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雨と芸術論 (Fate/Zero 龍之介、旦那)




人は雨の日を「天気が悪い」と言うけれど、私はそうは思わない。

特有の湿っぽさも、生臭さの滲む匂いも、不調和の旋律も、みんなみんな好き。

レインコートと長靴を身に纏って散歩するのも楽しいし、レインコートと長靴を脱いでびしょびしょになるのも悪くない。

水びたしになって古傷がじくじく痛む感覚も、私にとっては快感でしかない。

どれもこれも、りゅーのすけが付けたものだから。







「ナツ?」

何時ものようにどしゃ降りの中佇んでいると、中から私を呼ぶ声がした。

「キャンサーさん」
「また雨を浴びているのですか?リュウノスケが心配しますよ」

キャンサーさんはそう言って私の近くまで来るが、当の本人は濡れていない。魔法で雨を避けてるんだ。

「大丈夫だよ。だってこれみんなりゅーのすけだもん」
「…雨がリュウノスケ?」
「うん」

その場でくるりと回転すると、小石が裸の足に食い込んだ。
感覚が麻痺している足からは痛みなんだか圧迫感なんだかよく分からない不快感が走る。

「りゅーのすけは"雨"を"生"きる"龍"でしょ」
「…」
「だからりゅーのすけは雨なんだよ!」

くるりくるり。

ばしゃばしゃと音をたてて回り、跳ねる。

「私はりゅーのすけ大好きだから、雨も好きなの」
「…」
「りゅーのすけが付けた傷が痛むのも、体が冷えて感覚が無くなってくのも好き!」
「…」
「あ、りゅーのすけにはひみつだよ!」

心配してくれるりゅーのすけも好きだから、と私は付け足した。

「ふっ、ふふふ…」
「キャンサーさん?」
「やはりアナタは面白いですねェ…」
「? そうかな」
「ええ」

ふーん、と言って私はまたばしゃばしゃと跳ね回った。

「あれぇ?奈都また外出てんの?それに旦那まで」
「あ!りゅーのすけおかえり!」
「はいただいまー。ってか風邪ひくぜ?」
「だいじょうぶ!」
「大丈夫じゃねーだろー…とにかくもう中入れって」
「はーい」
「旦那も行こうぜ」
「はい、リュウノスケ」

…端から見れば、この二人は仲のよい年の離れた兄妹に見えるだろうか。

しかし実際はそうではないのだ。


「奈都、今日はどこがいい?」
「うーん、どこでもいいよ?」
「そうだなあ、昨日は腹やったから…」
「あ、でも目と耳はダメだからね!りゅーのすけが分かんなくなっちゃうから」
「えぇー…一回くらいいいんじゃん?」
「ダメだよ!ほんとに殺す時も目と耳は最後にしなきゃダメなんだからね!」
「はいはい…」

一体何の話をしているのかと、人はそう思うであろう。
驚くなかれ、二人は奈都の殺し方の話をしているのだ。

奈都は呪いによって自分の天命が尽きるまで絶対に死ぬことができない。
どれだけひどい病に侵されようと、どれだけひどい傷を負おうと、死ぬことができない。
その割に治癒能力は人より少し高い程度。本来死ぬことで解放される痛み苦しみがずっと続くのだ。

…なんと。
なんと、血塗られた悲しく美しい運命だろうか。

それを当然とする少女の心は驚くほど純粋なままであった。
ただ、それは彼女だから純粋だと言えるのであって、他の者がその状況であったなら狂っていることになるのだろう。
それだけ少女の心は最初から違うのだ。

「おーい旦那ァ、早く行こうぜー」
「キャンサーさんこそ風邪引いちゃうよー」

…本当に、彼らは仲のよい兄妹にしか見えない。

「今行きますよ、リュウノスケ、ナツ」

それでも尚狂っている彼らのその姿は、芸術と呼んでいいものだと私は思う。


end.
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