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2010 マグロ R-15

 鍵をかける程ではないですが、それなりにやらしい感じです。
 なので一応R-15

 それでは16歳以上の方はどうぞ。


















「ずるい」
「何がだ?」

 あんたは自分の好きな時に俺にキス出来るのに、俺は、めい一杯背伸びしても、つま先立ちしても、あんたに届かない。不意打ちだって出来やしない。
 そう言うとマグナスは呆れたような視線をよこすけど、俺にとっては今すぐにでも是正したい、重要な問題なのだ。

「マグナス」

 じれて名前を呼ぶと、マグナスはくつくつと小さく声を出して笑った(だだしその笑みは優しいそれでなく、随分と意地の悪いものだった)(押し寄せる嫌な予感に、我知らず口がへの字に曲がる)。

「ロディマス」
「…う」

 とても優しい声音なのに、悲しいかな。今までの経験から、こういう時のあんたは、ちっとも優しくない事を俺は知っていた。すっと伸ばされた手が俺の頬を撫で、親指の腹で唇の形を何度もなぞる。

「んっ、ぐ」

 唐突にその親指が口内に押し込まれ(予想はしていたけどやっぱり驚いた)反射的に舌で押し出そうとする。でもあんたはそんな事はお構い無しに、舌の付け根を弄ったり、上顎の形を確かめるように爪でなぞり、好きに指を動かす。
 息苦しさや自尊心から、最初は抵抗していたけど、指が二本三本と増えるにつれ、口内で響く水音や今までの情事の記憶が相まって、何時の間にか頭がぼーっとして来て、気付けば自分から舌を絡めて指を吸い上げていた。

「まぁふなふ?(マグナス?)」

 口内を弄る手は休めないまま、空いている方の手が俺の右手首を掴む。俺が疑問の声をあげると、マグナスは跪き、絵本の中の騎士がするみたいに俺の手の甲に唇を落として(どうせなら口にして欲しかった)おもむろにその人差し指を口に運んだ。

「ふぇ?」

 ちゅ、という小さなリップ音が、ちゅぱちゅぱという音に変わり、俺の指先がゆっくり口内に含まれていく。温かくぬるつくオイルを絡めるように、舌で舐められ、歯を立てないよう丁寧に甘噛みされる。
 くぐもった吐息は熱くて、人差し指から中指、薬指と指が増えるにつれ狭くなる口内で、柔らかい舌が蠢き、時折歯が関節を掠め、飲み込めないオイルが唇を艶やかに光らせ、口の端から垂れていった。

 うわ…何と言うか、エロい。

 情事の最中は恥ずかしくて(あといろいろいっぱいいっぱいで)、ちゃんと見た事は無かったけど、俺のを口淫してる時もこんな顔してるのかな。あの堅物で、仏頂面を絵に描いたようなあんたが、卑猥な水音を立てながら、口いっぱいに俺の…をくわえて…

 駄目だ、考えただけで頭がオーバーヒートしそうになる。スパークの鼓動が早鐘を打つように激しくなり、先よりも機体温が上昇したのを自覚してしまう。
 ばちり、マグナスと目が合った。跪いてようやく俺より少し低くなる目線。貴重な上目使いにもスパークがきゅんとなる。

「ぷはっ……ぁ…」

 不意に指が引き抜かれ、口腔が解放された。急な喪失感にぼうと惚けた頭のまま、離れる指先を未練がましく視線で追う。続いて右手もマグナスの口から解放され、てらてらと艶めかしく光るオイルで、つうと舌先と中指の間に銀糸がかかる。が、それも一瞬、ふつりと音も無く途切れ、ますますもの淋しくなった。

「…マス…ロディマス」
「!…え、何だ?」

 何度か呼び掛けられていた事にようやく気付き、慌てて返事をすると、その様子が可笑しかったのか、マグナスからクスリと笑みが漏れる。
 情事の最中に垣間見えた普段の顔。でもその口端から顎の先にかけて光る、オイルがつたい落ちた跡が、否応なく先までの行為を(そして自分の妄想を)思い起こさせ、気恥ずかしさにぷいと目を反らすと、またクスクスと笑われてしまった。

