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突然(弓弦と美結)

「あの、美結さん」
「はい?」
返事をすれば目の前の人は視線をさ迷わせて次の言葉を口にしない。仕方ないので少し待ってみても口をぱくぱくと動かすだけで拉致があかない。
「わたくし忙しいんですけど。用があるなら早くしてください」
呼び止めておいて馬鹿にしてるんだろうか。
「凄く、不躾なお願いがあるのだけれど…」
「不躾だとわかっていて頼むんですのね。わたくしに出来ることなら別に構いませんけど」
この人にキツい言い方になってしまうのはもう癖みたいなもので。別に怒ってるわけではないのだけれど。
わかっているのか彼はそのまま話を続ける。
「少しだけ、その…手を握っても…?」
「は?」
一瞬何を言ってるのか理解できなくて、凄く間の抜けた返しをしてしまった。
「その、手を…」
「繰り返さなくても聞こえてます!貴方いきなり何言ってるんですの?!」
「何だか美結さんに触れたくなって」
この人は何を言っているの?
恥ずかしがって言うことがそれなのかと。ため息をついた私を見て申し訳なさそうな顔をする彼に仕方なく手を伸ばす。
「どうぞ」
「え?」
「触りたいのでしょう?人に見られる前に早くしてください」
恐る恐る手を伸ばし、そっと触れてくる。触りたいと言ったわりに凄く慎重で。
優しく触れた後、両手で包み込むようにして嬉しそうに笑う。
「本当に、変な人」
つい口に出してしまった私は悪くない。
「美結さんは、あたたかいですね」
「…それは、ありがとうございます」 
こういう天然タラシなところが本当に困る。こんなことをしているのは私だけ…なのだろうけれど。

出来心(烈と茜)

毎日の修行は結構めんどくさい。だから、たまにはサボりたくもなる。
ばーちゃんの修行は厳しいし、最近はなんか刀持った女子…乱麻がうろうろするようにもなって手も抜きにくい。かなりめんどくさい。
「だからたまにはサボってもいいよな」
肩に止まった紅鴉に話しかけると、呆れたような声で一つ鳴いた。お前はばーちゃんの味方かこの野郎。
明らかに文句を言ってる紅鴉を無視して、最近行ってなかったゲーセンでたっぷり格ゲー充した後、コンビニに寄ってホットスナックを買うのまでがいつもの流れだ。
ゲーセンを出た後、紅鴉が物凄く文句を言ってる気がするけど軽く無視してコンビニに向かう。
レジ横のホットスナックのラインナップをチェックして、やっぱりアメリカンドッグだと再確認。
「えーと、アメリカンドッグ一つ」
「もう二つ追加で」
レジで注文したその時、隣から聞き覚えのある…むしろ毎日聞いてる声がした。隣見たくない。突き刺さる視線に仕方なく隣を見ると、俺と同じようなオレンジの髪に山伏のような服。
見間違いようのないくらいうちのばーちゃんですありがとうございます。
子供のような顔で笑いかけられ、引きつった笑みを返す俺に。
「もちろん、お前のおごりじゃな、烈?」
ばーちゃんは有無を言わせない一言を言い放った。
「アメリカンドッグ、3つで」
俺は従うしかなかった。

家までの帰り道。早速買ったばかりのアメリカンドッグを二人で食べながら歩く。ちなみに残りの一本は乱麻にやるらしい。まだ帰ってないのかあいつ。
隣で美味しそうに頬張るばーちゃんを見てると目があった。
「遊びたい気持ちはわからなくもないがのう。当日こういうことをされると…待っているこっちは、何があったのか心配になる…のはわかるか?ただでさえ学園で面倒なことに巻き込まれてる可愛い孫を鍛えて、少しでも危険から回避できるようにしてあげたい。そんなワシの気持ちがわからんか?」
世間話をするようにさらっと説教を盛り込まれ、俺はついごめんと口にしていた。
「ごめん、俺が悪かった」
「まあ、反省しておるなら今日の修行二割増しくらいで許してやろうか」
反省したと話すと、ばーちゃんは二回くらい頷いてからとんでもないことを口にした。
「は?二割?ムリ!ムリだってばーちゃん!」
ただでさえいつもの修行で動けなくなるくらいへばるレベルなのに、二割増しとかマジで死ねる。
「ただ謝っただけで許してしまっては反省せんだろう?ああ、折角じゃ、乱麻と手合わせでも」
「乱麻とかアイツ手加減知らねえって…!」
「ならワシとがいいか…?」
究極の選択だった。刀と戦うか焔と戦うか。
「…乱麻でお願いします」
ばーちゃんに精神的体力的にのされるなら、まだ乱麻との方がマシだとの結論になった、俺の中で。
「そうかそうか」
俺の選択にばーちゃんは子供みたいに笑って、さらにとんでもないことを口にした。
「今日の乱麻は機嫌が悪いぞ」


