螺旋状に突っ走って死にたいプロフィール
2015/12/31 Thu 03:24
10分構想(9回目).

話題:自作小説


「ある男の死」

ある男に死が迫っていた。男はそれを知り、受け入れていた。
身体から力が抜けていくのがわかる。意識が遠くなっていくのがわかる。まるで毎日の眠りに落ちる瞬間のように。
違うのはこれが永遠の眠りだということだ。
男は自分の一生に満足していた。ひとなみであるが幸福な人生であった。手に入れたいものはある程度は手に入れ、ある程度の制約とある程度の自由、ある程度の不満とある程度の満足。思い残すことはない。

さあ死よ、やってこい。男は待った。


思っていたより、すぐに死はやってこない。男は満ち足りた気分であったこの時に死がやってこないのが不満だった。
このまま死んでしまいたい、この気持ちのまま人生を終わらせたかった。だが、死は男の思いを見透かしたかのように、彼を焦らした。

男の頭に走馬灯がよぎり始めた。ようやく死ねるのか。男は自分の人生のまとめの早送りを眺めた。
しかし、予期せぬことが起こった。男は走馬灯を見ているうちに、死にたくなくなったのだ。むしろ、死を恐れた。

嫌だ、死にたくない。男はそう思った、思ってしまった。さっきまでの満ち足りた気分は吹き飛び、焦りと不安と絶望が男を襲った。

嫌だ、いやだ、イヤだ、死にたくない、しにたくない、シニタクナイ

男は動かない身体でもがいた、遠くなる意識で足掻いた。しかし、それは抵抗とも言えない抵抗であった。

シニタクナイ、しにたくない、死にたくない

死にたくない、しにたくない、しにたくない

男は絶望の中にいた。このまま死にたくない。声にならない声で叫んだ。叫ぼうとした。

その時、死がやってきて、男を包み込んだ。

男は死んだ。



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