「そうむくれるな」
「むくれてなんかないさ」
「そら、またむくれた」

 ちがう、俺はむくれてなんかない。
 あんたがそんな顔してるのが悪いんだ。

 小さく肩を竦める気配と共に、マグナスが再び俺の右手首をとる。かと思うと、勢い良く腕を引かれ、突然の事にバランスを崩してつんのめった身体は、引き寄せられるままにマグナスの腕の中に収まっていた。

「っ!あんたいきなり何を−−」

 俺が真っ当な抗議を最後まで紡ぐ前に、顎を掴まれ無理やり口が塞がれる。他でもないマグナスの唇で。俺の声も、吐息も、口内のオイルさえ、飲み込まれて、かき混ぜられて、混じり合って、どちらのものか判らなくなる。

 ウルトラマグナス。やっぱりあんたはずるい。俺だってこんなふうに、あんたにキスして驚かせてみたい




「…いじわる」
「こんな事をするのはおたくにだけだ」



 そうして今夜も君に溺れる。

デザインかえてみた

 デ軍イメージのテンプレそのA

もうすぐ春なので心機一転!…出来てないな(^^;)

見づらいとか、リンク消えてるんですけどー。とか不備がありましたらご一報くださると有り難いです。



添付写真に意味はありません。

AHM ドリ→パ

リーフアクアリウム

「パーセプター殿、茶を淹れたのでござるが…」
「ああ、そこに置いておいてくれ」

 パーセプターは顕微鏡にトランスフォームしたまま、返事もそこそこに、眼前の水槽から目(というかレンズ?)を離そうとしない。その姿に、ああと内心だけのつもりだったため息が深々と吐き出される。が、彼がそれに頓着する様子は無かった。
 科学者としての彼は、仕事熱心の後に、必ず"過ぎる"という文字が続く位には仕事熱心で…まあ真面目なのは構わないのだが、寝食を忘れる程に没頭して、己を省みないのは如何なものかと思う。しかもそれをブラーやカップに話したら、それが彼のデフォルトなのだと聞いて、驚きを通り越して脱力した。
 今彼の部屋は、これほどの量をいったいどこからかき集めたのか、実験機材やら書籍(しかもかさばる紙媒体のだ)やらで、散らかっているなどという言葉では到底言い表せない程に混沌としている。今日部屋を覗き込んだ瞬間、正直引いた。初めて彼の部屋に来たときも相当な汚部屋状態だったが、今回はそれ以上かもしれない。しかも、せめてベッドに辿り着く道位は…。と片付けようとしたら、勝手に資料を移動させるなと怒られた。解せぬ。
 口をつける前に冷めてしまうのだろうなあ。と少し残念に思いながら、温かい湯気のたつマグカップを水槽の端に置き、自分の分の茶を湯呑み茶碗からすする。ちょっと背伸びをして水槽を覗き込んでみるも、彼が先から観察している岩…ではなく珊瑚は、一応は生物らしいのだが先からぴくりとも動く気配を見せない。


「いったい何を見ているのでござるか?」
「珊瑚虫が骨格を形成する過程だ」
「…拙者には岩しか見えぬのだが」
「だろうな。今私が観察しているのは、宝石になる珊瑚とは別の、人間達が造礁サンゴと呼ぶ種類で、珊瑚礁を形成する個体のことだ。石灰質の大規模な骨格を形成するのが特徴で、ドリフトが岩と言ったのは珊瑚の本体ではなく骨格の方だな。珊瑚の本体は骨格の表面にいるイソギンチャクに似たポリプ生物で触手があり、そこに刺胞という、中に毒針が収められた袋を備えている。それが他の生物…餌とするプランクトンや外敵などに触れると、収められた針が飛び出して毒を…」

 なるほどわからん。

 10秒でちんぷんかんぷんになり興味を失った自分を余所に、彼はとつとつと珊瑚について語り続けている。止めるべきか否か一瞬迷うが、口を挟む余地も無かったのでとりあえず黙って聞くことにした。

