この物語は、可愛い彼女にめろめろな骸さんと、骸さんの部下な彼女さんとの物語です。
―夏
赤い絨毯の敷かれたアジトの廊下を歩くは六道 骸一人。
外はジリジリと太陽の光があたってとても暑いが、中は程良く空調が聞いていて、心地よい。
ここのイタリア本部では、あれだけ嫌だ嫌だと言って逃げていた沢田綱吉が、今やボンゴレというマフィアを背負うボス。その沢田綱吉からの任務で、ロシアへ長期任務へ出ていた骸は任務を滞りなく済ませ、報告書を手に、沢田綱吉の執務室へ向かっていた。
窓から見える景色は雲ひとつなく、快晴だ。こんな時、考えるのはやはり彼女の事。お互いの仕事柄、どうしても会う回数というのは少なくなる。しかし、そうであっても、己の過去を知っていても尚、ただひたすら純粋な笑顔と気持ちを向けてくれる愛しい人。
この報告書を出し、自分と彼女の休みをもぎ取ろう。そしてどこか、…この季節だから海へでも一緒に行こうか。きっと喜んでくれる筈。
そう思案していると、後方からパタパタと走ってくる足音がする。
『…―骸さーん!』
驚いた。彼女が手を振りながらこちらへ走ってくるではないか。以心伝心とでも言うのか。会いたいと思っている時に会えるとは。
勿論、驚きは表に出さず、問いかける。どうしました?、と。
『今日、骸さんが帰ってくるってボスに聞いてたんです!』
『で、窓から骸さんが見えたので、走ってお迎えに来ちゃいました!』
ニコニコ笑って、可愛らしい。きっとつられて自分も笑顔なのだろう。
『ただいま戻りました』
『お帰りなさい。お疲れ様でした!』
思いもよらなかった出迎えに、頬が緩んだままでいると、彼女が手に持った、小さな箱を手渡してきた。
「この箱は?」
淡い藍色の手のひらサイズの小さな箱。ボックス兵器と同じ位だろうか。
『かなり遅くなっちゃいましたけど、プレゼントです!開けてみて下さい。』
言われて箱を開けてみると、中にはシルバーで筒状の髪留めが入っていた。
『骸さん、後ろの髪長いから、いつも髪留め使ってるでしょう?』
『プレゼントにするなら、使って貰える物がいいだろうと思って、作ってみたの!』
―…作って、みた?
「…貴女の手作りなんですか?」
『はい!初めて作ったので、ちょっと不格好ですけど、骸さんをイメージして蓮の花も描いてみました!』
『気に入って、貰えましたか?』
不安気に見つめてくる瞳。あぁ、どこまで可愛らしいんでしょう。貴女から貰った物が気に入らない訳がないというのに。
『ありがとうございます。大切に使わせて貰いますね。』
礼を言うと、自然と笑みがこぼれてしまうのは致し方ない。
『気に入って貰えて良かったです!』
喜ぶ彼女の手を見ると、所々に絆創膏が貼ってある。怪我をしながら、失敗しながら、一生懸命作ってくれたのであろう証。
―…これを愛しいと言わず、何というのか―
「お願いがあります」
『はい、何ですか?』
小首を傾げる様まで可愛らしい。
「これを、貴女の手で付けて下さい」
箱から取り出した髪留めを彼女に手渡し、彼女に背を向け、少し屈む。
『了解です!じっとしてて下さいね!』
その声に微笑ましく思っていると、そういえば来月は彼女の誕生日ではなかったか、と思い出した。
彼女の手が自分の髪に触れる。ゆっくりとすくう様に持ち上げ、パチリと留める音。
『…はい、できましたよ!』
その声で彼女の方へと振り向く。ニコと微笑んで、いたずらを仕掛ける子供の様な心を隠す。
不思議そうな顔をした彼女の顎をすくい、耳元に顔を寄せてこう言った。
「来月の貴女の誕生日、楽しみにしてて下さいね?」
―あぁ、何が起きる事やら…
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思いの外、長くなってしまった…f^_^;