『迎えに来たよ』
長身で顔立ちの良い男が、笑顔で近づいてくる。
「あんた、誰?」
少年は小首をかしげる。
『誰って酷いな。恋人の顔も忘れてしまったの?』
少年は黒目がちな大きな瞳をぱちくりさせ、まるで意味が解らないと言った顔をしている。
「はぁ?なに言ってんの??あぁ〜…。もしかして、なんかの罰ゲーム?」
少年がそう問いかけるのも無理もない。
いきなり見ず知らずの人間に声を掛けられ、更に自分を恋人などと言われれば誰でも体の悪い冗談だと思うのが普通だろう。
ましてや、自分より一回りは年の離れていそうな男に。
しかし。少年の問いに男は軽くため息をつき、にっこりと微笑む。
『ちょっと相手をしてあげないと、すぐにヘソをまげるんだから…。そんな意地悪言わないで、ね?ほら、早くお家に帰ろう?』
男はにっこり微笑むと、少年の腕を掴んだ。
「…ッ!?」
少年は突然の男の行動にびくりと肩を掬わせ、咄嗟に腕を振り払った。
「ちょっ…ちょっとッ…!!あんた、マジでなんなの?!頭沸いてんじゃねぇの?!」
(ヤベェ…変なのと関わっちゃったよ……)
少年は男から離れようと、ジリジリと後退る。
『仕方ないなぁ…。本当は、こんなことしたくたいけど……うん。仕方ないよね』
男が俯きながらぶつぶつと独り言を呟く。その隙に少年には身を翻し走りだそうとした、瞬間――。
ガバッ…!!
背後から男に羽交い締めにされ、鼻と口を覆うように布を押しあてられた。
「ゔぅ゙んっっっ!!!?」
少年は手足をばたつかせもがいたが、成人した男の力に敵うはずもない。
(誰か助けてッ…!!)
男は自分の下でもがく少年耳に近付き優しく囁いた。
『大丈夫。ちょっと、眠たくなるだけだから』
(それのドコが大丈夫なんだ…よ……)
男の力強い腕に囚われたまま、少年は意識を手放した。
2011-7-13 01:32
小さな石ころがあった。
ただ、それだけの事だった。
しかし、その小さな石ころが歯車の回転を狂わせた。
ガチガチと耳障りな音をたてながら、歯車は回り続けた。
ゆっくり、ゆっくり
そして、確実に…―――
それが、自ら首を締め付ける行為だと気づきもしないで。
どんどん、深みに嵌まって逝く。
だが。解っていたとしても、止める事など出来なかっただろう。
例え、どんな結末だろうとも
それが、自分の選んだ答えなのだから。
歯車は、止まった。
小さな石ころと、共に。
2009-9-12 03:08
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