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過去ログ置き場

こちらは以前活動してたジャンルの作品置き場とします。
ジャンルが変わりやすいので、新たにジャンルが変わった場合順に増やしていきます。

基本的にこちらに置かれた作品の続編を書くことはありません。ご了承のほどお願い申し上げます。
なお、基本的に主人公が右側になりますが、例外も一部ございますのでお気をつけて下さい。
カテゴリで作品が分かれています。






京極堂(京極堂と関口)

京極堂と関口



安心、安全



筆は一向に進まない。もともと筆の進みが早い方だなんてこれッぼっちも思ってはいないが、これでは食いぶちも稼げない。雪江は今日も働きに出ていた。
しんとした室内は確かに私以外いないはずなのに、まるで何かがいるようで気味が悪い。一度そう認識してしまうと本当に何かいるようで鼓動が速くなってきた。
幽霊が怖いんじゃァない。わからないものが恐いんだ。


はやる気持ちを抑え羽織りを手に取り、下駄もおざなり程度に引っ掛け外に出た。


外はまどろんだ光が気持ち程度に差していた。
しかし昼間であろうとまだ寒い。なぜ下駄でなんか来てしまったのだろう。
足の先は赤く、自分のものではないようだった。






勝手知ったる扉を開く。そこは先程のようにしんと静かな時間が流れていた。


「京極堂ー。いるかーい」



しんとしている。私の声は床に、壁に、天井に直ぐさま吸収されてしまった。何も聞こえない。誰もいない。扉からすき間風が入り、身体をさらに冷やす。

誰もいない。誰もいないんだ。
ふと足に力が抜け、しゃがみ込む。羽織りが床に触れる。あぁ、また雪江を困らせて仕舞う。
誰か。誰?
原稿を書かなくては。いけない。
眠い。


床の軋む音が聞こえる。
布の擦れる音が聞こえる。

「関口君」

「……」

「関口君」
「…きょう、ごくどう?」
「僕以外に誰がいるんだい。此処は誰の家か言えるか?」
「京極堂、の家」
「あぁ、そうだ。君は勝手に入って来たかと思いきや、玄関で寝始めて…、一体何しに来たんだい」
「…いたのか」
「いたとも。なんだ、千鶴子がいないと人が居るか居ないかの判断も出来ないのかね君は」
「だって、君が返事してくれないから…」
「だって、とはなんだ。君の理屈だと君が勝手に入って来たら僕が大きな声で返事をしなきゃいけないのかい。若しくは直ちに出迎えなくてはいけないのかい。ドアを叩きもせず、勝手に入り寝はじめた君のために!」
「……」

京極堂はそこまで言うと、すっかり何も言えなくなった私に嫌気が差したのか、普段から深い眉間の皺を深め、くるりと後ろを向いた。

私はじっと地面を見つめた。なんとなく見捨てられたような気持ちになったのだ。
かえらなくては。…あの家に?
あの家は今は怖い。
帰りたくない。じゃあどうすれば?
またもや考えあぐねていると先に居る京極堂がくるりとこちらを向いた。

「さっさとあがったらどうだい。粗茶ぐらいはいくら自分勝手な君でも今日は出してあげるよ」

暫しの沈黙。僕は幾秒かの後に漸く言葉を理解した。

「…あ、あぁ。お邪魔するよ」

立ち上がる。頭が一瞬回った。立ちくらみだ。
一定の間隔でぎしぎし軋む廊下。
何時から握り締めていたか判らない掌は湿っていた。
京極堂は角を曲がると台所へと向かう。私はいつもの部屋に入り、腰を下ろした。

ことり、お茶をおかれる

「あ、ありがとう…」

京極堂はそんな僕を視界には入れず、定位置に座った。読み掛けの本を手に取った。
喉の乾きを癒すために飲んだお茶はいつもの通り薄く、出がらしであることが容易にわかった。

静かだ。しかし、さっきまでとは違う、柔らかな空気がそこにはあった。
もう一人じゃない。


あれ…? おかしいな。いつ此処に来たんだろう?