(それにしても綺麗な物だ)

 研究用故か魚の姿こそ見えないが、みなもに揺らめき、和らげられた光の中で、ある者は樹木のように、ある者は台座のように、団扇のように、一見岩の塊にしか見えぬ生物が密かに息づき、佇む様は、観賞用と比べてもなんら劣る所など無く美しかった。
 彼の話は、いつしか珊瑚そのものから、珊瑚礁とその生態系についてに変わっていた。チョウチョウウオ、イソギンチャク、カクレクマノミ、ヤドカリ、ハリセンボン、アオウミウシ、ウミガメ、ヒトデ…残念ながら、名前をきいてもその生き物達の姿形はとんと思い浮かばない。しかし、限られた水槽の中でさえこれほど美しいのだから、本物の珊瑚礁はどれほどなのだろう(もし、彼をそこに連れて行ったら喜ぶだろうか)と心が浮き立つ。しかしその数秒後には、サンプル採取や整体観察に夢中になる彼の後ろで所在無さげにしている(そう、まさに今のようにだ)自分の姿が思い浮かんで、ちょっぴり落ち込んだ。

「パーセプター殿」

 少しは休んだ方がいい。と控え目な声量で彼の名前を呼ぶ。しかし彼は、やはり顕微鏡姿のまま動こうとはしなかったので、また少し落ち込んだ。



一緒にいられるだけで幸せ
嘘じゃ
ないよ。
でもね、

MTMTE マグロ+ドリパ VD 後編

 独りごちていると、ロディマスがめい一杯爪先立ちをして、首に腕を回してくる。膝を折ってやると満足そうに頭に抱き付き、頬を擦り付けてまた笑った。

「プレゼント、開けてみてくれ」

 促されるままに箱を開けると、中にはこれまた自分には不釣り合いなほどに可愛らしい、ハート型のチョコクランチが詰まっていた。

「どうぞ召し上がれ」

 腕を外して目線を合わせ、なんなら俺も食べていいけど。と悪戯っぽく笑うロディマスは、もう例えようもなく可愛くて愛しくて。マグナスはチョコを一つ口に含むと、再び恋人に口付けた。


* * *



 はぁ…と深いため息をついて、ドリフトは扉の前で途方にくれる。

「パーセプター殿、開けてくだされ」

 コツコツと控え目にノックをし反応を待つ、そして返ってこない返事にまたため息をついた。個人回線にコールしてみるが、そちらも反応無し。

「パーセプター」

 地球にいたころこそ2人は朝起きて夜に寝るという生活をしていたが、もとが昼夜の区別の無いセイバートンの生まれだ。休息を必要とする時は、それこそ丸1日寝る時もあるのだ。しかもパーセプターは研究に打ち込んでいる時は、平気で何日も稼働したままでいる事も珍しくない。
 どうかバレンタインであるうちに起きて来てくれ、半ば祈るような心持ちでドリフトは手の中の箱を撫でた。

「パーセプター」

 コツコツ、小さくノックをする。

 何度めかのコールが徒労に終わり、ドリフトはふと、もしや自分は避けられているのだろうかという思いに捕らわれた。
 何時もなら、自分が連絡を入れたらすぐ返事が返ってくるか、返事が行えない旨を示すアナウンスが流れるのに、今日はそれすらない。
 何か、怒らせるような事をしただろうか?しかしそもそも、最近自分はパーセプターと接触していない筈…と、そこまで考えて、ドリフトは背筋にヒヤリとするものを感じた。
 考えてみれはここしばらく、忙しさにかまけてパーセプターとロクに口もきいていなかった。ラウンジでちらっと目があった時も、今は忙しいからと会釈だけしてさっさと仕事に戻っていた。
 しかしパーセプターも、そこは汲み取ってくれるだろう。と勝手に思い込んでいたのだが、もしかしたらそれは、大変な思い違いだったのではなかろうか。

