お菓子のおまけに付いてきたのは、赤くて大きな宝石が付いたおもちゃの指輪。
赤い星は寿命が短く、さそり座の赤い星は心臓にあたる部分だって知ったとき、
あたしはさそり座がなんだか好きになった。
そんなことを思い出した。
明るい夜のカーニバル。
終わらないで、ってきみは言う。
「あなたが、大切なの。もう、いなくなったり、いない方がいいと思ったり、絶対にしないで。」
自分を大切に想ってくれている人には、
伝えてはいけない気持ちがあるんだな、って
学んだ。
人生はいつまでも勉強なのでした。
あたしは、元気です。
心配、しないでね。
手紙を書いた。
本当の気持ちは、どこにも行きません。
心臓の赤は、
終わりが来ることを知っている赤。
夜空に光る星は、
あたしの指先にも、同じように光っている。
手紙/指輪/カーニバル
手を繋いで、夜を渡った。
夜に光る全てのものを守っていたい。
ポケットの中に、言えなかった気持ち。
いつでも思い出せるように、
名前を付けた約束の日。
暗がりから、手を伸ばして。
誰にも気付かれないかもしれない、けど
見えるものが全てなら、
目で見てわかるものを、増やしていかないとね。
言葉にできないものは、良くも悪くも、誰にも伝わらないんだ。
でもね、それを虚しいなんて、言わないでほしい。
停電した暗い心を
手探りで進む夜。
きみにはいつか、全てを話してあげる。
傷跡、トラウマ、全部。
優しさじゃなくて弱さだったこと。
ぼくの全てを。
綺麗な景色を見た後には、
人間でいることが、惨めに思える夜があるね。
遠く離れてしまった痛みも、
触れれば今でも思い出せるよ。
泣くんじゃない、
これが人生だよ。
涙がこぼれたら
ポケットに入れたもの、ひとつ取り出して
きみに見せてあげよう。
ポケット/停電/トラウマ
寄せる波が静かに足の甲を濡らす。
どこか遠くに行けると思ってる、のは、昔も今も同じで
何一つ形にできないくせに、夢ばかり見て
ひとりだけ卒業できない、春。
濁った海の中では、息をするだけで精一杯だったから
違う生き物になれて、幸せのはずなのにな。
なんでも、好きな歌を歌ってよ。
正しい言葉で耳が塞がれてしまわないように、抗う。
手鏡、真実を映し出して。
欲しいもの何一つ、叶わないのだとしても
痛みと一緒のままでいい。
守ってくれなくていいから
わたしに真実を教えて。
浜から眺めている分には
どんな悲しみも、輝いて見えるものでした。
人間に、心というのは、手に負えないものだったんだよ。
きらり、光って
みんな消えていってしまう、春。
手鏡/濁った海/卒業
手のひらに何もないこと、隠しながら生きた。
ここにいてもいい、という保証がほしくて、
形あるものを選んで愛した。
あなたのことは、なんでも知ってる。
全部分かった上で、選んだ道。
「別れがつらくなるから、きみに名前を付けるのはやめておく。」
上り坂で振り返り、はにかんで、あなたはぼくにそう言った。
じわじわ暑い夏の日だった。
大切にしたいもの、一度にたくさんは無理だから、
舞台裏では、いつも誰かが泣いていたっけ。
仕方のないことだよ、と
知った風に、慰めたんだ。
太陽の周りを回る、いくつもの惑星たち。
お互いの存在を、ほとんど何も知らない。
いつか同じ言葉で、同じ立場で話ができたら。
見かけの優しさを捨てて、
それでもまだ、愛の話ができたら。
期待してしまうよ。
「わたしの想いひとつで、きみの運命を変えられたら良かったのにな。」
長い坂道を登り切ると
眼下には美しい景色が広がる。
隣に並んで、
伝わらない言葉で、
あなたの幸せを願った。
舞台/坂道/惑星
「空があって海があって
花が咲いていて小鳥が歌っていて
それでいて機能不完全というのは、どういうわけなんだろう。」
きらきら光る水面の色が反射して、
きみの表情を見えなくする。
その淡い姿は、
どんなにやさしい光でさえ、影をつくるのだ、ということを
ひっそりと、けれど明確に、教えている。
ぼくらには光があった。
太陽が、月が、いつも辺りを照らして。
毎日。
それでいて機能不完全というのは、どういうことなんだろう?
「本当に善い行いというのは、誰にも知られず、密かに行うものさ。」
窓から差し込む白い光と
朝を告げる小鳥の声。
夢物語でも終わらないなら、これもアリかも、って思ってしまうな。
「悲しいものを見たときに見てみないふりをするのは、暴力に加担するのと同じことだから、さ。」
全ては優しさから始まって、優しさで終わるって
奇跡を信じている心臓の音。
(さよなら。)
気がつくときみはいつの間にか向こう岸にいってしまって、
二人の間には穏やかな小川が流れている。
(この指先では、きみに触れることができないって、知ってた。)