愛してる


愛してるって言ったら、あなたは微笑んでくれるのかしら?
好きだった女(ひと)にそう微笑まれて、俺はぎこちなく笑った。



あの日、彼女を亡くしたあの日から俺の人生は狂いに狂って、堕ちるだけ。
言い寄ってくる女をとっかえひっかえしては、刺されそうになったことだってあった。それでも生きている、
クズなりに生きているのだ。
そんな時に出会ったのは、あの時の彼女によく似た少年だった。
「だ、大丈夫ですかっ!?」
切羽詰まった少年の声を最後に俺はこの世との意識を切断した。
次に目が覚めたときには真っ白な部屋。
白衣の天使が俺に微笑みかけている。
「あ、お気づきになられましたか?」
すぐに病院だと気が付いた。
「えっと・・・」
「あぁ、あなたわき腹を刺されて運ばれたんですよ?先ほどまで男の子が付いてたんだけど・・・弟さんかしら?」
俺に弟なんていない。
多分、倒れる前に見たあの少年だろう。
彼女にそっくりのあの・・・
考えれば考えるほどにまぶたが重くなっていく。
気が付いたころには夢の中だ。幸せだったあの頃が走馬灯のように駆け巡る。眠るのは嫌いだ。

「修哉くんはいつも偉いねー」
近所のお姉さんが先日亡くなった。
恋愛感情ではないけれど俺は彼女のことが多分好きだったのだろう。
頬を流れる涙を人は純粋なものだというけれど、俺からしたらひどく汚いもののように思える。
お姉さんには恋人がいたらしい。とてもかっこいい人。
いたらしいというのは少し語弊があるかもしれない。だって俺はその人を知っている。
綺麗な黒い短髪に塗れたような瞳。
そのすべてが俺を虜にしたのだ。
初めて彼を見た日から、目が離せなかった。
いうなればまるで恋心にとらわれたような。
なーんて、男に恋だなんて面白い話だ。
それでも、彼はお姉さんの物だったのだから、俺はその感情にふたをしたのだった。