“あの頃”の緑黄色が煙草吸ってる話。
タイトルは思い付かなくて好きな曲からひっぱってきただけなので本文とは関係ないです。
※商品名そのまま書いちゃってるので、不快に思われた方が居ましたら下げますです。
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ぷかり、輪形に吐き出された紫煙が天井へ上っていくのを、クルルはぼんやりと見上げた。二つ三つと、煙の輪が次々に流れていく。先に作った輪の中を新しい輪が上手いこと通り抜けて、輪を量産していた男が喧しく歓声を上げた。
「すっげ! 今の見たでありますか? ドンピシャ!」
銜え煙草のまま子供のようにきゃらきゃらと笑う男に曖昧な笑みを返し、クルルも煙を吸い込む。期待のこもった視線を向けられるが、答えてはやらない。
かわりに、男の顔に向かって煙を吐き出してやった。男は大袈裟なリアクションで煙を払う。
「ひっでー! うえぇ、我輩メンソール嫌いなんだってば!」
「く〜っくっくっく」
当然、知っていてやった事である。
「クルルってメンソールばっかだよねー」
「アンタがころころ変えすぎなんだよ」
「えー、そう?」
きょとりと目を瞬かせる男を鼻で笑う。
「一月前はジタン、次にしんせい、今のはpallmell。メンソールが嫌なら、次は赤マルかハイライトかい?」
「ゲロッ、大当たりーであります。やっぱ流石だわ少佐殿」
男は降参、とでも言うように両手を挙げてみせる。
おどけた動きの拍子に銜えたままの煙草から灰が落ちそうになり、咄嗟に携帯灰皿を差し出してしまった。らしくない行動に、クルルは思わず舌打ちを漏らす。
男はこれでもかと言うほどの渋面を作るクルルに戸惑うこともなく、ごめんごめん、と灰皿に灰を落とした。
悪びれもせず笑う男に再び舌打ちして、クルルも自分の煙草の灰を落とす。鼻唄でも歌い出しそうな程上機嫌な男の顔を見ていたくなくて、クルルは少し顔を背けた。
短くなった煙草を吸いきってしまおうと持ち上げた手をやにわに掴まれる。抗議をしようと男に顔を向けると、驚くほど近くで視線が交わった。思わず後ろに下がろうとするも、クルルの背後は壁で、そのまま距離を詰めてきた男にあっさりと捕らえられてしまう。
紫煙の煙る中、互いに目を開けたままの口付けは、どこか非現実じみていた。
悪戯を成功させた子供のような笑みを目元に浮かべた男は、我に返ったクルルが振り上げた足をひらりと避けて距離を取る。
睨み付けるクルルをさも楽しげに見ながら、男はケラケラと笑う。
「やっぱりメンソールは不味いでありますな」
「……分かってんならやるんじゃねェよ……」
忌々しげに口許を拭うクルルに、男は片目を瞑って人差し指を向けた。
「我輩は吸いたくないけど、クルルが吸ってるのは良いかな」
「……は? どういう意味だ」
「どういう意味かねぇ? 我輩も、次はアメスピにでもしよっかなー」
笑いを絶やさないまま男が背を向ける。上げた片手をひらひらと振る動作に、男が立ち去るつもりだと分かった。遠ざかる背中に、悔し紛れに舌打ちを投げる。
苛立ちをぶつけるように灰皿に煙草を押し付けて、前の会話を思い返したクルルは首を傾げた。
「……我輩“も”って、なんのこっちゃ」
思考を巡らせながら、懐から煙草を取り出す。箱から一本抜き出そうと視線を向けて、数秒固まったクルルはその場にずるずると崩れ落ちた。
己の手の中に収まった煙草の箱。メンソールのそれのパッケージデザインは、鮮やかな緑。
弾む足取りで去っていった男の姿が脳裏を過る。男が告げていった銘柄のパッケージは、確か黄色だった筈だ。
楽しげな笑い声が響いた気がして、戦った訳でも無いのに勝ち逃げされたような気分になったクルルは、うんざりと項垂れた。
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