白銀ノ語リ


紅ニ染マル白3
2015年8月20日 22:31






神楽に銀時の見張りを任せ、新八は台所で夕食の準備をしていた。
自分達が食べる通常の食事とは別に銀時に食べさせるお粥を土鍋でグツグツと煮込んでいた。
そろそろいいかな、とコンロの火を止めると同時に和室の方からドサリと音が聞こえてきた。
銀時が目覚めたのだろうか。
割烹着姿のまま台所を出て和室へと続く襖を開ける。

「神楽ちゃん、銀さん起きて…?」

薄暗い部屋の隅―――畳の上に転がっている神楽とその上で力なく倒れている銀時。二人の格好を見て新八は驚いて言葉を失った。
一体、自分がいない間にこの二人の間に何があったのだろうか。まさか銀時にそう言う趣味があったのか。そうだとしたらこれからきっと自分は銀時に軽蔑の眼差しを向けるだろう。とにかく神楽から銀時を離さないと。

「新八…」
「神楽ちゃん…暫くは銀さんに近付かない方がいいよ」
「は?なに勘違いしてるネ。その眼鏡は伊達眼鏡アルか」

銀時の下から抜け出した神楽がぐったりとしている銀時の脇をつかんで布団までズルズルと引き摺る。
その際、ちらりと彼女の白い首に絞められたような痕がついているのが見えてしまった。

「神楽ちゃん…その首…」
「私は大丈夫アル。これくらいの痕すぐに消えるヨ……きっと怖い夢でも視てただけネ」

やはりその首は銀時がやったのか。
それ以上は何も聞かず、銀時の寝顔を静かに見守る神楽に「ご飯出来たから食べよっか」と声をかける。しかし、彼女は首を横に振って銀時から離れようとしなかった。
仕方ないのでテーブルを和室に運び、そこで夕食を食べることにした。
眠る銀時を頻りに気にしながらご飯を掻き込む神楽。そんな彼女を不思議に思いながらも新八は一足先に食事を終えて食器を台所に運ぶ。
冷ましておいたお粥を持って和室に戻ると神楽が食事の手を止めて銀時を見詰めていた。

「神楽ちゃん…?」
「………銀ちゃん、起こすアルか?」
「え?あ、うん、銀さんにもご飯食べてもらわないとね」
「また、怖い夢視てないといいアルな」
「え?」

神楽の言葉に新八は首を傾げた。
未だにくっきりと残っている赤い痕。先程、銀時と神楽の間で何があったのか、それを見れば何となく予想はつく。
銀時が幾ら寝惚けていたとしても、本気で神楽の首を絞めるなんて―――余程、酷い夢を視ていたのだろうか。
複雑な表情を浮かべている新八を尻目に神楽が銀時の名を呼びながら彼の肩を軽く揺すっている。
何度目かの呼び掛けで銀時が漸く目を覚ます。
薄らと開いた瞼―――虚ろな紅い瞳が天井をぼんやりと見ている。

「銀さん起きてください。ご飯ですよ」
「…………」

寝起きでまだ意識がはっきりとしていないのか、ゆっくりと瞬きを繰り返す銀時。
肩を軽く叩きながらもう一度「銀さん」と声を掛けると虚ろだった紅い瞳に漸く光が宿る。

「…しん…ぱち…?」
「お粥作ったんですけど、食べれそうですか?」
「……すこしなら…」
「起きれそうですか?」
「だるい…」
「じゃあ、起こしますよ」
「あ、私がやるアル!」
「でも神楽ちゃんご飯の途中じゃ…」
「後で食べるから良いアル!」

どうやら何時もの銀時であることに安堵したようだ。急に元気になった神楽が銀時の身体を起こす。しかし、銀時は自分の身体を支えていられないようで、神楽がそのまま銀時の後ろに回りその大きな背中を細い腕で支える。

