いつもの携帯のアラームが僕を起こした。
寝癖のついた頭を掻きながら布団から這い上がる。
引き出しからタオルと下着を取り出して風呂へ向かおうとした時に気がついた。
そっか月曜日だよ
僕は日曜と月曜が休みなのだ。
毎日律儀な携帯の音は今日も律儀に僕を起こしたのだ。
もう一度布団にくるまるのもいいが折角起きたのに寝るのも勿体ない。
とりあえずシャワーゆっくり浴びることした。
風呂からあがると僕はカーテンをサッとあけた。
気持ちのいい朝日が僕を照らす。
「久しぶりに…」
僕は呟いてから着替えだした。
スーツ以外の服を着るのは休日しか出来ない。
学生時代奮発して買った白のデニムに足を通し、フレッドペリーのお気に入りのシャツを着て黒のGジャンを羽織った。
机の上に乱雑に並ぶ香水の瓶を適当にとり、手にワンプッシュした。
いつもの腕時計を右手につけた。
さて と独り言をまた呟き車の鍵を取って玄関を出た。
まだ肌寒いが春の足音が聞こえてきそうな気がした。
僕は車に乗り込みエンジンをかけた。
目的地は決めていない。
だが方角は南と決めていた。
春に向かって少しでも進みたかったからだ。
「アメリカンのSサイズを。」
「畏まりました。170円になります」
いつもの喫茶店でいつものを頼む。
「此方でお召し上がりですか?」
と聞かれなくなってどれほど経ったかは覚えていないが店員の顔を一通り覚えた頃には聞かれなくなっていた。
飲み物を受け取り、喫煙席の窓際にいつもの様に腰掛ける。ここで一息つきながら店内を眺めるのが僕の1日の数少ない楽しみの一つだ。
シワの入ったスーツにはJPSとコーヒーと気分によって変える香水が交じった妙な匂いが染み着いている。
そろそろクリーニングに出さないとあかんな など考えながら、ポケットからしわくちゃになったタバコと100円ライターを取り出し、火を付ける。
コーヒーとニコチンが体に染み渡る。
寝ぼけた頭が次第にクリアになっていく。
そうこうしてると店内に客が入ってきた。若い女性だ。
緑のモッズコートに黒のスキニーを履き、男っぽいファッションだが長い髪が女性らしさを強調している。
僕の二つ隣の席に腰掛け足を組み、バッグからマルボロの赤を取り出した。
新品の赤マルを手慣れた手つきで開封し、取り出したタバコを口に加えながらバッグを探っている。
「しまった」と言う顔だ。
周りを見渡し、僕と目が会う。立ち上がり僕のほうへ歩いてくる。
僕は「どうぞ」と手渡す。
「あっ すみません…」
少し笑った顔はまだ無邪気さが残る。
「2つあるので
それ差し上げますよ。」
「えっ そうですか…?
では、有り難く」
僕は いえいえ と答え。コーヒーを口に運ぶ。女性はそそくさと席に戻り、タバコに火をつける。
しまった。
と思ったが、それ以上話すネタも持ち合わせていなかった。
少しして、1人客が入ってきた。男は注文を済ますと、僕の二つ隣の席へ座った。
安堵感と少し寂しさが胸をよぎった。
僕はさっさと残ったコーヒーを飲み干し、外にとめた車へ向かった。
今日も僕を待つ仕事の相手をしなければならないからだ。