翌日。いよいよお待ちかねの鷹稜(たかかど)主催のちょっとした食事会当日がやってきた。
なぜか鷹稜は午前中から本部にいる。ふらふらしても仕方ないので、休憩所など邪魔にならない場所にいた。


鼎は休憩所で暇を持て余している鷹稜を発見。
「鷹稜…まだ午前中だぞ…。来るのが早すぎないか…?」
「えっ?そうですか?もう私は楽しみで楽しみで仕方がないのです」

明らかに声が高い。どんだけ今日を楽しみにしていたんだ、こいつは。


鼎は諭すように言った。

「時間が来るまで本部に迷惑をかけるなよ。食堂が使えるのは午後だからな。午後15時以降なら厨房を使ってもいいそうだ」
「午後ですね!」


ああ、こいつめんどくせー。鼎は鷹稜はめんどいやつだと思いながらも、微妙に抑えてる。
鷹稜は得意な料理で皆を喜ばせたいだけだから、悪気はない。

対怪人用ブレードがここまで人間臭くなるとはなー…。
鷹稜はちょっと私に対しては過保護だが、別に悪気があるわけでもないから気にはしていない。



そして午後15時過ぎ。鼎が暇を持て余している鷹稜に知らせに来た。

「鷹稜、食堂担当の隊員達(おばちゃん達)が帰ったよ。厨房は自由に使ってもいいと食堂担当のチーフが言っていた。
『後片付けはちゃんとやっておけ』…だそうだ」
「わかりました!仕込みに入りますっ!!」


鷹稜はかなりイキイキしている。お前…本当に対怪人用ブレードなのか?
そう言うと、鷹稜は本部内にある食堂へと直行した。



司令室。宇崎は鷹稜の様子をカメラでウォッチング。


「あいつ…ガチだ…!」


そんな宇崎にいつの間にか来ていた御堂が突っ込んだ。
「鷹稜のやつ、かなり気合い入れてんぞ。昨日俺らで買い出し行ったんだけどさー…、材料なんか多かったんだよ。人数多めに作る気かもよ。この組織、飛び込みで食いたい言うやつ絶対いるからな」
「昨日買い出し行ってきたのか?」

「鼎に呼び出されたんだよ。鷹稜と鼎じゃちょっと荷が重いし、鼎は見ての通り身体に負荷がかかりやすいから極度に重いのは持たせらんないだろ?」
「…で、呼び出されたのか…」

「鼎の頼みなら引き受けるよ」


しばしの間。


「和希は鷹稜のメシ、食うの?」
「あんだけ鼎が絶賛してんならと、お呼ばれしましたよ〜」

和希もなんだかんだ楽しみにしてんじゃんか…。



夕方。食堂には鷹稜の料理を食べたい食いしん坊な隊員達が集結。御堂と宇崎までちゃっかりいる。


「あれ?室長と御堂さんも来たんだ〜。きりゅさんも食べるよね」
「いちかも来たか。…なんか人数多くない?鷹稜、対応出来るのか?」

「そのためにちょっと多めに作っておきました〜。10人ぶんなら可能です」
対応早っ!



しばらくして。


「リクエストの料理出来ましたよ〜。オムライスに唐揚げと…あとなんでしたっけ?」
鷹稜はとぼけてる。鼎は思わず突っ込んだ。

「汁物忘れているだろが!なんだっけ…スープだスープ的なもの」
「あ。ミネストローネでしたね。野菜が足りてないのでサラダはご自由に。デザートもありますよ」


何品作るんだ!?体力勝負な男性隊員が多いだけに、唐揚げが多めにあるのは鷹稜の優しさなのか?
しかもリクエストにはないデザートまで作ってるのかよ!?


とりあえず、食べてみようとなった。時任はオムライスをリクエストしたらしい。しかもデミグラスソースのもの。
ソースはトマトケチャップかデミグラスソースと選べるあたり…細かい。店か!


「う…美味い!なにこれめちゃめちゃ美味いっすよ〜!卵はふわとろ、デミグラスソースは肉の旨味が凝縮されてるよ〜」
突然、時任の食リポが始まった。いちか…そういうキャラだったっけ?

男子達は唐揚げに食いついてる。米のおかわり続出。


鼎も淡々と食べていた。食事用マスクの構造上、少しずつしか食べれないため鼎の料理はあらかじめ食べやすくされている。

「どうですか?鼎さん」
鷹稜がニコニコしながら聞いてきた。
「…美味しいよ」
「マスクの口元汚れてますよ」
「構造上汚れやすいからな…仕方ないんだ。食後にマスクは拭くから大丈夫。消毒もするからね」


遠目に見た時任は思った。

きりゅさん食べにくそう…。それにしても器用に食べてる。すごい。
あの食事用マスクに慣れるまで、かなり練習したとか聞いたなぁ。


頃合いを見て鷹稜はデザートを出してきた。
「プリンとパンナコッタを作りましたので、お好きな方をどうぞ」

…なんかレストランじみてきてるぞ、鷹稜…。
2種類いつの間に作ってたの!?


時任はわかりやすいリアクション。
「うひゃー、とろけますなぁ。このパンナコッタ。ほっぺたが落ちちゃうよ〜」

御堂は無言でがっついてる。彩音と桐谷は和気あいあいとしていた。



食事会、終了。後片付けは食堂にいた隊員総出でやってる。
鷹稜の振る舞いはまるでシェフだった。君、対怪人用ブレードだよね?


「鷹稜」
「鼎さん、なんでしょう?」

「楽しませてくれてありがとな」
鷹稜は鼎を見た。いつの間にか仮面は食事用マスクから通常のベネチアンマスクへと変わっていた。

「いえいえ。私も楽しかったですよ」



数日後。恒暁(こうぎょう)と鷹稜は久しぶりに会うことに。
恒暁は鷹稜の変貌に驚いた。


……そのエプロン、何?メルヘンちっく…。


…え?主の身の回りの世話をしてるんです。主夫っていうんですかね。
料理はほぼ毎日作りますし。


……マジ?



恒暁は鷹稜が主夫化している事実に、ついていけなかったようだ。
ナチュラルに馴染みすぎだろ、鷹稜…。