「くちほどにもないな、烈」
「せめて食ってからやろうぜ乱麻!」
「おまえなど、これでも余裕だ」
結局アメリカンドッグくわえてちょっとだけ機嫌がよくなった乱麻に俺はこてんぱんにのされて、今日の修行を終えたのは言うまでもない。
もう二度と修行をサボらないと俺は心に誓った。

色々と(弓弦と美結+α)

朝練も放課後の部活の時も、下手すると昼休みにまで姿を表す不思議な少女…乱麻に付きまとわれ。弓弦は心休まる時がなかった。
一度部活中に見つめてくる視線が気になり理由を尋ねたことがあった。何故、毎日見に来るのかと。乱麻も剣道部に入っていると聞いていたので、自分の部活はどうなっているのかとの疑問からだ。
「剣道部は、私に勝てる奴がいなくてつまらん。お前を見に来る理由は…一番綺麗に弓を射るからだ、蒼刻院弓弦。無駄な動きがなく、美しい」
真顔で乱麻に言われ、弓弦は真っ赤になった。ストレートな賛辞は耳に残る。
「それは…ありがとうございます」
ここで礼など言ってしまったから弓弦の受難がスタートした。


「…疲れる」
だらしなく机に突っ伏す弓弦。珍しい姿を見た風雅が同情を込めた視線を向ける。
「あれは…大変だな」
「風雅くん…わかってくれるかい?」
「キャーキャー騒がれる方が楽だな、あれ相手より」
「そうなんだ、もう…どうすればいいのかって。クラスが違うのが唯一の救いで。彼女が来るから生徒会室にも行けない…」
ため息をつく弓弦に、風雅の雰囲気が変わる。
「弓弦、まだ…氷海の事」
今にも攻撃しそうな風雅に、弓弦は慌てて否定する。
「ち、違うよ!会長の事は…もう」
「そうか。…ああ、あの煩い書記の方か」
氷海が関係ないとわかると途端に興味を無くす風雅に弓弦は苦笑した。
「放課後もついてくるから最近会いに行けていなくて。美結さん…」
鈍感な弓弦でも美結と乱麻を会わせるのは良くないと思っていた。乱麻がついてくるとまっすぐ弓道場に向かうしかなく、最近は美結の顔も見ていない。
「お前達、付き合って…」
「いや、ない!そんなこと全然!僕が…一方的に、気にしてるだけで」
第三者から見れば、弓弦だけでなく、美結も弓弦を気にしているのはすぐわかる。だが、最近までは女性と話すことの出来なかった弓弦にはそんなことがわかるはずもなく。
「…めんどくさい奴らだな」
「え?」
「気にするな。それより、あの廊下の集団は?風紀委員が飛んでくるぞ」
「ああ、僕が今日誕生日だから」
ちらりと廊下に視線を向けた後、すぐに視線を戻し興味がなさそうに呟く弓弦。ただでさえ女性が苦手なところにあの状態では触れたくない、と態度が語っていた。
「どうせ僕の欲しいものは誰もくれやしない」
会いたいです、と呟いた弓弦に風雅はやれやれと一つ息をついた。


「そういえば今日は、弓弦さんの誕生日らしいですね」
放課後、生徒会の仕事の休憩中。氷海と優雅なティータイム中。突然振られた話題に美結は固まる。
「そう…なんですか?」
「ええ、私も先程風雅から聞いたのだけれども。知っていれば何か用意したのに」
一言言ってくれれば、と。少し困ったように笑う氷海を見ながら美結は考えていた。本当はそのことを知っていて、プレゼントも用意してあることを。ただ、最近弓弦は生徒会室に顔を出さず、こっそり弓道場に見に行っても側には女生徒がいる。
「…私は他の女性とは違うと言っておきながらあの男。居れるんじゃない、女の子と」
「…美結さん?」
無意識に口に出していた美結は、氷海に声をかけられ我に返る。
「あ、会長。な、なんでもありません。すみません、少し…考え事を」
「少し、休憩しましょう、美結さん」
「え、でも今休憩を…」
疑問符を浮かべる美結に氷海は笑いかける。
「早くしないと、帰ってしまうかもしれません。今日は、今日だけです美結さん」
「…会長」
いってらっしゃい、と促され。頭を下げると、美結は立ち上がり部屋を出ていった。向かったのは勿論。


廊下を走るなんて初めてだった。途中で風紀委員に注意された気もした。それでも美結は走って弓道場に向かう。
「弓弦さん…!」
扉を開け名前を呼ぶ。
「美結、さん…何故ここに?」
「貴方に会いに来たからに、決まってます…!何なの貴方、人の心にずかずか入り込んできておいて急に来なくなるし!女の子、側にいても何も言わないし」
勢いで告白じみたことを言っているが本人は気付いていない。
「美結さん」
「誕生日なんて、私一度も聞いたことなかったし、貴方は本当に、ズルいです!」
鞄から取り出した包みを無理矢理弓弦に押し付ける。
「あの、美結さん。ありがとうございます」
「今日は、これを渡しに来ただけですから…お邪魔しました」
注目を浴びていたことに気付いた美結は顔を赤くして、そそくさと弓道場を後にした。