 地球にいたころ、自分な何かとパーセプターにくっ付いていた。パーセプターの側にいるのが日常だったと言っても過言ではない。お節介だと自分でもわかっていたが、パーセプターはそんな自分を、いつだって優しく受け入れてくれた。一人でいると不安で仕方がなかったし、何よりあの頃の自分は“良い子"でいたかったから、受け入れてもらう事で安心していた。依存していたと言い換えてもいい。
 なのに自分ときたら、気づけば自分が忙しくなったからといって、何かと言い訳をし彼をほったらかしにしていたのだ。

「嫌われたかな」

 冗談のつもりで呟いた言葉が、口にしたことでにわかに現実味を帯び、ひたと背後に忍び寄って来た。

 寂しい
 淋しい
 独りは嫌だ。

 馴染み深い感覚が久方ぶりに蘇る。

 自分は、パーセプターに、同じ思いをさせてしまったのだろうか。

 後悔先に立たずとはよく言ったものだ。と自嘲しながら、ゴツ、と扉に額をぶつける。再度コールをするが、やはり繋がらない。よほど深く寝入っているか、それとも本当に避けられているのか。

「パーセプター、頼むから開けてくれ」

 ドリフトの祈るような言葉は、静かな船内の空気に溶けて消えていった。


* * *



 体内のアラームで目が覚め、パーセプターはもぞもぞと毛布から顔を出す。時刻を確認すると既に昼近く、自分にしては珍しい事に10時間ほども眠っていたらしい。

「ふあ…」

 小さく欠伸をして身体を起こし、うんと背伸びをした所で、個人回線の履歴に気がついた。しかも複数回。ああやってしまったと思いながら確認すると、それは全てドリフトからだった。途端にパーセプターのスパークが跳ね、慌てて返事をしようとするが、少し考えて思い直す。最終着歴が五時間も前だし、昼近いなら食堂に行けば会えるだろう。
 そうと決まれば善は急げ、扉を開き大急ぎで外に出ようとして…思い切り誰かと正面衝突(肩をぶつけるなんて可愛いものではない)。

「うわぁっ!?」

そしてパーセプターは、昨日のウルトラマグナスのように相手を支える事など出来ず、偶然扉の前にいた誰かは、パーセプターに下敷きにされる形でガシャンと派手に転倒する事となった。

「痛っ〜…!!っすまない、急いでいたんだ!どこか怪我は…」
「パーセプター…」

 急いで相手に詫びて顔を上げ、パーセプターは思い切り目を見開く。

「っドリフト!?」

 自分が下敷きにした相手は、他でもない…今まさに探し求めようとしていたドリフトだったからだ。
 よほど面食らったのか(無理も無いが)ドリフトは微動だにせず、眼前のパーセプターと同じく、目をまん丸にしてぽかんと尻餅をついている。

「あ…」

 パーセプターは久方ぶりに焦っていた。いやむしろパニックになっていると言っても過言ではない。彼が怪我をしていないかというのだけではなく、今の今までほったらかしにしておいて急に何だとか、最近ロディマスとばかり(この時点でパーセプターの頭からウルトラマグナスの事はすっかり忘れ去られている)一緒にいるんだなとか、事故とはいえ、暫くぶりに恋人と触れ合っている。という事実が、全部ぐちゃぐちゃになってパーセプターの中を駆け巡っていた。

「……」
「……」

 数秒の沈黙。それは長いのか短いのかよくわからなかったけれど、辛うじてパニックから脱したパーセプターが、大慌てでドリフトの上から退こうとする。しかし

「え…っ!?」

 いつの間にやら手を伸ばしていたドリフトが、自分の腰を掴んで、思い切り抱き締めてきた為、それは失敗に終わった。
 突然の抱擁に再びパニックになり、わたわたと身体を離そうとするが、近接戦闘を得意とする彼の腕力にはかなわず。逃がさぬとばかりに力が込められた腕に、しっかりつなぎ止められてしまった。