「神楽ちゃん大丈夫?」
「これくらい全然平気ヨ」

幾ら夜兎とは言え、少女の細腕が脱力している成人男性の身体を支えているのだ。口では平気と言っても彼女にそれなりの負担は掛かっているだろう。
銀時も負担を掛けているのは自覚しているようで彼にしては珍しく申し訳なさそうな表情をしていた。
力が入らない銀時の代わりに新八がレンゲでお粥を掬い、彼の口元まで運んでやる。
お粥を口に含んだ銀時はゆっくりと咀嚼始めた。が、なかなか飲み込めないのか口をモゴモゴと動かしては眉間にシワを寄せている。何とか口に含んだお粥を飲み込んだ銀時は小さく咳き込んだ。

「大丈夫ですか?」
「……わりぃ…」

何度か咳き込んで漸く落ち着く。
顔を赤くしてぐったりとしている銀時はもう食べれないと首を横に振る。
結局ほんの僅かしか食べれず、せめて水分補給だけでもと昼に買ってきたスポーツドリンクを飲ませた。
ついでに汗も掻いていたので身体を拭いてから新しい寝間着に着替えてもらい布団に寝せる。
触れた身体が熱い。試しに体温計で熱を計ってみると夕方に計ったときよりも熱が上がっていた。

「汗も掻いてたし、脱水症状かもしれない…ちょっとお登勢さんに相談してくるから銀さんのこと見ててくれる?」
「わかったアル」

和室を出る直前、神楽が「銀ちゃん大丈夫アルか?」と心配そうに問いかけていたが、銀時自身は高熱で意識が朦朧としているのか、残念ながら彼から返事は返ってこなかった。
もしかしたら思った以上に酷い状態かもしれない。
新八は急いで階段を駆け降り、お登勢が居るであろうスナックの入口を開けた。

「お登勢さん!」

勢い良く入ってきた新八に客が驚き一斉に振り向く。カウンターで馴染み客の接待をしていたお登勢が「どうしたんだい?」といきなり入ってきた新八に怪訝な眼差しを向ける。
客の目を気にして銀時のことをなかなか話せずに居ると、そんな新八の心情を察してくれたのか、お登勢はキャサリンとタマに接客を頼むとそのままスナックの外に出てくれた。

「……それで、何があったんだい?」
「あの、銀さんが…」

お昼に熱中症で倒れたこと、医者に診てもらって夕方頃まで点滴をしていたこと、現在高熱で意識が朦朧としており、また多量の発汗もあることをお登勢に伝えた。
新八の話を聞いて表情を険しくさせたお登勢が足早に万事屋へと続く階段を上がる。

「銀ちゃん!銀ちゃん!」

万事屋に入ると共に銀時の名前を必死に呼ぶ神楽の声が聞こえてきた。
お登勢を呼びに行っている間に何かあったのだろうか。
慌てて和室に駆け込むと今にも泣きそうな表情をした神楽が銀時の背中を撫でていた。
背中を丸めて苦しげに咳き込んでいる銀時の口元には少量の嘔吐物があった。恐らくはさっき食べたお粥とスポーツドリンクだろう。

「……相当重症みたいだね」

水分の摂取すら出来ないとなるとこのままでは銀時の命が危うい。
お登勢に救急車を呼ぶように言われ、急いで事務机にある電話をつかむ。
しどろもどろになりながらも何とか救急車の要請をして和室に戻るとお登勢が銀時の前に膝をつき、朦朧としている彼に呼び掛けていた。

「銀時、わかるかい?」

辛うじて声は聞こえてるようで、瞼の間から薄らと覗く紅い瞳がゆっくりと動く。しかし、瞳の焦点は合っておらず、目の前に座っているはずのお登勢を認識出来ずに通りすぎる。
一際大きくえずいた銀時が更に少量の液体を吐き出した。
荒い呼吸を繰り返す銀時の背に触れると予想以上に熱くて驚いた。
それから少しして救急車が到着し、銀時は近くの病院に救急搬送された。









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