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みんなのお姉さん2

・歩君と後輩の少年と綾さんの平和なお話。



*******




冬の霧雨が景色を滲ませる午後15時。

傘をさし、買い物を済ませた荷物を片手に帰宅途中。


「うごっ」


自分の口から野太い悲鳴が漏れました。
いや、真横の路地からふらりと現れた長身の人物と衝突したからなんですよー。

思わず傘を落としましたよ。
荷物は生卵入ってるから死守ね。

私と衝突した人物はふらふらしながら真正面に立ち、私を見下ろした。
雨に濡れてしっとりとしたアッシュグレイの髪。
長い前髪からこちらを見つめる、深い緑色の瞳。

神秘的なその瞳が天然ものだと私は知っている。
だってその超絶美形の彼は、義弟の歩(アユム)君の後輩なんだから。

「然(ゼン)ちゃん、どうしたの……って血が出てるー!」


いかにも具合悪そうな然ちゃんの右腕からは血が滲んでいて手の甲まで滴っている。
然ちゃんはふらふら私に近づくと、ぐっと頭を落として肩に額を押しつけてきた。
左手で私を抱き締めて。


「さむい、」


低い声がぽつり、と。
私は然ちゃんの背中を撫でて、取り敢えず離すように告げた。
落とした傘を拾い、荷物を肘に掛けて、空いた手で彼の大きな手を握った。


「頑張って歩こうか。おねーさんが傷の手当てとご飯つくってあげるから」


そう告げると、彼は幼い動作でこくり、と頷いた。
180センチの逞しい体と喧嘩最強の不良な彼は、無口で不器用な16歳のかわいい少年である。



◇◇◇◇◇



「で?どういうこと」


あぁ、笑顔が引きつってますよ、歩君。

私は膝の上にある然ちゃんの顔を見下ろした。
お風呂に入らせて手当てをした後、然ちゃんはぐずるように私に甘えてきた。
そして、半ば強引に膝の上に頭を乗せてきたのだ。
結果、熟睡。
普段は無愛想な顔があどけなかったりして可愛いかったりする。
する、んだが、突然訪ねてきた歩君には見せたくなかった光景だ。
だって怒るの分かってたから。


「まあまあまあ。然ちゃんは怪我して雨に打たれてそりゃもう捨て犬みたいにかわいそうな感じだったのよ。それを私が拾って手当てしただけでなんていうか、」

「膝枕までさせてんじゃねーよ。……ホラ、起きろバカ犬!」


さすが歩君、鬼畜だね。
寝ている後輩の腹を踏むとは。
然ちゃんが苦しそうに咳き込みながら身を捩った。
私は思わず叫ぶ。


「ぼ、暴力反対!」

「これのどこが」


歩君は平然としたものだ。
然ちゃんはぼんやりと起き上がり、腹を擦りながら傍らに立つ歩君を見上げた。


「……歩サン」

「よぉ。俺の姉貴に膝枕させるたぁいいご身分だな、然」

「……スンマセン……」


うなだれる然ちゃんの頭を叩く歩君。
基本的に然ちゃんは歩君を尊敬しているらしいので、口答えはしない。
たかが膝枕で叱られる然ちゃん。
見ていられない。


「まあ、もういーじゃない。歩君もご飯食べにきたんでしょ?今から作るから手伝ってよ」

「あ?なんで俺が」

「はいはい。今日泊まるの?」

「泊まる」

「じゃあお風呂入ってきちゃいなさい。ちゃんと着替え持っていってね」


基本的に義弟たちの衣類はいつ泊りにきてもいいように置いてある、
歩君は何か言いたげだったが、黙って浴室に向かった。


「然ちゃんはゆっくりしててね。眠たかったら寝ていいよー。ご飯出来たら起こしてあげる」


ぼーっとしている然ちゃんに笑いかけて、私はキッチンへ。
メニューは至って平凡だ。
煮物に焼き魚に卵焼きにお浸しにその他諸々。
日本食が今日の気分。
そして両親が今日は帰らないため若干手抜き。


