんでしょ」
と切り出されたので
最近ひっかかってたことについて話し出したら
話すまえはすぐに忘れるようなたいしたことないこと
と思ってたはずなのに
K先輩の優しい相槌に
ぐっと胸をつかまれて
はからずも涙ぐんでしまった。


K先輩は
「お店を変えて、
もう一杯だけ飲んでいこっか」
といいながら、
素早くお会計を済ます。
そんなところが
男みたい…とちょっと笑った。

「よかった。笑って」


二軒目のバーは
狭いカウンターでした。
隣の大きな男のひとに押されて
K先輩がぐぐっと
身体をこちらに倒した。


「ゴメン。そっち寄っていい?」

身体が密着してドキドキ。
K先輩もだいぶ酔っているのか身体が
グラグラしてる。

もっとこっちきていいですから、
と大胆に、思い切って
腕をK先輩の腰にまわして
ぐいっと引き寄せた。


ありがと、と
下から見上げたK先輩の唇が
あまりに目の前にあって。
ドギマギして
目をそらした。



モモから肩までが
ピタリと密着したまま
三杯、四杯と飲んだ。

さすがに私もグラグラしてきて
K先輩にもたれかかってみる。


「酔っ払ったね。行こうか」
と言われたときには
もう朝の5時近くだった。


「K先輩、離れたく、ないです」

一度、気持ちを伝えてしまってから
私はすっかり大胆になりました。


「お持ち帰りしちゃうぞ!」

「お持ち帰りしてくださいよ」

「じゃあ、始発がくるまで少しどっかで休んでこっか……」


あまりの提案に
鼻血でちゃいそうに
硬直していると

「うそうそ、リンコ。さ、先に乗りなよ」
と言ってササッとタクシーをとめてくれちゃった。



ああ。

やっぱり。

ただの冗談、ですよね。
前の記事へ 次の記事へ