落ち着いたもの立った筈の関口の表情がだんだんと不安に満ちたもの変わっていく。

「きょ、京極堂! 雪江は…? どこに…?」「…関口君、落ち着くといい。此処には君と僕しかいない」
「げ、原稿、…一人は怖い」

するりと柘榴が意識が曖昧な関口の膝元によりにゃあ、と鳴いた。

「柘榴もいたな。…関口君、目を閉じたまえ。何も見えなくても僕らがいることはわかるだろう」
「京極、堂…」

曖昧な世界の中、京極堂の言葉だけが胸の中に入っていく。
そうだ、ここには僕だけじゃない。

「京極ど…、ねむ、い……」
「ゆっくり眠るといいさ…、仕様もない奴だ…」

くすりと笑う声が聞こえる。暖かいぬくもりの中私は眠りこんだ。












「あら、たつさん。もう暗いけれどまだ原稿を?」
「今日はなんかたくさん書けるんだ。書けるときに書いておくよ」
「無理はしないで下さいね」
「大丈夫だよ。大の大人だってのに昼寝をゆっくりしたからね」
「あら」

くすくすくす。
外は暗く月は消えていた。




(一人は怖い)
(二人は安心)





end



京極堂(京極堂と榎木津と関口)

京極堂と榎木津と関口


生きる力







僕の世界は曖昧で不確かで実体がない、不明瞭なモノだった。

空気を吸い、吐く。食物を入れ、出す。寝て起きて、学び、人と当たり障りのないギリギリ程度の会話をする。
時にはそれらすら出来ないことはあった。
それは海の海藻のように足に絡み付いて放してはくれない。深く深く僕を閉じ込めるものだった。

目を開く。机と椅子と窓がある。暖かい。布団が足元に引っ掛かっていた。

「………アレ」

机の上に小さな鈴があった。小指の先程しかない、紅い紐が結ってある鈴だ。
アレが欲しい。アレに触りたい。だって触れないから。触りたいのに触れない。
ただ無性に。

掌を畳に置く。藺草がちくちくと刺さった。ゆっくりと足の先を上げる。膝と掌に体重が掛かる。肌寒い。布団にはもう縛られていなかった。
一歩進む。この部屋は決して大きい部屋ではなかったけれど、鈴にはまだ手が届きそうになかった。
そうだ、僕は、届かない。
もう一歩進む。椅子に手が届く。椅子まで足を進めると、所謂膝立ちになり漸く視界にまた鈴が映った。
僕が捕まえる。僕が触れる。そっと紅い紐を摘んでみた。


ちりん


澄んだ音が響く。


「…え……あ、…あぁ……」

違う。こんな明るいものでは、もっと濁って、暗くて、低くて…

「関口君っ!」

そう、こんな、かんじ
鈴が白く筋張った指に奪われる。あぁそれは僕のなのに。目的のモノではなかったけれど。
強い力に屈す。目の前は机ではなく僕の同室者と布団だった。

「……生きているかい?」
「う、ん」
「そうだ。君は生きている。ご飯は食べれるかい? いや、無理にでも食べさせよう。着物をこんなにはだけさせて…。榎さん、持ってけるかい?」
「あぁ。ガリガリザルだからね。首根っこ掴まえていくさ」

着衣を直される。首根っこ掴まえる、と言ったにも関わらず背負われた。お腹は空いてないのだけれど。

「今回は早かったか?」「普通ですね」
「そうか」

温かい。あ、アレが欲しい。さっき捕まえれた。

「サルが何か探しているぞ」
「関口くん? 鈴かな」

ちりん

明るい音を立て冷たく固いものに手が触れる。違う。もっと奥。

「サルはお前の手を探してたのか?」
「寒いんじゃないでしょうか?」

あぁ、やっと。もう離さない。
僕は強く握る。骨が軋んだ気がした。



僕の世界は孤独。だけど世界は一人では成り立たない。





(ああ、なんて無情な)
(しかし甘い世界)




end


サマーウォーズ(理一と健司)

理一と健司。そしてカズケン

早い者勝ち



「理一さん」
「…ん? なんだい?」

にこりと微笑まれ体温が上がるのを感じた。










唸るような暑さの今日。照り付ける太陽は元気で、地球温暖化を思いださせる。
しかし風は強く、照り付けることをなしとしたら、爽やかな、心地の良い正午の天気だった。



朝の早い陣内家は朝食も早く、11時にしてもうお腹が空き始める位だった。
しかし出来るのはどう考えても13時近く。なにせ、夏樹先輩含む女の人が総勢かかっても量が足らない程食べる欠食大人が占めているのだ。
健司も何か手伝えないかと思ったが、いかんせん、実家でも特に料理をするわけでもない。戦場と化した台所に居るだけでも迷惑だろうと判断した彼はゆっくりと離れ周りを見渡した。


――やはりあまり居場所があるようには感じれない――

OZの一件から今日で2日経つ。元々年代が離れてる人達は兎も角、翔太兄には嫌われている様子だ。態々嫌われているヒトに会いに行く程自分は自分に対して自虐的ではない。嫌われるのは嫌いだ。

しかし佳主馬はというとOZでの仕事をこなしている。邪魔をするのは憚れた。
健司は自分が手持ちぶさたとなるのを感じた。

ちりん


「……暑いなぁ」

風鈴がなる。
誰に言うでもない言葉は健司一人にしか捉えられなかった――と思っていたのだが、

「暑いねぇ、健司くん」

え、と驚いた表情の健司の口から溢れる。

「健司くんは、お暇かな?」
「理一さん…」


自衛隊所属陣内理一その人だった。

「もし、暇だったら――」
「はい?」


一緒にドライブでもどうかな?











