お題バトンより
お題:右手には黒光りする銃、左手には鈍色に光るナイフ
政宗、元親メインのblack handsの番外編です。
内容がアレなのでさげ。
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静かな豪邸の中は、血と硝煙の臭いで満ちていた。
何十人という男たちが、冷たい大理石の床に伏せて身体を襲う苦痛にもがき苦しんでいたが、彼らのまるで獣のような呻き声は、煩い程に窓を叩き付ける豪雨の音にかき消されていく。
ただ、その呻き声は空気の震動となって鼓膜を震わせ、非常に不快な感覚を元親に与えた。
明かりさえも消えた大広間の隅で、元親は肩で息をしながら、地獄絵図と化した室内を右目に映し、冷たい壁に背を預けて、力なくズルズルとその場に座り込んだ。
そんな元親の額に突き付けられた熱を持った鉄の塊。
火薬とほんの少し血の焦げた臭いが鼻腔を霞める。
「Oops!危なくテメェの脳天も風通りを良くする所だったぜ」
そう言いつつも、元親を見下ろすように立つその男は、額に突き付けたピストルを下げる様子もない。
むしろ改めて安全装置を解除して、すぐにも弾を発射できる準備を調えた。
見上げた先に視界に映る、暗闇の中でも光る左目がまるで血に飢えた竜のようで、その恐ろしさと美しさに鳥肌が立った。
「何遊んでんだ?元親。テメェは“話し合って”ケリをつけにココに来たんじゃねぇのか?」
「悪ィ…ちょっと油断しちまった…ハハ」
「…そうみたいだな」
苦しげにはにかむ元親の右肩に刺さるナイフに、政宗は視線を向け、僅かにその形のよい眉を顰める。
静かに銃を下ろし、政宗は一言動くなと声をかけて、元親の肩に刺さったナイフの柄を掴む。
微かな震動であったけれども、心臓が血液を押し出す衝撃でさえ傷口がズキズキと痛む今、ナイフを伝って直接肩に響くその震動に、元親は唇を噛み締めて息を詰めた。
獰猛にして残酷な独眼竜―…
元親のボスである政宗はそう呼ばれる。
たしかに彼の気性の荒さと、派手で突飛な行動はそう呼ばれるに相応しいだろう。
機嫌が最悪な時は下手すれば部下である自分たちもとばっちりを食らう事が多々あるくらいだ。
しかし本当の彼が、誰よりも部下思いなことも元親は知っている。
だからこそ今の政宗はヤバい。
「ッ…!政宗…っ!」
政宗の後方に見えた、こちらに向けて銃を構える男の姿。
いつもなら直ぐさまこちらも銃の引金を引いている所だ。
しかし、負傷した肩は思うように動かない。
それでも何とかして政宗を庇おうと身体を動かす。
「Don't move…そう、言ったはずだぜ」
そんな元親の左肩を、政宗は蹴るように足で押さえ付け、同時に右肩のナイフを一気に引き抜いた。
「ぐああっ…!」
その瞬間に悲鳴をあげたのは、元親だけではなかった。
政宗の後方に立っていた男もまた、苦悶の声をあげてその場に蹲るようにして倒れ伏したのである。
何が起きたのかは明白。
政宗が引き抜いたナイフをそのまま背後の狙撃者に向けて投げ付けたのだ。
ドクドクと血の流れでる元親の傷口に役に立たない小さなハンカチを押しつけて、政宗は不機嫌露に蹲る男の元へゆったりと歩を進める。
「ha!もうお終いか?…もっと俺を楽しませろよ」
きっとその男には、煩い程の雨音よりも、近付く政宗の足音の方が何倍も大きく聞こえた事だろう。
それはまさに死神の足音に違いなかった。
短い悲鳴をあげて、男は後退るも、太股に刺さった銀のナイフと肌を刺す政宗の殺気に、思うように逃げる事も出来ず、かといって震える手では銃を握り締める事さえままならない状態では、殺られる前に殺るなど夢のまた夢…
「ほら、撃って来いよ」
男を跨ぐように立って、政宗は恐怖に引きつる敵の情けない顔を不敵な笑みを口許に刻んで挑発する。
何やってんだ!と思ったのは元親だけではない。
政宗と共に来て、ドアをぶち破って大広間に姿を見せたかと思うと銃をぶっ放して元親の窮地を救った政宗の部下全員が思った事である。
そんな中で床に寝転んだ状態の男は恐怖を顔に浮かべて政宗を見上げ、震える両手でなんとかリボルバーを構えて照準を合わせる。
それを政宗は実に楽しそうに歪んだ笑みを浮かべて見つめていた。
「oh、可哀相に…。お前はリボルバーの使い方も分かんねぇのか?テメェのボスは不親切だなァ」
小馬鹿にしたような憐れみの表情を浮かべて、政宗は震える男の手からいとも簡単に拳銃を奪い取った。
「アンタは運がいい。俺から直々に銃の扱いを教われるんだからな」
それから狂喜と殺意の宿った瞳が男に向けられる。
「ヒィッ…ッ!」
逃げようにも、男の身体はいうことを聞かなかった。
「first、ハンマーを起こす」
しなやかな指がカチャリとを撃鉄を起こす音。
「second、標的に照準を合わせる。でも今みたいに震えてちゃ外す可能性が高い。そういう時は…こう」
「…!!」
ゴリッと額に押し当てられる銃口と骨に当たる鉄筒。
そして政宗は、よいしょ…と男の腹の上に馬乗りに座って、
「これで絶対に外さねぇだろ?」
暗闇の中、キラリと輝く政宗の瞳。
チラッと舌を覗かせて、飢えた獣のごとき表情と、怒りをその端整な顔に浮かべる。
「そしたら後は、引金を引くだけ…」
この空間を支配していた雨音さえも遮って、聞き慣れた破裂音がこの大広間に響き渡った。
「finish…」
血と硝煙と、僅かに肉の焦げた臭いが政宗を包む。
政宗は静かに立ち上がると、ふと目に入った銀のナイフをただの肉の塊になった男の脚から引き抜いた。
「結構な値打ちモンだな。テメェの命で足りない分、こいつで俺の特別授業料の足しにさせて貰うぜ」
クスクス笑って政宗は、駆け寄ってきた小十郎の小言を面倒臭そうに聞き躱し、そして不意に未だ座り込んだままの元親を振り返った。
「お前の仇は取ってやったぜ?」
「俺、まだ死んでねぇんだけど」
カラカラと笑う政宗につられて笑うが、その震動に肩が疼く。
思わず歪んだ元親の顔に、政宗は呆れたと言わんばかりの顔をして、そして盛大なため息をついてみせた。
「ったく。任務達成出来ない上にそんな怪我しやがって。テメェは自宅謹慎だ。暫く俺の前に顔を見せんな」
「ああ…」
痛みを堪えてなんとかそれだけ応えた。
安心したからか、血を失いすぎたからか、眠気に似た心地よい闇が元親を襲う。
「……無理すんな」
失いかけた意識の淵で、普段は絶対に聞けないような優しい声を元親は聞く。
それは優しい声なのに、何故か胸が締め付けられた。
闇に生きる美しい彼
立ち去る彼の手には命を奪う武器が
でもそれは同時に、命を守る。
全てが皮肉的だと、そう思わずにはいられなかった。
右手には黒光りする銃、左手には鈍色に光るナイフ
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長い上に意味不明でごめんなさいぃぃぃ(汗)