「ド、ドリフト?」

 触れ合う個所から鼓動が聞こえてしまうんじゃないかというくらい、スパークがバクバクいっている。迫る端正な顔に思わずぎゅっと目をつむるが、予想に反して彼の顔は自分の顔の横を通り過ぎ、のっしと右肩に顎が乗せられた。ホッとしたような、少し残念だったような複雑な心持ちでいると、耳元でドリフトが何事か呟く。

「…ぃに…ったか」
「なんだって?」

 混乱状態の上、囁きに近い声量だったそれをパーセプターは上手く聞き取れず、ドリフトに聞き返す。彼は暫く黙っていたが、耳元に鼻先を擦り付ける仕草をしてから、再び口を開いた。

「俺の事、嫌いになったか?」
「…は?」

 瞬時に頭が冷える。

 今、ドリフトは何と言った?

 言葉の意味を飲み込むのには数秒の間を要したが、答えが出てくるのは一瞬だった。

「何を馬鹿な」

 だってそんなこと、考えもしなかったから。確かにロディマスに嫉妬もしたし、出航してからというもの、すれ違ってばかりの生活に、大いに不満を持っていた。だが、どうでもいい相手の為に嫉妬したり、怒ったりするだろうか。それらは負の感情ではあるが、それは好きな相手が、自分の思うようにならないからこそ生まれるものだ。

「何故そんな思い違いをしたのか知らないが、私はお前さんを…ドリフトを嫌いになったりしない」
「……」

 そうはっきり告げると、ドリフトの腕の力が徐々に緩められ、右肩の重みがふっと消えた。おずおずと合わせられる視線は、「ごめんなさい」と言っているように見えて、いっそかわいそうなくらいのそれに、完全に毒気を抜かれてしまう。

「わかったか?ドリフト」
「……」
「ほら返事は?」
「…わかった」

 その声のか細い事と言ったら!前夜の苛々など、もうどうでも良くなってしまって(あんなに酷く胸にわだかまっていたのにだ)思わず苦笑いを浮かべてしまう。地球では“先に惚れた方が負け"という文句があったが、あれはこういう事なのだろうか。

「ああそうだ、所でお前さんは、私に何の用事があるんだい?何度もコールがあったようだが」

 昨夜は気付かずすまなかった。と一言添えて首を傾げて見せると、ドリフトは事の経緯を話し始めた。

「昨日キッチンに行ったら、ロディマスがウルトラマグナスに、バレンタインのプレゼントをするんだと菓子を作っていたんだ」
「バレンタイン…地球のイベントか。ロディマスらしいな」
「でも余りに出来が酷…作るのに難儀してたから、手伝ってやったんだ」
「…それもまたロディマスらしいな」

 ドリフトは基本的に、他人がやることにあれこれ口出しする事はしないので、恐らく…うん、相当だったのだろう。船のNo.2が倒れるような事態を、No.3として見過ごす訳には行かなかったのか。そう1人納得していると、ドリフトは自身の格納スペースから、赤い包装紙に黒いリボンでラッピングを施された箱を取り出した。

「その後俺も、その…パーセプターに作ったんだ。バレンタインのプレゼントを」
「え…」
「だから…これは、あんたのものだ」

 ぽす。
 軽い音と共に手渡された小箱からは、ふわり甘い香りがした。すぐに開けてしまうのは勿体無い気がして、まじまじと手の中のそれを眺めてある事に気付く。

「もしかしてこのラッピングの配色は、私をイメージしてくれたのかな」
「っ…ああ」

 あ、照れた。
 普段は端正と言って差し支え無いドリフトの顔が、不意の出来事に戸惑う様を、可愛いと表現したらお前さんは嫌がるだろうか。

「ありがとう。とても嬉しいよ」



三月の風と四月のにわか雨とが五月の花をもたらす。
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MTMTE マグロ+ドリパ VD 前編

「…あれ?」

 ゴムベラを片手にロディマスが首を傾げる。視線の先にあるのはステンレス製のボウルにへばりついた“元“チョコレート。火加減を誤り、底が黒く焦げついたそれをゴムベラの柄でガンガンと叩きこそげ落とそうとするが、ガチガチに固まったそれは、容易に落ちそうになかった。

