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溢れ出すキモチ

「ねぇ、拓磨」

「んー?」


少し先を歩く彼の左手に指を絡めて。
そんな彼は少しだけ驚いて、すぐに表情を和らげた。

先に続く長い影が2人、重なって。
そんな影が嬉しくて、思わず笑顔になる。


「拓磨、たくま、たーくーまー」

「だから、一体何だよ」


少し困り顔の彼に、私は告げる。


「好き、大好きー!」

「…な…っ!」


弾かれたように私を見て、すぐに反らされる。

彼は意外に照れ屋だから、すぐに顔に出る。

今だってほら、徐々に顔に朱が落ちてきてるから。


繋いだ手を、腕を、私はギュッと抱きしめる。


「好き、大好きだよ拓磨」

「…あー…どっかで頭でも打ったか?」

「…打ってないもん」


ただ、どうしようもなく。

拓磨が、大好きだから――。


この溢れそうな気持ちを言葉に乗せて、少しでも拓磨に届けばいいなって。


「好き、好きすき、スキス…んッ!」


スキの言葉は、彼の唇に遮られて。

少しだけ乱暴に、余裕がないように、唇を貪られて。


少しの間触れ合って、離れた唇。


「バカ。…俺にも言わせろ」



―――好きだ。愛してる、珠紀。



耳元で彼に似合わない甘い囁きが聞こえて。

思わず緩む頬。


何十回、何百回言っても足りないけど。

この気持ちは、ちゃんと拓磨に伝わってるんだって。


そんな彼に、もう一度だけスキと言えばまた唇を塞がれた。




fin

麻衣子さんの曲を聴いて突発的に書きたくなりました。
意味不明で申し訳ない…;

赤いアイツ

「あー、また拓磨トマト残して!」


俺の弁当箱の端にはコロンと赤くて小さいソレが転がっていて。

珠紀は好き嫌いなんて駄目だよ、とか母親じみたような台詞を吐いた。


「せっかく拓磨の為に頑張って作って来たのに…」


しゅんとうなだれる珠紀にたじろぐ。


「いやいやいや、だって野菜が赤いんだぞ?」


緑ならまだしも赤なんてあるか、と豪語する俺に珠紀は益々うなだれた。


「そっか…私の作ったお弁当なんて食べたくないんだよね…」


トマトを作った訳ではないだろうと言うツッコミは置いとくとして、だ。

下を向いてスンスンと鼻を啜りだす珠紀に、更に焦る。


「ち…違う、弁当じゃなくトマトがだな」


必死に弁解する俺に、珠紀は伏せた顔を両手で覆って。


「そうだよね…迷惑、だったんだよね」


そう小さく呟く。


俺はぐらつく心を押し止めて、珠紀の肩に両手を置いた。


「悪い珠紀、これだけは譲れないんだ」


これだけ聞けばカッコイイ台詞だが、実際はトマトを食べたくないが為の台詞で正直な所格好悪い。

珠紀は肩にある俺の手を取ると、スルリと指を絡める。


両手に絡まる珠紀の細い指。


いまいち理解出来なくて、未だ伏せている珠紀を覗こうと上半身を屈めた。


「たま……ッ!?」


一瞬、何が起こったか理解出来なかった。


陰る視界。
唇に当たる柔らかい感触。
口腔内に侵入してきた、丸い何か。
鼻孔を擽る、良く知る香り。


温かい感触が唇から離れて。

目の前には、珠紀の少しだけ赤みがかった顔。


「ちゃんと噛んで!」


無意識に口を動かす。

口の中で何かが潰れて、咥内に広がる味。


でも実際味なんて解らないくらい、何が起きたか理解出来てなくて。


――ゴクリ。


喉を上下させて、それを飲み込む。


「トマト、食べれたじゃない!」


ニコニコと嬉しそうに笑う珠紀に、漸く何が起きたか理解が出来て。


「お、おまえっ…!」


バッと口許を覆う。

顔に少し熱が上がってきて。


「ふふー、今度からこうやって食べさせてあげるね」


愉しそうに笑う、珠紀。


「…勘弁してくれよ」


これから毎日弁当に入れられるであろう赤いアイツを。

嬉しさ半分、悲しさ半分で食する事になるだろうと俺はため息を吐き出したのだった。





誰かこのバカップルに隕石を落としてくれ、いやマジで、頼むから

「真弘…隕石は誰かが落とすものでは」

わーってるよっ!

「まぁ、毎日毎日飽きないですよね…拓磨先輩と珠紀先輩」


2人を見守る屋上メンバー達。

毎日同じようなやり取りをする2人に、ツッコミつつ生暖かい視線を送る


――あぁ、今日も季封村は平和です。



Fin

近すぎる距離

「いーち、一緒に帰ろー?」


そういって幼なじみの咲は腕を絡める。

無駄に高鳴る俺の鼓動。


そんな俺に気付いてないのか、咲はいつも俺に触れてくる。


「先帰ってろよ」


素っ気なく言ってみれば、またいつもの様に腕を引かれる。


「壱、今日うちに食べにおいで?おかーさんも呼べ呼べってうるさいんだよねー」

「おまえ、人の話聞いてた?」

「今日は、壱の大好きな麻婆豆腐だよ!」


噛み合わない会話。それでも咲は上機嫌。

大袈裟にため息をつけば、もうなんだかどうでもよくなって。


「もしかして、咲が作るの?」

「…あ、今ちょっと馬鹿にしたでしょ?」


私だって料理くらい出来るんだから、と意気込んで。


「お母さんに花嫁修業だーって、料理の特訓受けてるんだからね!」

「咲をお嫁さんに貰ってくれるやつなんているんだかなー」


偉そうに踏ん反り返る咲。
そんな咲にハハッと笑って、頭をくしゃくしゃ撫でる。


「も、もうっ!」


赤くなった咲が唇を尖らせて、ポカポカと俺を殴る。


「私だって、好きな人くらいいるんだから!」


咲の言葉に思わず固まって。

そんな咲の腕をすかさず捕らえて、壁際に貼付けた。
驚いた表情の咲にぐっと顔を近付ければ、益々頬が朱色に染まる。


「…いっ、い…ち?」


いつものお返しにと、耳にフゥと息を吹き掛ければピクリと跳ねる体。

逃げるそぶりもない咲の唇に、ゆっくりと自分のソレを近づけて。


…やめた。


「なーんてな」


腕を離してやれば、目盛り単位で顔を赤くする咲がキッと俺を睨んで。


「ッ…壱のバカーっ!」


――バチン

頬に走る痛みと、驚き…戸惑い。


咲の目から零れ落ちる雫に、ざわつく心。


「壱なんて、壱なんて…っ!」


目の前から走り去る、咲。


今の俺に、追いかける資格があるのか。



俺は、…俺は…。




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