「私が邪魔だったのなら先に言え、蒼刻院弓弦。興味があるのはお前ではなくお前の弓だ」
弓弦の側で一部始終を見ていた乱麻が呟く。
「古武術なら別に弓でなくても構わない。他のところに行くだけだ」
立ち上がり出ていこうとした乱麻を弓弦は呼び止める。
「乱麻さん、それなら僕に…心当たりが」


「最近ばーちゃんに会いに乱麻がよく来るんだけど。どうやって知ったんだろうな、ばーちゃんのこと」
お陰で色々サボれないと愚痴る烈に弓弦は困ったように笑う。
「執念で探したんじゃないかな。強い武術が見たかったようだし、彼女は」
「そっかー、弓弦も解放されてよかったな」
「うん、そうだね…」
心の中で烈にごめんと謝りながら、もう一度笑った弓弦の持つ弓には、今まではなかった黄色い花のストラップが付いていた。

●弓弦くん誕生日おめでとう!そろそろくっつけゆづみゆ。色々出そうとしたけど鈴花ちゃんいなかった…ごめん

初詣(弓弦と美結)

麗しの会長が初詣に行くと言う話を聞き、美結は楽しみにしていた。
大晦日、早速準備をして神社へと向かう。
人混みの中、目当ての相手を探し歩き回る美結。氷海程美しければ、この中にいてもすぐに見つけられるだろうと思っていた。少しして氷のような美しい髪が見えた。氷海だ。
「会長…」
声をかけて駆け寄ろうとした美結の視界に入ったのは、鈴花と楽しそうに話す姿。友達と出掛けることも滅多にないと言っていたのを思い出す。
気に入らない男二人も一緒にいるのが見えたが、それ以上近付くのをやめた。近付けなかった。
「会長の麗しきお姿を見れただけで、今年も一年、幸せになれますわ」
そう自分に言い聞かし、美結は帰ろうとする。
「でも…せっかく来たのですし、お参りくらいは」
戻ろうとした足を止め、再び歩き出す。人混みに紛れ、氷海はすぐに見えなくなった。
「…何やってるの、私」
もう進むしかなくなり、周りに知り合いもいない。こんなに人がたくさんいるのに、一人でいるような気分になる美結。
「いつもは呼んでもいないのに視界に入ってくるくせに」
思い浮かぶのは一人。
「こんなときは、私を一人にするの…」
目を伏せ、呟いたその時。
「美結さん…?」
聞こえるはずのない声が聞こえ、美結は顔を上げた。
「ああ、やはり美結さんだ」
そこにいたのは青い髪を高く結った男。弓弦だ。
さすがにいつもの弓道着ではなく、着物を着ていた。
「あなた…どうしてここに?」
「毎年ここに初詣に来るので。家からも近いですし」
偶然ですね、とはにかんだように笑う弓弦に。美結は安心し、肩の力を抜く。しかしすぐ自分の行動にもやもやしたものを感じ、弓弦を見る。
「み、美結さん?」
無言で急に見つめられ、慌てる弓弦。
「まぁ、今日くらいは、いいですわ」
「え?」
「偶然、お会いしたのも何かの縁と言うことで。このまま私の隣にいても、何も言わないでおきます」
それは美結の精一杯の強がり。
「ではこのまま…」
「お参りに行ってもいいですわ、弓弦さん」
名前を呼ばれ嬉しそうに笑う弓弦に、つられて美結も少しだけ笑った。


●いただいた年賀状のゆづみゆが可愛くて悶えたので、それを題材に書かせてもらいました。弓弦くんを公式寄りっぽく喋らせましたが前回と別人みたいですね。

自信家(ハヤトとビス子)

「ほら、俺のが大きい」
手を合わせた向こうで彼が笑う。二つくらい年下の彼。
「おかしいなー、絶対私のが大きいと思ったのに」
何度見ても爪半分くらい向こうのが大きい。
「何度も言ったのに信じないんだからなー、ビス子先輩は」
ここまで言ったのに、と笑ったと思った矢先。重ねていた手に指をからめられる。
「ちょ、なにやってんの!」
「先輩は、すぐに中学生なのにとか言うけどさ」
視線が合う。真剣な表情に目がそらせない。
「身長だってもう、同じくらいだし。年の差以外は全部追い抜くよ、俺」
「な、生意気な…!」
強がりでそう口にしたところに、今度は絡めたままの指に口付けられる。
「は、ハヤトっ!」
「楽しみにしててね、先輩」
今度は年下の、可愛い笑顔でそう言った。


●いつものハヤトとちょっとかえてみました。
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