「うーん…」

 唸りながらとりあえずボウルを下ろし、ガスコンロに火をつける。そして

「待たれよ。ロディマス殿」

 たまりかねたドリフトがロディマスを制し、ガスコンロの火を消した。頭上に?を浮かべるロディマスに冷や汗が出るのを感じながら、ドリフトが口を開く。

「湯を張って重曹を溶かし、一時間程置いておけば焦げ付きが剥がれ易くなるはずにござる」
「…どこにある?」
「右の引き出しの一番下」

 もとはと言えばドリフトは、夜半に小腹がすいた為、何か軽食でも…と船のキッチンにやってきたのだった。そこで大量のチョコレートを抱えたロディマスと鉢合わせ、彼が手料理など珍しい事もあるものだ。と好奇心と共に微笑ましい気持ちで作業を見守っていたのだが、このままでは確実に被害が出る…具体的には、ウルトラマグナスが腹痛でリペアルームに担ぎ込まれるであろう嫌な予感に、とうとう待ったをかけてしまった。

「なあドリフト」
「なんでござるか」
「これなんとかして食べれないかな」
「…それは無理と言うものにござる」

 油分とカカオが分離し、テラテラとした光沢を放つコレは既に、甘苦く焦げ付いた匂いのする“名状しがたいチョコレートのようなもの“と化している。

「はあ…」

 思わず漏れたため息に、ロディマスがシュンとなる。その子犬が耳をと尻尾を垂れさせているような姿に、ドリフトが幾ばくかの憐れみを感じたのは確かだが、それを差し引いてもコレは無い。絶対無い。
 ドリフトは頭部に軽い疼痛を覚えながら、さてこの状況にどうやって埒を明けるべきかと、今度は心中でひっそりため息をついた。


* * *



「そもそも如何なる理由があって手作りチョコを?」

 いったいどこから用意したのか(そしてどうやって着付けたのか)割烹着を装備したドリフトが、ざくざくと手際よく板チョコを刻みながら問いかける。
 ロディマスはと言えば、彼の向かいでドライフルーツとナッツをこれまたざくざくと…まな板の上からこぼしながら刻んでいた。

「何故も何も、明日はバレンタインだからさ」

 バレンタイン?と不思議そうな顔をするドリフトにロディマスは少々驚きながらも(彼は比較的地球人の風習や文化に興味がある方だったから)ふむ、と少し考えて、なるべく分かりやすいように説明を試みる。

「バレンタインっていうのは地球の祭日さ、自分の愛する人…妻や夫、あるいは恋人に贈り物をする日なんだ。想い人に愛の告白をするっていうパターンもある。もうちょっと気軽に友達や家族でプレゼントを贈る事もあるみたいだけど、基本的には恋人同士の日だよ」
「成る程、それでウルトラマグナスへ」

 言う前に相手を言い当てられ、気恥ずかしいようなむず痒いような…いややっぱり嬉しいな。彼の目から自分達は、ちゃんと恋人同士に見えるのか。

「君も、パーセプターに何かプレゼントしたらどうだい、材料なら提供するよ」

 意趣返しに彼の恋人の名を口にすれば、その目元がふと柔らかくなる。

「……ふふ、それは良き考えにござる。ならば有り難く頂戴するとしよう」

 はにかむような微笑みと共に、チョコを刻むスピードが少し早くなった。コホンとひとつ咳払いをして、彼は手元に集中しだしたけれど、その顔には何時もとは違う穏やかさがあって、頭の中を覗かなくたって、彼がパーセプターの事を考えてるってすぐにわかった。

「喜んでくれるといいな」
「そうでござるな」


* * *



 彼は不機嫌だった。
 のしのしと、床を踏み抜いてしまうのではないかと危惧してしまうような歩き方は、普段の理知的で厳格な姿からは想像もつかない。その如何にも頼りがいのある大柄な体躯も、今ばかりは近寄りがたい原因でしかなかった。