「まあ、品数増やせばいいか」


お肉あるから生姜焼きでも作るか。
淡々と調理を始めると、不意に横に然ちゃんが立った。


「手伝う」


相変わらず無表情だが血色はいい。
然ちゃんはまな板に乗る切りかけのニンジンを見ると、包丁を手に取った。


「これ、切る?」

「う、うん」


私が驚きながら頷くと、然ちゃんは手慣れた様子でニンジンを切り始めた。
意外だ。
聞いてみれば然ちゃんは独り暮らしで自炊してるらしい。


「はー、偉いねぇ。然ちゃんが弟だったらいつも手伝って貰っちゃうかも」


笑いながら告げると、然ちゃんはこっくりと頷いた。


「綾さんが姉貴なら、俺も嫌じゃない。……綾さんみたいな姉貴が欲しかった」


ぽつりと呟かれた言葉に、私は笑う。
どことなく寂しそうな然ちゃん。
冗談だけで言ったわけではないらしい。


「じゃあ、私のこと姉さんって呼んでいーよ?あ、歩君には内緒で」


然ちゃんはビックリしたような顔で私を見て、恐る恐るといった様子で口を開いた。


「ねえさん……」

「うん」


笑顔で頷くと、然ちゃんも表情を緩めて、再び手を動かし始めた。
口数は少ない然ちゃんだけど、喜んでいるのは分かる。
和やかな雰囲気の中、手際よく調理を進めていた私と然ちゃん。


まさか会話を聞いていた歩君が、盛大にへそを曲げていたとはこの時は気付かず。


結局、私は然ちゃんが眠った後、歩君の部屋で膝枕で耳掻きをしてあげる事でご機嫌取りをする事になったのでありました。




ま、膝枕と耳掻きで機嫌が治るなら安いもんだけど、ね。







←end

かわいそうなヒト3

・生理ネタ
・アイジ×アイリ



*******






生理が、来ない。
遅れているのかと思ったけど、2ヶ月目に入る。
生理不順だった事はない。
なのに。


鏡に映る自分の顔は表情を無くし、青ざめている。
体は小刻みに震えている。

生理が来ない理由。
それは一番私が恐れる結果。


「い、や、」


ぶるぶると震える手で口元を抑える。
どうしよう。

確かめようにも外出が許されていない私は、病院に行くことも検査薬を買いに行くことも出来ない。


どうしよう。どうしよう。

もし、もし、妊娠していたら?
私はどうなる?
彼は、どういう反応をする?

怖い。知られたくない。

でも、でも。
まだ妊娠したと決まったわけじゃない。

人食鬼の子供を妊娠したなんて、信じたくない。


「なんで、こんな目に合うの……?」


すべて後の祭り。
私はどうすればいいのだろう。



気分が悪い日が続く。
たまたま彼が訪れない日が続いて、私はますます自分の中に引きこもった。
彼に会いたくない。

彼は私が何も言わずとも、全てを察してしまうから。
相変わらず、鏡の中の私は陰鬱。
少し痩せたかもしれない。
彼に、叱られる。
私が私を粗末に扱うことも、彼は嫌うから。
でも、食べる気がしない。


「……シャワー、浴びれば、」


冷たいシャワーでも浴びて、気分を入れ替えれば何とか。
少しでも食べておかないと、彼に、私が嫌う血のしたたるような肉を食べさせられてしまう。
吐き気をもよおすけど、彼は私の口を塞いでも飲み込ませようとする。
拷問のような、食事。

そして、それが嫌なら、きちんと三食食えと彼は言う。

ノロノロと服を脱いで浴室に入る。
体を見下ろすと、やけに鎖骨が浮き出て見えた。
肋骨も浮いている。
本当に、食べなきゃ。

コックを捻ると冷たい雫が降り注ぐ。
しばらく頭からそれを浴びていると、不意に浴室内の空気が動いた。
同時に、今まで浴びていた冷水が温かなものに変わる。


「体、冷やすよ?」


揶揄する低く甘い声。
血が引く思いで背後を向くと、裸体の彼が笑ってそこに立っていた。
気配もなく、彼はいたのだ。
硝子のような瞳が私の体を見下ろす。


「アイリー?随分、みすぼらしくなっちゃったねぇ」

「いたっ、」


爪を立てて胸をわし掴まれる。


「どうしてこんなになっちゃったのかなー?」

「ごめ、ごめんなさい……っ、調子が、悪くて」


生理の事は言えなかった。
ガタガタ震えながら、笑っているようで笑っていない彼の美貌を見上げる。


「調子が悪いのに冷たいシャワー浴びるわけ?ヘンなの」

「す、スッキリすれば、ごはん、食べれるかもしれないって、思って」


それは嘘ではない。
必死で彼を見上げていると、ゆっくりとその均整の取れた肉体が押し付けられた。
昂ぶったそれが私の腹に当たる。


「まあいいよ。取り敢えず、コレ食べる?」


彼は笑いながら指をさす。
自分のソレを。
冗談みたいに振られても、拒否は出来ない。

私は奥歯を噛んで、求められている行為のために床に膝をついた。手の平で包み込んで、数回扱く。
すると、先端から雫がぷっくりと溢れる。
私はそれに舌を伸ばした。


「ん、」


銜え込むと太くて長いソレはビクビクと脈打ち、私の舌を怯えさせる。


「んー、イイカンジ」







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