ふわふわ。
浮かんで、消える、
しばし魂に例えられるもの。
ドレミファソラシド。
歌いながら小道を歩いて
お気に入りの花が咲く丘へ。
足りないもの、埋まらないままだって、分かってた。
不完全な生き物に、完全なものは創れない。
ごめんね、って声が泣いてて、
ぼくは振り返らなかった。
ずっと光が差す方を見ていたよ。
形あるものを空にかざすと、
形ないものを映し出す。
コール・アンド・レスポンスさ。
誰もいない丘の上。
ポケットの中のビー玉で、教わった魔法を試してみる。
ビー玉は光を透過して、影までも水色。
このまま、心まで透過して。
ずっと遠くまで行きたい。
言葉は心に刻まれて、最後まで残る、と思えば
足りないものなんて大したことはないよ、って。
抱きしめた、
遠い昔の記憶。
雲の隙間から光が差し込む。
その一瞬に大きく息を吸って、吹きかける。
どんなものにも終わりはあるって分かっているから、
少しでも長く、と願うのだ。
できるだけ長く、できるだけ遠くまで飛んでね。
みんなが知らない綺麗な景色を、たくさん記憶に残してほしいな。
ふわふわ。
触れられないこの重さは
しばし魂に例えられるもの。
綿毛は風に乗って空に。
ビー玉/雲/綿毛
青空にぽつり、取り残されたような小さく白い雲。
きみが消えてしまった理由、ぼくは知ってる。
いつも、少ない言葉で伝わるものが世界の中心だった。
簡単に伝わらないものは異物で、道の端を歩いて渡る。
歩道橋の手すりをカンカンと叩いて、きみは歌を歌った。
空の青さを讃える歌だった。
「世界と世界の間を区切る河川のように、人と人の間にも、境界線があってね。」
マフラーを頬のところまで上げて、冷たい空気を遮断する。
「事前の合意なしでは、決して入ってはいけない領域があるんだ。その全てを初めから理解しているひとと、概念すら持ち合わせないひとがいて、」
振り返らずに先を歩く後ろ姿を、目で追う。
「そこにも当然河川は流れている。お互いを知っている部分なんて、表面のほんの少しでしかない。」
きみが傷付いていること、ぼくは知っている。
けれど、きみのために何かを失うだけの勇気が、ぼくにはない。
「変化に対応できる生き物だけが生き残ると言うけれど、絶滅しないっていうことがそんなに大事なことなのか、正直ぼくは自信がないな。」
この先、大きなものに轢かれませんように。
端でもいいから、ずっと道を歩いていけますように。
きみが、この世界でずっと、安全に生きていけますように。
誰も指摘しない、たくさんの小さな矛盾。
全て、優しさでできたものだから
石を投げる権利は誰にもない。
気持ちがいくら分かっても
できる仕事というのは、あまりに少ない。
寂しいけれど。
冬の棘、光、悪気はないんだぜ。
息を吐いて束の間、白く変わる空気。
青空/仕事/盾
夜の澄んだ空気に、星が煌めいている。
もこもこに着込んで、流れ星を待ちながら、生き物の歴史について考える、冬休み。
悲しかったこと、いつか、笑って思い出せる日が来ますように。
母親のカシオペアと、娘のアンドロメダ。
その下に、父親のケフェウス。
覚えたばかりの星座、繋いで。
呪いなら名前を知れば解けるって、もし本当だったなら、
叶えたい夢があります。
あ、流れ星。
悲しかったこと、いつかーー。
正しい教育だけでは、こぼれ落ちてしまうものがあるということ。
あなたにも見えないものがあり、救えないものがあるということ。
それでも冷たい河を泳いで、わざわざ人に会いにゆく。
人と生きる道を選ぶ。
寒ければ寒いほど、色鮮やかに輝く冬の星。
生きているだけでいい、とは、ならないから、なかなか。
正しい言葉では表せなかったこと、せめて、詩にして、歌にして、
宝石みたいな夜に添えよう。
世界のどこかに、わたしにそっくりの神様も、いるかな。
いつか会える日を、待っているよ。
母親/教育/冬休み
幸せは目に見えなくて怖いから
なくならないように、全部預けてしまいたい。
きみに、ぼくの全てをあげたら
きみはどこまでを、ぼくにくれる?
下手くそなポーカーフェイス。
最後まで知らないでいたいこと。
歩いたそばから道は崩れて、
暗がりはどこまで行っても暗がり。
なんか、おかしいよなあ。
それもまあ、人生のひとつです、と
笑って、
誤魔化す。
幸せは何色?
どんな味がする?
当てっこしようか。
願いごと、選べるなら
見えないものが見えるようになる、魔法をかけてほしいな。
どんなことがあっても、ぼくはきみの味方だ。
愛すことも愛されることも、叶わぬ夢なのだとしたら、
首輪、緩めて
ぼくが少しだけ手を汚そう。
きみは、きみのままでいい。
そのままでいいから。
幸せは透明に溶け込んで、
きっと誰にも見えない。
穏やかな春の法則。
ポーカー/味方/首輪
長く浸っていると、それが温かいのか冷たいのか、分からなくなるときがあるよね。
そっと微笑む。否定でも肯定でもないよ、という風に。
「大丈夫。」
いつもの口癖。
大丈夫じゃないときも、同じようにそう言う。
「氷だったものが溶けている、と考えれば、この冷たさだって、春の温度と言えるよ。」
ピシャリ、薄氷が割れ、水が滲み出す。
「春の水温だ。」
きみの夜を、ぼくは知りたい。
澄み渡る空の青さ。
最後まで上手くならなかったギターベース。
「未来のことが怖いのは、人間なら仕方のないことだよ。」
氷を溶かした指先は、赤く冷たかった。
いつも誰かを温めたぶんだけ、きっと、こんな風に。
変わり映えのしない町並みが嫌いだった。
ボストンバックを背負ったまま、重すぎる上り坂も。
優しいふりをしないと生き残れない教室も、
汚い大人も、全部全部。
きみの夜を教えて。
ぼくは春を教えてあげる。
道端には、過去になった記憶の欠片。
薔薇の花はいつも誰かを待っている。
薔薇/青/水温