「うわっ!」
「っ!…すまない、大丈夫か」

 挙げ句、向こうから歩いて来たパーセプターに気付かず、肩を思い切りぶつけてしまった。尻餅をつき掛けた彼をとっさに支え、慌てて非礼を詫びる。

「ああ、おかげさまで大したことは無い。しかし君ともあろう者が、いったいどうしたんだ?」

 もしかしてまたロディマスかい?その的確すぎる言葉に、またとは何だとウルトラマグナスは思わず苦笑するが、実際ロディマスが理由なのだからあまり笑えない。自然眉間のシワが深くなり、ため息を漏らしていた。
「何か、重大事でもあるのか?」

 渋面を作って黙り込むマグナスを見て、パーセプターが僅かに居住まいを正す。

「いや、船の運航に滞りは無い」
「…差し出がましいようだが、とても滞りないという顔には見えないぞ」

 その表情は変わらずとも、声に含まれる気遣わしげな雰囲気に気付かぬほどマグナスは鈍くない。重大事どころか私事でパーセプターを心配させてしまったのを胸中で恥じつつ、隠すほどでも無いと不機嫌の理由を話す事にした。

「いや、ついさっきロディマスに訳も解らず追い返されてしまってな」
「え?」
「ちょっとした報告があって…まあ別段急ぎの案件ではなかったのだが、早目に越した事はないとロディマスを探していたんだ。反応を探したらキッチンにいたから、夜食でもつまんでいるのかと思ったんだが、妙に帰りが遅くてな、様子を見に行ったんだ。中を覗けば案の定ドリフトと何か調理をしていて、一声かけようとした瞬間、ロディマスが取り乱した様子でこちらに向かって来たと思ったら、「わーっ!、まだ秘密なんだ!」と言いながら扉の外に追い出されてしまって、おまけに鍵まで掛けられてしまってな…全く、突拍子も無い行動には慣れたつもりだったんだが…」

 そこまで言葉を続けた所で、ふとウルトラマグナスはパーセプターの様子がおかしい事に気付いた。
 彼の反応が無い。

「パーセプター?」

 どうしたのかと背を屈めてパーセプターの顔を覗き込み……ギョッとして思わず後退った。

 完全に目が据わっている。

 それどころか、怒気というか不機嫌が視認出来るのではないかというほど、彼の体から滲み出ており、先の自分の数十倍は近寄りがたい空気を纏っていた。

「そうか…ドリフトとロディマスが…」

 そのかすかな呟きにマグナスははっと思い出す。一部の口さがない者、というかゴシップ好きが立てた噂の中に「ロディマスとドリフトが付き合っているらしい」というものがあるのを。
 勿論その噂はガセであり(それに万一ロディマスに手を出そうものなら容赦なく船から叩き出してやる)当のドリフトは根も葉もないそれに顔をしかめていたが、どうやらパーセプターはそうではなかったらしい。

「二人で料理をしていただけだぞ」

 いらぬ火種を撒いてしまった事に、マグナスは冷や汗を流し、慌てて弁護するが、果たして彼の耳に届いているのだろうか。

「何も、問題ないようだな」
「あ…ああ…」

 歴戦の勇であるマグナスすら怯ませるに充分な負のオーラを背負いながら、パーセプターはくるりと背を向け、スタスタと…いやのしのしと、それこそ床を踏み抜きそうな勢いで歩いて去って行く。
 それを眺めながらマグナスは、あとで彼に2・3日程休みを作ってやろう、そうしよう。と心中でドリフトに謝り倒した。


* * *



 イライラする。
 ムカムカする。

 気の遠くなる年月を経て、やっと戦と関係のない研究を好きにしているはずなのに、全く集中出来ない。

 じりじりと胸中を焦がすのは白い機体。
 悋気を起こしている自覚はあった。
 そしてそれが杞憂であろう事も。
 わかっているのに押さえられない、心だけが空回りして、曖昧模糊とした重苦しさだけが胸の中に溜まっていく。
 今のドリフトの立場を鑑みれば、共有する時間の多い彼らが仲良くなるのも不思議は無いし、仲良くするのになんら不都合な事は無い。
 かつてに比べて、客観的に見ても彼の仕事量は増えている。不慣れな事も多いだろう。現に最近の彼は何時も忙しそうにしている。要領よく仕事をこなし、上手い具合に時間を作れるようになるには、まだ経験が必要なのだろう。