「理一さん、どこに行くんですか?」
「ここにきて、あまりゆっくりする暇もなかっただろう。折角こんな辺鄙な田舎まで来たんだから観光を、と思ってね」
「そんな…! ありがとうございます!」

オートバイの速度が速い。
風で理一さんの喋る内容があまり理解出来なかったがどうも観光しにいくらしい。
そのあとは特に話すでもなく無言のまま一本道を進んでいく。
辺りは見回す限り田んぼだった。

健司の理一に対するイメージは一言に尽きる。すごい、だ。
OZでの一件は健司にそんな印象を与えた。
勿論、スーパーコンピューターを用意した太助さん、電力を供給した万作さんもすごいとは思う。
しかし、彼らは自家用だったり自分の店のものだったりする。
理一さんは自衛隊のものを持ち出した。
まぁ、大袈裟かも知れないが地球滅亡の危機かも知れなかったので貸し出せたのかも知れないが、俺は理一さんを本当にすごいと思った。
侘助さんももちろんすごいけど。
そんな理一さんと観光出来るのは嬉しいなぁ…。

理一さんはそんな事をぼんやりと考えていた俺を見て何を思ったのか苦笑をした。

「大丈夫かい? つまらないかな?」
「いえ…! 滅相もございません!! ……か、風が気持ちいいですね!」
「そうだね。あ、あそこが有名な城だよ。上田城。」
「へぇ…。やっぱり塀が高いのは敵に攻められにくいように、ですか?」
「あぁ、そうだね。まぁ、塀は高くとも上田の人達は結構盛んに出入りしてたみたいだ」
「仲がいい…っていうか…、隔てりがあまりなかったんですね」
「あぁ。……申し訳ないね。通りすぎるだけで」
「いえいえ! 2時間位しかないし、理一さんの話聞くだけで勉強になるので十分ですよ!」

理一さんは俺が激しく否定すると少し面食らったような顔をした。だが直ぐに嬉しそうな顔をつくる。

「ありがとう」

り、理一さんかっこいいなぁ…

そんなことを思いながら特に返せずにいると、理一さんは不適に笑った。

「健司くんは可愛いね」
「え!? そんなことないですよ!」
「いや……うん、可愛い」

理一さんは一人言のように呟くと、またバイクを走らせる。
健司は聞き取れなかったのか疑問符を浮かべながらも諦めた。この風では呟きは聞き取れない。










また20分程走った頃だった。途中街を抜け、また畦道を走る。
小高い山を上ったあと理一はバイクを止めた。


そこは青々とした田んぼと昔の趣を残す家が幾つも並んでいた。
右には森が生い茂り、太陽の光を浴びきらきらと輝いているように見える。
日は照っていたが、吹き抜ける風が暑さを忘れさせてくれた。



「ここがうちの家の次に眺めが良い所だよ。どうだい、同じ上田でも見る場所によって案外違うだろう」
「うわー…! 良い雰囲気ですね。自然というか、原風景ですね!」
「そうだね。夕方の方がもう少し味があると思うんだが、それは次回にしようか」
「はい!」



本当に綺麗だと思った。こういう所はテレビでしか見たことが無かったが全然テレビのそれと違う。

暫しの間感動をし、礼を述べようと理一さんを見ると真っ直ぐ、前を向いていた。

「理一さん」

「…ん? なんだい?」


そういって此方を見やる。微笑みながら振り向くその姿に体温が上昇するのが解った。

「いや、なんでも、ないです、」
「…本当に?」


そう言うと理一は健司の頬に手をやった。

え、え、ど、どうしたんた…


「健司くん、赤いね」
「え、そんなこと、そんな…」


健司は混乱した。理一は今までと変わらず、微笑みに余裕を含ませている。
しかし、行動がどうにもおかしい。
近付く顔にどうすることも出来ずに目ぎゅっと閉じた。

ぱちん

「え…!」

額の痛みに思わず目を開ける。そこには隙間は1mm2mmしかないと思えるほど近づいた理一の姿があった。

「ふふ、なんだと思ったんだい?」
「……」

健司は何も言えずに口を金魚のようにぱくぱくと動かした。
理一はまた笑うと持っていたヘルメットを被り、バイクへと近付く。

「そろそろいい時間だ。帰ってお昼ご飯にしようか」

健司にヘルメットを投げる。

ぐー

「健司くんためお腹が空いたことだし、ね」
「あああああぁ…」

健司は茹で蛸のように真っ赤になった。







理一さんはすごいと思う。そして、謎の多い人だとも思う。


その帰り道、理一は機嫌が良さそうに鼻歌を鳴らしながら陣内家に到着した。







(わからない!
けど
このあたたかさはなんですか?)