 そう、何も悪い事なんて、無い。
 彼は何も悪くない。

 何百何十回も、自身に言い聞かせるように同じ答えを繰り返す。でも

「ドリフト」

 私がこんなに苦々しい思いをしているのは、絶対に彼のせいだ。
 鬱屈した気持ちのまま、だらだらと時ばかりが過ぎていき、とうとうパーセプターは今夜の作業を断念した。どうせ何に急かされる訳でもない、もう寝てしまおう。
 扉の表示を就寝中に切り替え、鍵を掛けて部屋の灯りを消して寝台に倒れ込む。毛布を掴んでひっかぶり、身体を丸めれば、スプリングがぎしと鈍い音を立てた。

「ドリフトの馬鹿」

 寝台が何時もより広く、寒々しく感じるのもきっと、彼のせいだ。


* * *



 彼は喜んでくれるかな。
 きっと喜んでくれるはずだ。

「おーい、ウルトラマグナス。扉を開けてくれ」

 コンコンコンコンコンコン…ロディマスがひたすら扉をノックし続けていると。数十秒程してプシュ、と軽い音がして扉が開いた。

「お邪魔させてもらうぞ」
「…おたくは就寝中の表示が見えなかったのか?」

 元気溌剌といった様子のロディマスとは対照的に、寝ている所を叩き起こされたウルトラマグナスは少々気怠げだ。

「人を追い出したり飛び込んで来たり、いったい何なんだ」
「あー、うん。まあ立ち話も何だし取り敢えず中に入れてくれ!」

 それはそうだが、それはあんたじゃなく部屋の主が言うべき台詞だろう。と思いながらも、勝手知ったるとばかりに収納式のテーブルと椅子を引っ張り出す朱色に、マグナスはまあいいか…と諦め、もとい許容する事にして、自身も部屋に戻った。

「それで?何の用だ」
「うん…えーとさ…」

 根が闊達で、はきはきと喋る質のロディマスが珍しく言いよどむ姿に、マグナスが怪訝な顔をする。うつむき加減の表情は少し不安げで…それでいて何か楽しい事があるのを待ちきれない、そんな雰囲気に、どうするべきか少し迷う。

「…マグナス」

 ロディマスがゆっくり息を吐きながら瞳を閉じ、そして意を決したように目を見開いてマグナスを見上げる。一拍置いてマグナスの目の前に突き出されたのは、何とも可愛らしいピンク色の包装紙でラッピングされた箱だった。ご丁寧にオレンジ色のリボンまで掛けられている。思いもよらぬそれに柄にもなくきょとんとしていると「ん!」と箱を近づけられ、受け取れという意味だと解釈し、それを手に取る。

「コレは…」

 気づけば箱からはふわりと甘い香りが漂っていて、なかみは菓子であろうと推測出来た。

「ウルトラマグナス!」

 先とは打って変わって弾むような声で、ロディマスが名前を呼ぶ。マグナスが再度顔を向けると、そこには満面の笑みで彩られたロディマスがいた。

「俺はあんたが大好きだ。愛してる!」

 数秒の思考停止の後、気づけばマグナスは愛しい愛しい恋人を腕の中に抱きしめていた。言いたい事は幾つかあったが、それよりも今優先すべきは言葉でなかった。

「ロディマス」

 開き掛けた唇に自身の唇を押し当て、ちゅ、ちゅ、と二・三度軽くはむように口付ける。触れ合う唇が緩く孤を描くのを感じながら舌を差し入れると、ロディマスも積極的に舌を差し出し、絡めたり吸い付いたりと、二人は情事の時のように濃い口付けを交わした。

「ふふっ」
「何だ」
「バレンタインっていいなって」

 バレンタイン…そうか、成る程な。
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