後日
「ただいまー」
「あ、理一さん! 今日は本当にありがとうございました!」
「あ、理一さんと健司くん! 丁度良かった! 今ご飯できたよー」
「俺もう、お腹ペコペコですよー」
「こっちこっちー。あれ?佳主馬くん?」
「カズマくんも一緒にご飯? 仕事は終わったの?」
「……お兄さん、どこ行ってたの?」
「理一さんが観光に連れてってくれたんだ、ね! 理一さん」
「あぁ、楽しんでくれたかな? …色々」
「……あれ? 健司君、顔、赤いよ?」
「いや、その…………はい」
「………………観光なら僕が連れてったのに」
「…え? カズマくん何か言った?」
「なんでもないっ! 僕、ご飯後で食べるからっ!」
「え、カズマくん! 走ると危ないよ!」
「佳主馬君、どうしたんだろ…?」
「うーん…?」







「若いっていいなぁ…」





end

ツバサ(ファイと小狼)

ファイと小狼





こんな青いモノいらないのに





揺れる、揺れる














目覚めた時から自分は海の底にいて来る日も来る日も変わらぬ毎日を過ごしていた。
そこでの暮らしは決して嫌なものではなかったけどどこか足らない、そんな感じがしていた。
そんなある日久し振りに真っ青な空が光る太陽が見たくて水面から出てみる。

『ヒトに見られてはいけないよ』

常日頃言われてた言葉に従って周りを気にしながら。ヒト、ヒト。陸にいるモノがヒトならば俺らは一体なんなのだろう。
太陽の光を浴び、ゆっくり深呼吸をする。俺の周りで波打つ海はキラキラと輝いていた。

「……っ!」

息を飲む音がする。自分自身で一気に血の気が引くのが解った。禁忌を犯してしまったのだ
音がした方向を見てみる。そこには茶色の髪を持つ少年が居た。







どうしようか。幸いと言うべきかそこに居る少年以外に人は見当たらなかった。まずは少年を説得しなければならないだろう。例え逃げても、少年をどうにかしなければ他の人間がこの海を調べに来るからだ。

そんなの堪ったもんじゃない

綺麗で純度の高い俺たちが生きられる海も今は片手で数えれる程しかないからだ。俺の世界では第一級の罪だった。



「あのー、君、なんて言うのー?」

少年は此方が声を掛けても全く反応をせず、唯唯、じっと此方を見るだけだった。

「おーい? 無視は悲しいなー…」


困ったように笑ってみる。

「っ! ……すまない。初めて見たから、その」
「…気持ち悪いかな?。ダイジョウブだよ、別に危害とか加えないからね」
「そうではなくて! …その、余りに……綺麗だったから」
「……綺麗かな?」
「すまない。男性に言うべき台詞ではなかったな」


少年は声を荒げたかと思うと直ぐに弱々しくなる。本当に後悔してるようだ。
一方、自分としては少年が吹聴するような人間でないことに安心していた。


「いや、嬉しいよ。ありがとう」
「……そういえば名前を聞いていたな。俺は小狼という。貴方は?」
「俺はファイだよー。見ての通り人魚族。小狼は何でこんな所に居るの?」
「人魚族………。俺は、その、散歩で、此処まで」

ファイは違和感を感じた。嘘を言っている訳では無さそうだが、真実とも少し違う、そんな感覚に襲われた。
だが、そんなことはどうでもいい。他の人間に口外をして、此処が荒らされなければ。

「出会ったばかりなんだけど、小狼にお願いして、良いかな?」
「……どうぞ」
「此処の事、誰にも言わないで欲しいんだ。小狼と俺の秘密。ダメかな?」

にっこり笑って言う。暗に否定は言わせない事を匂わせて。どっちみち、この人間は否定しないだろうが。
案の定、少年は判りました、と言った後、思いもしない言葉を続けた。

「また、会ってはくれないか? お願いだ」
「……んー。うん、良いよー」
「…ありがとう。では、今度の満月の夜に」
「満月の夜に。じゃあ、またー」

ニコニコと笑い、すーっと海に還る。

此方の願いを聞いて貰っている限り、彼方の願いを聞かなければフェアではないだろう。思ったよりも強かだったな。



段々と故郷が見えてくる。

何か変えてくれないかな。
淡い期待を持って、そう、ぼんやりと俺は考えた。



これが、初めての邂逅







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